「俺がいるからだ。」
その雄也の眼を見たものは、いや、見えないはずの美咲ですら、背筋にゾクリとしたものが走った。 悪寒ではない。
武者震いのような気持ちの高揚が走り抜けたのだ。
揺るぎようのない鋼の意思と、絶対的な自信。
氷のようなと称される雄也の眼が、守るべきものを映し、溢れんばかりに命の躍動を漲らせていたから。
迷い、悩み、葛藤しながら答えを見つけようとしていた雄也。 美咲達を守る事に理由を探していた雄也。 だが、自分を納得させるだけのこじつけなど見つかる訳もなく、焦りも加わってイライラしていたのが、さっき声を出して笑ったことで、あっさりと氷解してしまったのだ。
内なる問題は何一つ解決はしていない。 しかし、雄也はここにいる皆を守りたいと思った。 襲撃者に脅えながら日々を送るような事をさせたくないと思った。 そして、それは自分の力で叶えられる事を知っている。
だからこそ、それを叶えようとする雄也の強い意思の力が、未来を従わせるべくプレッシャーとなって周辺を支配していたのだ。
みながそんな雄也に圧倒される中、愛子だけは心地よさそうにひざの上に座っている。 雄也からあふれ出ているものが、殺気や闘志といったものではないからだ。
それは、言うならば純粋な”想い”。
幼い愛子は、そんな雄也の純粋な想いを敏感に感じ取っているからこそ、雄也の傍にいるのが大好きだった。
少しずつ、愛子を包む安心感がみんなに伝染していく。
雄也は空になってしまった皿を、残念そうに見た。
「あっ、おかわり、持ってきてあげる。」
「ありがとう、頼むよ。」
由紀奈はドキドキしていた。 美咲も、晃司ですらもドキドキしていた。
(なんで私があの人をほんのちょっとでも「かっこいい」と思わなければならないのよ…。)
新たにシチューをよそいながら、由紀奈はそんな事を思っていた。
(雄君、なんだかすごく頼もしい…。)
自分が狙われているという話題から始まったのだから無理もないが、食事の手が完全に止まっていた美咲は、雄也に「冷めちゃうよ?」と言われて慌てたようにスプーンを動かし始める。
(ぜったい、ぜったい雄也さんみたいになるんだっ!)
静かに決意を固めている晃司は、「晃司、ぷるぷるしてるしー。」と愛子にからかわれていたりもした。
キッチンから戻る頃には少しはドキドキも収まってきた由紀奈が問いかける。
「話は戻るけど、どうして美咲姉さんは狙われなくちゃならないの?」
三杯目を受け取った雄也は、トロトロに煮込まれたジャガイモを愛子に示し、愛子があーんとあけた口にそれを入れてやりながら由紀奈に答えた。
「美咲がここの神父さんの遺産の事で裁判に出ていたのは知ってるな?」
「あっ、寄付の件… かな?」