「その金を俺が出してやろう。」
そう言って懐から出した、鉛色に輝く一丁の拳銃を雄也に見せる。
「怖がるな、お前を殺そうと言う訳じゃない。」
もしも、自分の命と引き換えでも、あの人を病院へ入れれるだけの金が手に入るならそれでもいいと思った。
そんな雄也の内心を見透かすかのように、男はまた『ニタリ』と笑う。
「もうすぐあそこから男が一人出てくる。その男をこの拳銃で撃ち殺せたら金をやろう。」
男は銃把を雄也に向けて突き出してくる。
ここで逃げ出していたなら、違った人生を歩めたのかもしれない。
だが、雄也にはあの人のいない人生など考えられなかった。
「どうした? 大切な人を助けたいんだろう?」
嬲るようにニヤニヤとしながら男は雄也を見ている。
ゴクリと喉を鳴らし、それに手を伸ばした雄也を。
「そうだ。 それでいい。 命は命を喰らいながら生きているものだ。」
それに触れただけで足は震え、呼吸も息苦しくなるほどに怖かった。
泣き出してしまいそうになるぐらいの恐怖を感じながらそれを握り締める。
「命を守るために命を狩れ。 それが今日からお前の仕事だ。」
そこから先は無我夢中だった。
男に言われるままにトリガーを引き、その後の事はよく覚えていなかった。
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気がつけば、最愛の人は病院のベッドの上に居て、雄也はその傍らに腰掛けていた。
「雄君のおかげね。」
そう言って力なく笑うその人の手を、そっと 握る。
「私の病気は治ることがないって、お医者様は言ってたわ。」
雄也は「そんな事ないよ。」と言ったが、その人は首を横に振る。
「でもね、せっかく雄君がくれたチャンスだから、精一杯生きようと思う。 最後の刻まで諦めたりもしない。」
雄也の手を握り返そうとするのだが、あまりの弱々しさに胸が痛くなる。
「そんな顔、しないの。 …私はとても幸せよ。雄君が私の為にどれだけ一生懸命だったかは、あの親切な人に聞いたわ。 それだけで、私はとっても幸せ。」