小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第九話『誘拐事件』



『カオス・クリスタル』が目覚め、カオスに『夜空』という名前が付けられてから三年。
刹那は琉歌と夜空とよくイチャついていた。
琉歌と夜空が話し合った結果、二人とも刹那と付き合うと言うことになったのだ。
『カオス・クリスタル』は機体を創造し、貯蓄することが出来るので、創造した物のデータは残っている。
多くの試作機を消していくことで、ようやくいかなる状況下でも即座に対応できる究極の臨機応変の万能機が出来上がっていた。
完全に破壊することのみに徹底されたものや、ネタに走ったものなど、さまざまである。
刹那は全ての能力を見て、ISを動かすことを前提にされていたのではと思っていた。
『騎乗A』、『千里眼A-』、『直感A+』、『無窮の武練A+』、『騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)』は明らかにIS戦闘に大活躍のスキルであり、ISもどき『カオス・クリスタル』を完璧に扱うために選ばれたのではと推測するのだった。
だが、その真意はこの能力を選んだ神にしかわからないことなので、考えることはやめているのだった。



ちなみに、この世界は女尊男卑の世界になっている。
なぜならば、ISが女性にしか使えないからだ。
ちょうどいい機会なので、ISについて説明しておこう。



ISの正式名称は『インフィニット・ストラトス』。
宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツである。
『白騎士事件』によって従来の兵器を凌駕する圧倒的な性能が世界中に知れ渡ることとなり、宇宙進出よりも飛行パワード・スーツとして軍事転用が始まり、各国の抑止力の要がISに移っていった。
ISは核となるコアと腕や脚などの部分的な装甲であるISアーマーから形成されており、その攻撃力や防御力、機動力は非常に高い究極の機動兵器と呼ばれる代物なのだ。
特に防御機能は突出して優れており、シールドエネルギーによるバリアーや『絶対防御』などによってあらゆる攻撃に対処でき、操縦者が生命の危機にさらされることはほとんどない。
そう、『ほとんど』だ。

『絶対防御』を貫通するほどの威力があれば、操縦者にも被害が出る。
そんな危険な兵器なのにもかかわらず、世界はこのISをスポーツとして扱っているのだ。
確かに、スポーツには危険が付き物だが、これは危険すぎる。
いくら武装に制限などがあるとしても、本来は危険すぎてスポーツとは呼べないものなのだ。
そして、そんな兵器の欠点は『女性にしか使えない』ということだ。
そのおかげで、世界はISを使いもしない女にも優遇を始め、そして調子に乗った女は『女はISを使えない男よりも優れているから偉い』などという愚かな勘違いを始めたのだ。
正確には『ISが優れている』が、所詮それだけであり、女が凄いわけではない。
そこを履き違えている女は増え、世界はそんな女を擁護するようになってしまっているのだ。



そんな世界の変化で、人生が狂った人は大勢いる。
特に男性が職を失う人が多くなり、そして男性の自殺率も上がっている。
男性や女性でISを批判することが多かったが、結局この風潮は広まってしまった。
それなのに世界は、それでもISを擁護し続けた。
ISという従来の兵器を遥かに上回る兵力に目が眩んだ世界は、ISを捨てるのを拒み、ISの所為で職を失った人々のケアをすることなく、女に虐げられる男性を助けることも無く、女を優遇したのだ。
そして、人には慣れというものがある。
反対していた者はこの風潮に慣れ、こうするしかないと言う諦めがある。
だが、この環境下でも女尊男卑を覆そうとしている人たちはいる。
当然、刹那や琉歌、夜空に幻夜や夢乃もその内に入っている。
それも必然である。
夜空は違うにしても、ISを広めるために発生した『白騎士事件』の被害者なのだから。
刹那は両親に一生の傷を負わされ、幻夜は左腕を失い、夢乃は下半身が動かなくなり、琉歌は両親を失っている。
ISに恨みがあって当然なのだ。
といっても、この五人はISに大して怨んではいない。
ただ望むのは、主犯であると考えられる篠ノ之束と織斑千冬に、その罪を背負わせることだけである。



そんな刹那たちはその織斑千冬の出る第二回モンド・グロッソの会場に来ていた。
今回来たのは、刹那の『直感A+』による勘に従ってだ。
『この大会で何かが起こる』という直感に従ってやってきたのだ。
それに、織斑千冬の動きを直に見るという目的のためにも、今回のモンド・グロッソにやって来たのだ。

「にしても、女尊男卑になったのに男性も多いね」

「まあ、ISを憎んでいても、それに慣れてしまったことと、ISみたいなロボットは男のロマンだからね。 こういうのには興味あるんだろう」

「そう言う刹那はあるの?」

「あると言えばあるけど、僕はISには大して興味は無いな。 父さんの腕はクリスタルで創った義手で以前の状態に限りなく近いものになったけど、それでも腕を失った事実は変わらない。 それに、母さんは変わらず車椅子生活だ。 それに、琉歌の両親を殺したのもISが原因だ。 その現況になったISを、誰が好きになるか。 まあ、クリスタルは別だけどね」

「そう……。 一応ISとしての機能もあるから、嫌われなくて良かったわ」

「夜空はクリスタルの人格だけど、クリスタルはそもそもISとは次元の違うものだし、クリスタルに貯蔵された物だしね。 刹那が嫌う理由にはならないわ」

「そうだぞ。 僕が君をそんな理由で嫌いにはならない」

「そう? それなら良かったわ」

刹那は琉歌と夜空に抱きつかれ、とても羨ましい状況である。
だが、これはもう刹那たちにとって当たり前であった。

「さて、この直感通りなら、そろそろ何か起こりそうなんだけど……」

刹那の直感の的中率はほぼ100%。
何か起こるのは、決定事項である。

「とりあえず、こっちに何かありそうな気がするね」

刹那は、直感に従って歩き出した。
琉歌と夜空も、刹那に付き添って歩き出した。




 ☆




会場の外に出ると、猛スピードで走る黒塗りのワゴンが確認出来た。
刹那は辺りに人がいないのを確認すると、『千里眼A-』を使う。
直後、刹那の瞳が黄金に輝く。
『千里眼A-』の能力である透視を行う時、刹那の瞳は黄金に輝くのだ。

「あれかな……」

「何が視えるの?」

「四人の黒いスーツを着た男と、縛られている中学生くらいの少年が一人……間違いなく人攫いだね」

「じゃあ、あれが刹那の直感の正体?」

「多分ね」

あれを視てから、刹那の直感はより強く警報を鳴らしていた。

「じゃあ、僕はあれを追ってみるよ。 二人は、織斑千冬の監視をお願い。 何かあったら、夜空経由でクリスタルに連絡して」

「わかったわ」

「じゃあ、行ってくるよ」

「「行ってらっしゃい」」

そして、刹那は消えた。
刹那が消えたことに驚くことなく、琉歌と夜空は会場内へと戻っていくのだった。




 ☆




刹那は黒塗りワゴンを追っていると、とある廃倉庫へと辿り着いた。
ちなみに、刹那が消えたのは、『カオス・クリスタル』が創った超ステルスによって、あらゆるものから認識されないようにしたからだ。

(あの子、何者なんだろうか……)

刹那は誘拐された少年が、なぜ誘拐されたのか、わからなかった。
誘拐した男四人は拳銃を持っており、そして、廃倉庫内には同じ格好をした男がさらに三人、そして、女が一人の計八人もいた。
しかも、その女はISを持っていた。
ISは貴重であり、強力な力だ。
それだけの代物が出てきた以上、少年がただの一般人であるわけが無い。
刹那はステルスで姿を隠しながら、連中の会話を聞く。

「これで、織斑千冬は棄権するんだな?」

「ああ。 何せ、こいつは織斑千冬の弟だ。 誘拐されたとなれば、棄権して助けに来るだろう」

(織斑千冬の弟……!?)

刹那は、その少年が今最も欲しい情報―――織斑千冬と篠ノ之束の情報を持っているということに、驚いた。
だが、同時に誘拐されたことに納得もしていた。
それだけの存在ならば、利用しようとする奴は出てくるのだから。

(……にしても、こいつらを動かしているのは誰だ? ISが出てきている以上、裏には大きい組織がいるはずなんだが……)

刹那はその組織が何者なのか、考え出した。

<刹那、ちょっといい?>

そんな時、夜空からの連絡が来た。

<何かあったのか? 無事か!?>

刹那は夜空たちに何かあったのかと思い、少し慌てる。

<私たちは何とも無いよ。 今連絡したのは、決勝に織斑千冬と戦う人が決まったから、一応教えておこうと思ってね>

<そうか……で、相手は誰なんだ?>

<アメリカの天才少女、ナターシャ・ファイルスよ>

<アメリカか……ありがとう。 引き続き、織斑千冬の監視、お願いね>

<わかったわ>

連絡が切れ、刹那は考える。

(アメリカが優勝のためにやったのか……? でも、確かナターシャ・ファイルスは、すべての試合で正々堂々と、純粋な技術だけで戦っていた……そんな彼女が、そんなことをさせるとは思えない……上層部の独断か……?)

刹那は、今は考えても答が出ないので、一先ず考える事を止めた。
今は、少しでも情報を得ることの方が大切だからだ。

「で、こいつはどうするんだ?」

「織斑千冬が棄権したなら、そいつを放ってすぐに逃げるわ」

「棄権しなかったら?」

「好きにしなさい」

「つまり、棄権しなければ殺しちまっても良いんだな?」

「別に構わないわ。 織斑千冬が棄権しなければ、そいつに利用価値は無いから」

(……まだ、助けなくてもいいかな)

刹那は、連中の話を聞いて、待てば織斑千冬と接触できると考え、あえてまだ助けない。
まあ、織斑千冬が棄権しなかった場合、刹那が助けるのだが。

(……何だろう、この嫌な予感は……)

同時に、次第に嫌な予感が、沸々と沸き起こるのであった。



-10-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




TVアニメ IS<インフィニット・ストラトス> VOCAL COLLECTION ALBUM
新品 \2300
中古 \1546
(参考価格:\3000)