小説『アナト -眠り姫のガーディアン-』
作者:那智 真司()

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「彼女の命が失われる時に、貴方は同じ事を言えるのかしら?」

その言葉に、大切な何かが雄也の頭をかすめた。
洋子はそんな雄也にかまわず慎重に雄也と距離をとる。

「楽しみにしているわ。 彼女の命が奪われるとき、貴方がどんな顔を見せてくれるのかをね。」

何かに気付き、愕然とする雄也を残し、洋子はゆっくりと闇の中へと姿を消していった。

『彼女は40日後に死ぬ。その魂と引き換えに君の願いを叶えてあげる。』

一人残された雄也の耳に、アナトの言葉が蘇る。
最愛の人を取り戻すためなら気にする必要はない。
『眠り姫のガーディアン』はそう思う。
だが、雄也は美咲の命を奪うのは、最後には自分なのだと気付いてしまった。

(美咲が40日後、いや、あと35日後には死ぬ…?)

守りきれずにその日に命を落とすのか、たまたま事故に巻き込まれてしまうのかは分からない。

雄也の望みは美咲の死が前提で叶えられる。
たとえどれだけ守ったとしても、大切に思ったとしても、もしも、美咲を愛したとしても、最後には死が二人を別つ。

(俺は、最愛の人を取り戻すために、美咲を犠牲にする…のか?)

美咲の命が失われたときの由紀奈や晃司、そして愛子の顔が脳裏をよぎる。

(子供達に、俺と同じ想いをさせるのか?)

ここで過ごしたたった五日間。 それが、こんなにも雄也の心をかき乱すとは思わなかった。

(最愛の人を守るために多くの命を奪ってきた俺が、今更何を気にやむ事があるんだ…。)

『眠り姫のガーディアン』はそう思う。
だが、ここに来て、あの頃の自分を見、最愛の人の言葉をなぞらえながらその人の心を思いやったとき、何かとても大事な事に、雄也は気付こうとしていた。
しかし、後一歩のところでその大事な事を掴みあぐねいている雄也。

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