小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

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第十二話『一夏の特訓』



一夏が闇影家の厄介になってから一年。
一夏は『織斑』の姓を捨て、『闇影』の姓を名乗っていた。
そう、一夏は刹那たちの家族となったのだ。
そして、刹那と琉歌は婚約届を出し、刹那と琉歌は結婚したが、実質刹那と琉歌と夜空の一夫多妻のようになっている。
その証に、三人の左手の薬指には指輪が嵌められている。

「一夏。 お前の体力も大分付いてきたな」

「まあな。 刹那兄のおかげで、少なくとも五キロは全力で走れるようになったぜ」

一夏は守られるだけの状況を拒み、自らも強くなることを決心していた。
そのため、刹那に鍛えてもらっているのだ。
一夏のトレーニングは基礎をみっちりやらされており、今では常人離れした体力はある。
ちなみに、刹那は五十キロは軽く全力で走れる(強化無し)。

「さて、そろそろ厳しく、スパルタで行くけど、本当に良いのかい?」

「ああ、やってくれ。 基礎ばっかりってのも厭きてきてるんでね」

「それもそうか。 じゃあ、本格的にやっていくから、覚悟しておきなよ」

「おう!」

ちなみに、一夏の捜索願が出されているが、一夏が刹那たちに匿ってくれと言っているので未だに尻尾すら掴まれていない。
今では死亡説が浮かび上がっているくらいだ。
ちなみに、一夏が外に出ているときは、『カオス・クリスタル』製の超ステルスが使用されたりしている。
無駄な技術の乱用である。

「さて、やるか」

刹那が持つのはただの竹刀。
一夏も同様に竹刀を持っている。

「どっからでも掛かって来い」

「なら、行くぜ!」

一夏は飛び出す。
元々一夏は剣道をしていたので多少なりとも剣の扱いは出来る。
だが、刹那が教えるのは剣道などというお遊びよりも、剣術と言う実践のための剣を教えているのだ。
剣道はスポーツだが、そんな甘ったるいものよりも、剣術は実践的で自衛にはこっちを取った方がいいのだ。

「だあっ!」

一夏は動き回りながら手技足技を組み込んで竹刀を振るうが、刹那はその攻撃の全てを左手と右の竹刀一本で捌く。

「うん、大分強くなっているね」

「ほとんど動かせて無いのに、そう言われても実感できねえよ!」

刹那は一夏の猛攻をほとんど動かずに捌ききっている。
刹那は右足を軸に、そこから回るようにしか動いていないのだ。
一夏の猛攻は、中学生のそれを軽く越えている。
急成長を遂げている一夏は、今では並の大人でも敵わない。
伊達に刹那の特訓を受けてはいないのだ。
だが、それでも結局はその程度だ。
刹那は呼吸一つ乱さず、左足が描く円も乱れることなく、一夏の攻撃を全て捌く。
それから三十分間、一瞬たりとも止まること無く攻防が続いていた。
どちらも馬鹿げた体力である。

「そろそろ終わらせるよ」

「くっ!」

三十分間防御しかしていなかった刹那が、ついに攻勢に出た。
一夏の竹刀を自身が持つ竹刀で流して体勢を崩し、崩れたそこに左手による掌打を一夏に腹部に入れる。

「がはっ!」

一夏はそれだけでダウンした。
あらゆる武術を調べ、あらゆる武術を独学で学んだ刹那は、あらゆる武術に対抗でき、あらゆる武術の利点をその状況に合わせて自在に扱える。
だからこそ、何でもありの戦いでは刹那は素の生身でも強いのだ。
元より身体能力が上げられているとはいえ、それはそれで異常な強さである。

「立ちな一夏。 特訓はまだまだこれからだよ」

「あ、ああ、わかってる……!」

一夏は腹部を押さえながら立ち上がるが、その瞳に諦めは一切無い。
むしろ、先ほど以上に闘志が燃え上がっている。

「まだ続けるけど、やれるよね?」

「当然……!」

「ならば来な。 今度は君の本気で」

「なら、遠慮なく!」

一夏はもう一振りの竹刀を持ち出した。
琉歌と同じく、二刀流が一夏の本気である。
刹那と琉歌が一夏の一刀流を見て、刹那の勘もプラスされていたので、一夏に二刀流を教えて見たら、こっちの方が断然強かった。
一夏は剣士であるが、二刀流の方が向いていたのだ。
二刀流の方が強いが、一刀流も教えているのは、どちらかが折れても戦えるようにするためだ。
どちらも不可無く扱えれば、その強さは揺ぎ無くなってくる。

「らぁっ!」

高速で振るわれる二振りの竹刀。
刹那はスキルがもたらす直感と、その素でも並外れた動体視力で、一夏の攻撃を見切り、先読みしてその連撃を捌いていく。

「はあっ!」

「もっとだ! もっと速く振るえ!」

一夏の剣速がさらに上がる。
だが、それでも刹那はほとんど動かず捌ききる。
それが二人の実力差の現れであり、一夏の目標であった。
たとえどれだけ頑張っても届くことの無い、絶対的過ぎる巨大な壁だが、それでも一夏の目標であった。

「……一夏」

「……なんだ、刹那兄」

一夏は刹那をひたすらに攻撃しながらも応える。

「お前に、一度だけ素の僕がやれる、最高の一撃を見せる」

「っ!」

刹那が言ったことに一夏は目が少し見開かれた。
今まで遊ばれていたかのようにやっていた刹那が、ついにその本気を見せると言ったのだ。
自分が追う背中の本気が見れるのだ。

「意識を集中させろ。 意識を張り巡らせろ。 目を逸らすな。 瞬きをするな。 一瞬たりとも気を緩めるな」

激しく動き、竹刀同士がぶつかり合う音で聞こえづらいはずなのに、一夏にはその言葉がはっきり聞こえていた。
一夏はその言葉通り、刹那の行動に集中し、攻撃に反応できるようにしながら攻撃を続ける。

「行くぞ」

スパンッ!

「え?」

刹那の言葉の後、一夏の持つ二振りの竹刀が切断された。
『砕けた』ではなく『切断』された。
刹那の腕は振り切られており、刹那が竹刀を振ったことがわかったが、一夏には何が起こったのか何一つ理解できなかった。

「何が起こったのか理解できていないって顔だね。 まあ、そもそもあれは、常人が見切れる速度じゃないからね」

「何、したんだ……?」

一夏は呆然としながら問う。

「何って単純だよ。 竹刀を振るっただけだよ。 まあ、人間が反応できる速度を超えているけどね」

刹那は単純に竹刀を振るっただけ。
高速で動く一夏の竹刀に、刹那は竹刀の先端を掠らせるように振るったのだ。
あまりにも速すぎる剣により発生した摩擦などにより、刹那の竹刀が一夏の竹刀を切断したのだ。
現に、切断された竹刀の断面に焦げたような跡がある。

「先端が細ければ、頑張れば出来るよ」

「……い、いや、それが出来るのは刹那兄だけだと思う……」

ちなみに、刹那はある程度の硬度さえあれば、どんな物でもやれる。
それが、ハンマーのような打撃系の物であろうとも、それで切断できる。

「琉歌と夜空も出来るよ。 まあ、流石に竹刀では出来ないけどね。 僕は、一夏なら出来てもおかしくは無いと思っているよ」

「お、俺が? 刀とか剣じゃなくても出来るのか……?」

「多分ね。 一夏の潜在能力は高い。 木刀とかでなら、切断出来るようになると思うよ」

「そ、そうなのか……?」

一夏は、半信半疑で呟いていた。




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