「そうだ。 その裁判の結果に不満のある連中が美咲を暗殺するようある組織に依頼した。」
由紀奈の片眉がぴくりと上がる。
「そいつらが、今夜咲姉を狙ってくるっての?」
「ああ。 襲撃者は三人。ただし、侵入を試みるのは一人だ。 あとは逃走経路の確保に一人、逃走車両の運転手が一人だから、侵入者を撃退するだけでいい。」
「雄君…。 その…。」
「ん? どうした?」
「雄君が闘うんでしょう? その、危なくない…かな?」
心配げに顔を曇らせる美咲に、雄也は力強く返事をする。
「大丈夫だ。 俺は美咲を守るためにここにいる。 ちゃんと戦闘訓練も受けているから心配要らないよ。」
頼もしげな雄也に、由紀奈は冷静なつっこみを入れる。
「見習い神父さんがどうしてそんなに事情に詳しくて、戦闘訓練まで受けているのかしらね?」
雄也はギクリとして由紀奈を見た。
どうにもこの少女に睨まれるとたじろいでしまう自分に嘆息しつつ、ちらりと横目でみた晃司の目が、「観念しなよ」と言っているような気がした雄也だった。
「嘘を言った事はあやまる。 …すまない。 美咲を守る依頼を受けたものの、相手が相手だったんでね…。 実際に美咲が狙われるという事実確認と背景が分かるまでは伏せておきたかったんだ。」
「それは分かったわ。 私たちを不必要に怖がらせない為の措置だったと受け取っておきましょう。」
由紀奈の怒りを買わないで済んだと、ホッとしたのも束の間。 さらに困った質問を浴びせられる。
「それで、その依頼主は何処の誰?」
「あー…。 きっと信じないと思うんだが…。」
雄也は一旦言葉を切り、視線を宙に彷徨わせる。
うまく言い訳できないかなと自問してみたが、答えはNOだった。
「アナトと名乗る自称天使様…だ。」
「ふーーん。」
まったく、これっぽっちも信じていない由紀奈。
「二人とも、都合が悪いときに天使様を持ち出してると、そのうちバチが当たるわよ?」
『…はい。』
小さくなる雄也と美咲をよそに、襲撃の時は、刻一刻と迫っているのだった。