「すまない、少し気分が優れないんだ。もうしばらく休ませてもらっていいかな?」
美咲はそう聞いた途端に心配そうな顔で雄也に近づいた。
「大丈夫?お熱とかない?」
雄也の額に手を当てて雄也の体温を計ろうとする。 少しくすぐったい気もするが、美咲の手から温かさが流れ込んでくるようで、されるがままにした。
「大丈夫だよ。少しだけ疲れてるみたいだから、大人しくしていればすぐに良くなる。」
「そう?じゃあ、後で何か飲む物でも持ってくるね。ちゃんと横になって休んでなきゃダメよ?」
美咲は最後まで気遣わしげに部屋を出て行った。
(俺は美咲を守るために集中しなければならない。)
言い聞かすように再び瞳を閉じてマインドセットをしようと試みるが、やはりうまくいかない。
(もしかして、…俺は恐れているのか?)
自分の失敗によって最愛の人は失われた。 そして、もう一度失敗すれば美咲たちを失い、最愛の人を取り戻すことが出来なくなってしまう。 その事を恐れているのかと思った。
まして雄也は、先日初めてミスをしたのだ。 誰もが通る最初の壁に突き当たっているのかもしれない。
(失敗を恐れるあまりに自分を信じきれていないのか…?)
トントン… カチャッ──
今度はややボリュームを落として様子をうかがう様に扉が開かれる。
「雄君。眠った?」
「いや、起きてるよ。」
「飲み物持ってきたんだけど、どうかな?」
「ありがとう。 喉、渇いてたんだ。」
美咲は後ろ手に扉を閉めると、ゆっくりと室内を進み、持っていたお盆を机の上に一旦置く。 それから椅子をベッドの脇まで移動させて座ると、少し湯気の立っているマグカップを雄也へさし出した。
「飲めるように、少し冷ましてあるからね。」
受け取った雄也はその中身を不思議そうに見つめる。
「俺がこれを好きなの、言ったっけ?」
「ううん? 温かい方が気分も落ち着くかなと思って…。」
雄也はカップに口をつけ、ゆっくりと中身を味わいながら飲んだ。
「雄君は、ホットミルク、好きなんだね。」