(なぜだ、なぜだ、なぜだっ!)
拳を硬く握り締め、全力を持って自制する雄也。
(俺はあの時、美咲を撃たなければあの人が失われるのを知っていたのに!)
自分自身に対して猛烈な怒りが込み上げてくる。
(なぜ俺は止めようとしたんだ!!)
最愛の人のために多くの命を奪ってきた雄也。
己の命ですら、惜しむことなく差し出せるほど愛した人の為に。
なのに、雄也は美咲を狙撃しようとした自分を止めようとした。
あの時、美咲の狙撃に成功していればあの人は死なずにすんだのにという思いが胸中に渦巻く。
だが、今の雄也に美咲を撃てと言っても、はたしてそれが出来るかどうかが判らない。
最愛の人を守れなかった自分の無力さを噛締めながら、その人と等価の存在を己の内に生み出している事に気付き、雄也は激しい怒りを感じていたのだ。
自分が最愛の人を裏切ってるように思えたから。
美咲はそんな雄也をその胸に抱いた。
「ずっと雄君の傍にいてあげるから。」
『ずっと雄君の傍にいてあげるから。』
二人の言葉が雄也の中で重なる。
少しずつ、雄也の強張った身体から力がこぼれ落ちていく。
(俺は、美咲にあの人を重ねているのか?)
(美咲を失いたくないと思っているのか?)
(ここで過ごしたほんの数日間を壊したくないのか?)
とめどなく溢れてくる疑問に、答えを見つけられるわけもない。
(確かに答えはわからない…。 だが、やるべき事は分かっている。)
そして三度マインドセットを試みるがうまくはいかない。
襲撃予定まで、あと3時間ほどしかなかった。