「まずは俺に一発でも当てるにはどうしたらいいかを考える事だ。」
「うん! わかったよ!」
やる気を目一杯漲らせた晃司は元気に「やるぞー!」と拳を硬く握り締めた。
雄也は、今からでも練習再開と意気込む晃司の先手を取る。
「さて、今日はそろそろ終わりにしよう。」
雄也の腕の中ですやすや気持ちよさそうに眠っている愛子を示して見せた。
少し拍子抜けした晃司だが、愛子が眠っているのでは仕方ないのであっさりと練習再開を断念する。
「雄也さんありがとう! 明日もよろしくっ!」
「明日は…、日曜だからお休みだ。」
まじめなんだか冗談なんだか分からない雄也に一瞬きょとんとなる晃司だったが、冗談ならあんまり笑えないなと思ったのは黙っておいてあげることにしたのだった。
◆◇◆
襲撃予定の朝、雄也はジリジリと焦げ付くような感覚をその身に宿していた。
(仕事の日はいつもこうだったな。)
失敗すれば最愛の人は失われるというプレッシャー。誰かも分からない命を奪う事への嫌悪感。それらが交じり合い、雄也の心を波立たせる。
瞳を閉じ、最愛の人の笑顔を思い浮かべる。
その儚い命を守るためだと免罪符を掲げ、自らの心を殺していく。
雄也が暗殺者となる為の、一種のマインドセットだった。
だが、今日はどういう訳か五感の冴え渡っていくような平静さは得られず、ますます苛立ちが募っていく。
(くそっ。今日の敵は暗殺者だ。気の抜けた状態で戦っていい相手じゃない。)
自分と分かってもなお、計画を実行に移そうとする者が、小遣い稼ぎのチンピラ程度であるはずがない。
まちがいなく、訓練を積んだ職業的暗殺者であるはずだ。
そうした相手を前に冷静さを保てなければ、自らが地を舐める事になる。
それが分かっているからこそ、苛立ちはどんどん膨れ上がっていくのだった。
トントン──
「雄君、起きた?」
扉が開かれ美咲が顔を覗かせる。
「おはよう。今、起きたよ。」
「おはよっ。朝食が出来たから呼びに来たの。」
美咲の屈託のない笑顔に、なぜか苛立ちも収まった。が、今は食べる気にならないのでやんわりと断る事にする。