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食堂へ降りると、温められたシチューの香りと、「ずっと手を繋ぎっぱなしでラブラブだねー。」との晃司のからかいの声が雄也たちを出迎えた。
二人が席に着くと、キッチンから由紀奈がシチューをよそった皿を持って来てくれる。 何も言わなくても、二人がお腹をすかせているのが分かっていたようだ。
「ありがとう。」
雄也が柔らかな笑顔で礼を言うと、由紀奈はたじろいだ様子だったが、「おかわり、たくさんあるから。」と言って美咲の隣へすとんと座る。
「それじゃぁ、いただきます。」
美咲が言ってスプーンを取ると、雄也もそれに習ってシチューを口にする。
牛乳をふんだんに使ったであろう、まろやかな味わいと、身体に染み入るような温かさが、雄也に「おいしい」という感覚を思い出させてくれた。
あっという間に空になった皿を見て愛子が目を丸くする。
ここへ来てから雄也が口にする量は、愛子よりも少ないぐらいだったのだから。
由紀奈も驚いていたが、雄也が二杯目をお願いすると、快く席を立ってキッチンへとおかわりをよそいに行ってくれた。
「そうだ、晃司。 食べながらで悪いんだが、大事な話があるんだ。 いいかな?」
バラエティ番組を見てケタケタ笑っていた晃司は「うん」と肯くと、テレビを消して雄也の隣へやってくる。
由紀奈もちょうどおかわりを持って来てくれた。
「雄君、みんなに大事な話って何?」
「ああ。 …何処から話したらいいかな。」
シチューをスプーンでかき混ぜて少し冷ましながら雄也は考える。 が、自分に言葉のバリエーションが少ないのを思い出して率直に話す事にした。
「今夜、美咲を狙う連中がここへやって来る。」
何気ない口調で、シチューを口に運びながらの雄也に一同は困惑する。
「なっ、なんだよ、それ?」
「美咲姉さんが狙われるって、どうして?」
訳の分からない晃司と、幾分かは冷静な由紀奈の鋭い視線を受けながら、雄也はゆっくりとシチューを味わって食べる。
「まず先に言っておくが、連中がこの家に入ってくる事はない。」
気軽な物言い。 しかもシチューを食べながら。
だが、誰一人として異論を唱える事ができない。
気圧されるような圧迫感が辺りを支配していた。 由紀奈が重苦しい空気の中、かろうじて口を開いく。
「…どうして?」