「なにがちょうどいいのか判らないが…。」
『年上の女房は金のわらじを履いてでも探せっていうだろ?』
雄也は眩暈がした。
このまま行くと話しが変なほうにそれてしまう気がして無理やり話を戻そうとする。
「そんな事より、先を続けてくれ。」
『そんな事が一番重要なんだけど、まぁいいさね。 この嬢ちゃんの狙われる理由だったね。』
「ああ。」
『その嬢ちゃんは、そこの元神父さんの遺産を受け継ぐ事になっているのさ。』
「なるほど、つまらない理由だな。 遺産とは金か?」
『いや、彼女に入ってくる金はたかが知れてるのさ。その教会とせいぜい孤児たちが自分で稼げるようになるまでは不自由はしないって程度さね。 ましてそんな物なら嬢ちゃんは相続を断るだけで話は収まっちまう。』
「じゃあなぜ、彼女は狙われる?」
『その神父さんは、もともとかなりの事業家でね、多くの会社を持ってたんだがその利益の一部を慈善事業へと寄付していたのさ。 りっぱな神父様じゃないか。』
「それが彼女とどう繋がるんだ?」
『神父さんが死んで会社はようやく一部とはいえ莫大な利益を無駄にしなくて済むと思った矢先に、その寄付の継続を嬢ちゃんに委任する正式な書類が出てきちまったのさ。』
「それで彼女が継続を望むのを不服とする連中が今回の仕事の依頼主ってわけか。 …しかし、なぜ神父が死んでから三年のタイムラグがあるんだ?」
『裁判さね。何も連中だって最初から危ない橋を渡るつもりなんてなかったのさ。勝てるつもりでもいたしね。ところが、善行は世間に受け入れられやすい。最終的に神父の意思と正式な書類が認められ、嬢ちゃんに正式に委任されることになったわけさ。』
(それであの時、彼女は裁判所にいたのか…。)
『仕事を持ちかけたのは組織の方からだったみたいだねぇ。 涙ぐましい営業努力じゃないか。 それが失敗してしまい、信用回復の為になんとしても嬢ちゃんには消えてもらわなければって事さね。』
「わかった。決行についての情報は?」
『決行は明晩。アタッカー、ストッパー、ランナーの組み合わせで強盗を装うらしい。すでに潜伏してるから早く連絡が取りたかったんだよ。』
「今日ターミナルビルでわざわざ警告を送ってくれたよ。」
『ハッ!あんたと知って警告をするなんざ、よほどのバカか自信家なんだろうさ。』
雄也は見えないと分かりつつも肩をすくめた。
『くれぐれもぬかるんじゃないよ? それと、事が済んだら連絡を入れる事。 でなけりゃ今後、情報提供はなしだ。わかったね?』
「ああ、わかった。」
雄也は短く礼を述べて電話を置いた。
(企業体が相手では脅しの効果は望めないな…。)
依頼主が一人なら脅して手を引かせるという手もある。
暗殺は雄也の本業だったのだから。
だが、相手が複数になると脅し程度ではなかなか折れないのだ。
(地道に来た連中を追っ払うしかないか…。)
雄也はため息をついて、体術の手ほどきをするという晃司との約束の為に部屋を出て行った。