小説『アナト -眠り姫のガーディアン-』
作者:那智 真司()

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何度もすっ転ばされた晃司は肩で息をしていた。
雄也の方は息も服装も乱れていないどころか、その肩の上に愛子を乗っけている。

「少し休むか?」

晃司は首を横に振って立ち上がる。
負けん気の強さは学校一というクラスの評判は確かだ。
そして、晃司は無造作に立っている雄也へとまっすぐに飛び込み、力いっぱい打ち込んだ。
雄也は半歩ずれるだけでその拳をかわし、突き出された晃司の肩をトンっと軽く押す。
それだけで自分の突き出した力のままに、晃司はまたもやすっ転んでいった。

「また晃司の負けー!」

肩車されている愛子がきゃっきゃっと喜ぶ。

「くっそー! 雄也さん強すぎ!」

「お前は自分の力で転んでるだけだ。」

「そんな事言ったってさぁ…。」

晃司は唇をとがらせた。
純然たる力の差だけでも、大人と子供じゃ負けるのがあたりまえじゃないかと、その眼が雄弁に語っている。

「いいか晃司、お前は何と戦う事を想定し、何から皆を守ろうと思ってるんだ?」

時間も少し遅めなので、あくびを洩らす愛子を抱っこしてやり、その背中をとんとんとあやしてやる。 愛子は嬉しそうに雄也に抱きつくが、その眼はとろんとしだしていた。 昼間の疲れも溜まっているのだろう。

「それは…、その…。」

「お前と同年代ぐらいが相手なら武器でも持っていないかぎり、傷付けられる事はまずない。」

「…うん。」

「お前や皆を傷つける者は、ほとんどの場合がお前より体格が大きく力の強い大人だ。」

「強盗…とか、そういう事?」

「まぁ、そうだな。そして、そういう敵はお前が力いっぱい殴ったところでダメージを受ける事はほとんどない。例えばお前が愛ちゃんに殴られたとしても、たいして痛くないだろう?」

「うん。」

雄也の真剣味のある物言いに、晃司もいつしか背筋を伸ばして聞き入った。
愛子は名前を出されてハッとしたものの、またすぐにこっくりこっくりと船を漕ぎ出す。

「お前が戦うときは、今の俺とお前のような体格差のある場合が一番想定される。そしてその時、相手は俺のように手加減はしてくれない。 お前はどうやって戦えばいいと思う?」

晃司はしばらく考えるように視線をさまよわせたが、ほどなくして憮然としながら答える。

「…武器を持って戦え …ってこと?」

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