小説『アナト -眠り姫のガーディアン-』
作者:那智 真司()

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あぁ…。 最強といわれる男にゆっくりと殺されていく…。 これこそ私の望んでいたもの…。 もう少し、もう少しで… あっ!)

吊り上げられてもさして抵抗しない洋子。 その意識が飛びそうになる寸前で、雄也はおもむろに洋子を投げ捨てた。
地に平伏してびくんびくんと身体を奮わせる。
それから思い出したかのように咳き込み、あらん限りに空気を肺へと送り込む。

「彼女たちに手を出すなら、次は命はないと思え。」

「はぁ… はぁ…。 それは、昨日の警告のお返しかしら?」

「どう取ろうとかまわない。」

「ふふふ。 やはり貴方にとってあの子達は壊したくない、大切なもののようね。」

「 …。 何が言いたい?」

「今の貴方の眼、五年前に私が『眠り姫』に貴方の仕事をばらすと言った時と同じ眼をしてるわよ?」

雄也は思い出した。 確かに以前、その通り名が組織のトップクラスに連ねだされた頃、洋子と同じチームで仕事を終えたあと、からかい半分に言ってきた洋子を打ちのめした事があった。

「お前はあの時の女か。」

「忘れていたなんて、こんないい女に失礼じゃないかしら?」

洋子は立ち上がり、眼を細める。

「いずれにせよ、今日は盲目の姫君があなたを縛り付ける鎖になりうると分かっただけで十分。」

「どういう意味だ?」

「愛ゆえにって事よ。 愛する『眠り姫』の為に命を狩り続けた貴方が、今度はその代わりの『盲目の姫君』の為にどれだけの命を犠牲にするのかしらね?」

「彼女の為に命を狩ることもなければ、身代わりにするつもりもない。俺にとって大切なのはあの人だけだ。」

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