- 第四章 -
〜鳴らない鐘の音〜
部屋へ戻った雄也は、机の上に置きっぱなしだった携帯電話に着信履歴が5件と、『至急連絡されたし』のメールが入っているのに気付いて茜に連絡を入れた。
『なーにやってたんだい。』
「すまない。少し買い物に出てたんで、電話は置いていったんだ。」
『持ち歩かなけりゃ携帯電話の意味がないだろう?』
「あまり自分の位置を特定出来るものを身に着けていたくないんだ。」
携帯電話にはGPS機能が付いており、それを手繰られて居場所を特定されるのを嫌ったのだ。
『それなら心配ない。あんたはゴーストにされちまったよ。』
「組織は、俺の処分を諦めたのか?」
『あぁ、あんたはすでに組織に殺されたと正式に通達が出たよ。』
「なぜ?」
『さあねぇ…。詳しいところはハッキリとしない。だけどあんたを追うものはいなくなったってことさね。 それに…』
「それに?」
『考えてもみな。誰があんたを仕留められるってのさ?』
言って茜は豪快に笑った。
『あえてあんたを相手に手ごまを減らすよりは、放逐した方が得だと考えたんだろうさ。 だけど、そっちのお嬢ちゃんはちがう。』
「奴らはなぜ美咲を狙う?」
『いつものつまらない理由さね。 ええと、たしかプロフが届いてたねぇ。』
電話口でガサゴソと物色する音が聞こえてきた。
『あったあった。東雲美咲、23歳女性。 職業結婚暦共にナシ。 6歳の頃に自動車事故で両親を失い、自身も両目を損傷。』
雄也は聞き捨てならない事を聞いた気がした。
「23…歳?」
『気になるところはそこかい? あんたよりも年上だねぇ。』
茜のニヤニヤする気配は電話越しにもよくわかった。