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その男は正門から堂々と入ってきた。
そして、何気ない足取りで教会の扉の前に立つ。
そこへたどり着くまでに、足音一つさせなかった男に、雄也は柱の影から声を掛けた。
「そこから先は神様の通行証がいるんだが、あんたは貰ってきたか?」
男は扉に手をかけた体勢でぴたりと動きを止めた。
「貰い忘れたならまた後日、改めてくれると助かるんだがな?」
軽口をたたく雄也を肩越しに見やりながら、男は口を開く。
「背後を取ったなら、躊躇わずに決定打を放てと何度言ったらわかるんだ?」
重く響く声。 だが、不思議と雄也に聞こえる程度にしか広がらない声に肩をすくめてみせる。
「俺は物覚えが悪いほうなんでね。」
ヒュッ! ───。
空を切り裂く音と共に、男のけりが雄也の首を薙ぐように飛んでくる。
その蹴りをかいくぐった雄也は、至近距離にもかかわらず、コンパクトに足をたたみ込みながら男の顔面を蹴り上げた。
が、男は苦もなく軸足で地を蹴り、雄也の射程外まで一気に飛びのく。
雄也はその男と扉の間に立った。 中に入れないという意思表示と受け取った男がニヤリと笑った。
「『眠り姫のガーディアン』よ、お前に俺が退けられると思うのか?」
「あいにくと殺し屋家業はもうできそうにもなくてね。 天使様からこの神の家を守れって依頼を受けたんで、退いてくれると俺は楽ができるんだが。」
雄也は全く闘いに集中できないままこの場に立っている。
本来なら、さっき男が言ったように、背後から一突き入れるだけで済んでいた。 男は柱の陰にずっといた雄也に気付かなかったのだから。
ろくに集中もできていない雄也にだ。
「お前には才能がある。 暗殺者としての才能がな。」
「人殺しの才能なんて、人に自慢できるようなもんじゃないさ。」
「ふん。 『眠り姫』が死んだから廃業だ。 などと言えるほどこの世界は甘くはないぞ?」
雄也は嘆息した。
「命を守るために命を狩れと教えてくれたのは、岩さん、あんただったな?」
岩は、それを言った時のことを思い出し、そのときと同じ『ニタリ』とした笑みを浮かべる。
「守るべき命が失われた今、俺に命を狩る理由があるのか?」
雄也は自分の中に渦巻いている疑問や、苛立ちの理由をぼんやりと考えていた。
暗殺者達を退ける決意はしたが、根本的な問題の解決には至っていないからだ。
そして雄也はどちらかと言えば生真面目な方なので、問題の先送りを出来るような性格でもない。