小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第十五話『刹那の逆鱗』



「―――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ―――」

二限目、教室の後ろで刹那と琉歌、夜空は静観していた。
真耶が教卓に立って教科書を読んでおり、織斑千冬は教室の端っこで控えている。
そして一夏は教科書は出してはいるが、開いてはいなかった。
そして、一限目のように暇そうにあくびをしていた。

「……おり―――闇影。 お前、教科書を開いていないが、やる気があるのか?」

織斑千冬は一夏を一瞬『織斑』と呼びそうになったが、言い切る前に踏みとどまっていた。
そこは一応評価する刹那であった。

「もうわかりきっていることなんで、はっきり言って暇なんですよ。 暇すぎて寝たいくらいです」

「ならば言ってみろ」

「わかりました」

一夏は立ち上がり、やっていたところを何も見ず、機械的に言っていく。
一年生では習わないような部分も言っているため、理解できていない生徒が多発している。

「一夏、周りを見ろ」

言っている最中に刹那が割り込んだ。

「え? ああ、なるほど」

一夏が周りを見ると、頭から煙を出して机に突っ伏した生徒が大半だった。

「先生。 これ以上は止めておいた方がいいと思います」

一夏は織斑千冬へ進言する。

「そうだな、こうなっては仕方が無いだろう。 だが闇影。 お前の態度は他の生徒のやる気を削ぐ。 せめて教科書くらい開け」

「了解」

そんなこともあり、二限目も終了。
一夏の元には刹那がいる。

「ちょっとよろしくて?」

「あ?」

「………………」

そこにやって来たのは、刹那たちが嫌う、今時の女であった。
ちなみに、金髪ロールの外人だ。

「訊いてます? お返事は?」

「……何の用だ?」

「まあ! なんですの、そのお返事。 わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

「悪いが、俺は君が誰か知らないし、知ろうとも思わない。 興味は無いから、どっか行ってくれ」

一夏はこの三年で随分と変わった。
今時のこう言う女には冷たくなった。

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!?」

「お前馬鹿だろ。 たかが代表候補生如きまでを覚えようとするアホはそうはいねえよ。 自国の奴ならまだ覚える奴もいるだろうが、他国の代表候補生如きを覚えはしねえよ。 ってか、そう言うのはせめて国家代表になってから言いやがれ」

「その通りだね。 国家代表ならまだしも、候補生如きになった程度で有頂天になっているのなら、その国のレベルの低さが窺えると言うものだよ」

一夏と刹那はセシリアを攻める。
一夏たちの言っていることは実際間違っておらず、代表候補生は一国に少なからず数人はいる。
国家代表は国に一人のためその国で有名だが、代表候補生を全員覚える奴はその国の者でもそうはいない。
まあ、アイドル好き(代表候補生はモデル業などもしている)ならば、知っている者は多いだろうが。

「あ、あなたたち! わたくしを馬鹿にしてますの!?」

「馬鹿にはしてねえよ。 候補生になるのもそれなりに大変だろうからな。 お前の努力は認めてやるよ」

「ただ、代表候補生如きで偉そうにするなと言っているんだよ。 それに……いや、これは言うべきではないな」

刹那はもったいぶって言うのをやめた。

「何ですの? はっきりなさい」

「そろそろ席に着いたほうがいい。 その方が君のためだ」

そろそろ時間であり、織斑千冬たちが来るからだ。
刹那たちは教室の後ろへと下がる。
次の授業も見学するためだ。

「ま、待ちなさい!」

キーンコーンカーンコーン。

セシリアは途中で言うことをやめた刹那を問いただそうとしたが、それは三限目の始まりのチャイムで遮られた。

「くっ! 必ず話してもらいますからね!」

刹那にそう言ったが、刹那は興味無さ気にスルーしていた。
そして授業が始まった。

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

さっきまでとは違い、織斑千冬の授業だった。
一夏にちょいちょい視線を向けているが、一切気にしない一夏。
少し居心地が悪いようだった。

「あ、ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

それに気づいたのか軽く動揺している織斑千冬。

「クラス代表とはそのままの意味だ。 対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。 ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。 今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。 一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

教室がざわつくが、一夏は面倒くさそうにしていた。
もう自分が推薦されるのはわかりきっているからだ。

「はいっ。 闇影君を推薦します!」

「私もそれがいいと思います!」

一夏は、あまりにも予想通りすぎて溜息をついた。
刹那たちは、やっぱりなと苦笑していた。
女子たちは『一夏ならきっとやってくれる』という無責任かつ勝手な理由で推薦したのだ。

「では候補者は闇影……他にはいないか? 自薦他薦は問わんぞ」

「俺、面倒なんでやりたくないんですけど」

無駄と思いながらも言って見る一夏。

「自薦他薦は問わないといった。 他薦されたものに拒否権などない。 選ばれた以上は覚悟をしろ」

やっぱり無駄だったのでまた溜息をついた。

バンッ!

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

そんな時に机を叩いてそんなことを言い出したのは、先ほどの女セシリア・オルコットだった。

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルセットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。 それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

ちなみに、イギリスも島国である。
さらに言うと、イギリスも日本も大差は無い。
言うであれば、ISを創ったのが日本人であるため、日本の方が上である。

「いいですか!? クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

代表候補生と言う驕りがそれだけのことを言わせるのだ。
実質、一夏は学園最強の実力を持つ。

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけない自体、わたくしにとって耐え難い苦痛で――――」

そこまで言って、一夏がついに言葉を発した。

「あのさ、お前は何を勘違いしてるのかは知らないが、何妄言を言っているんだ?」

「なっ!?」

一夏は休む間もなく言っていく。

「日本が後進的? ならばISなんて無用でくだらない物を作ったのはどこの誰だ? お前が後進的だと言った日本人だ。 それに、ここで暮らすのが苦痛ならばイギリスに帰ればいい。 誰も残ってくれだなんて思って無いからな。
それと、代表候補生ともあろう者が他国を侮辱してんじゃねえよ。 さっき刹那兄が言おうとしたのはそれだ。 国の代表になるかもしれない奴がそんなんでは、その国は滅ぶぞ」

国家代表の言葉はその国の言葉と解釈できる。
そのため、そんなのが代表だったら戦争の種にしかならない。

「口を挟ませてもらうけど、僕から言えるのはISが優秀なだけであって、女が偉いと言う考えはただの妄想で幻想だ。 様々な犠牲が生み出した結果だ。 ISがあるからこそ、ISを使えるからこそ女が強いのであって、ISがなければただの非力な女だ。 そこを履き違えるなよ、女」

刹那も口調を厳しくして口を挟む。
こんな性格ならば、いつか女尊男卑で無くなった時に酷い仕打ちを受けるのだ。
実質セシリアはどうでもいいが、それを教えるためにわざわざ口を開いたのだ。

「け、決闘ですわ!」

セシリアは机を叩きながらそう言う。

「別にいいぜ」

一夏は承諾する。
代表候補生如き、一夏の敵ではないからだ。

「貴方もですわ!」

セシリアが指差すのは刹那であった。

「なぜ僕がそんなことをしなければならない。 やるだけ時間の無駄だ」

刹那は興味も無いし、やるだけ無駄なことなので拒否をする。

「貴方は弟とは違って戦う度胸も無いようですわね。 そんな貴方と結婚したと言う女性というのも、見かけだけで、大したことはありませんわね」

「っ!? 馬鹿っ! すぐに謝れ! それは禁句だ!」

「謝りなさい! 今すぐに!」

「貴女、取り返しの付かないことになるわよ!」

一夏はセシリアが言ったことに慌てて謝るように促す。
琉歌と夜空でさえ、自分のことを言われたのにも関わらず、セシリアに謝るように言っていた。
家族の、特に琉歌や夜空の侮辱は、刹那にとって最大の禁句なのだ。

「……今、何て言ったのか、もう一度言ってくれないかい?」

「言うな! 謝れ! 今すぐにだ!」

「言っちゃ駄目!」

「すぐに謝りなさい!」

一夏はセシリアを必死に止める。
だが、今時の女がそれを受け入れるはずがなかった。

「耳も悪いようですわね。 貴方のような度胸の無い男と結婚した女性は、見かけだけだと言ったのですわ」

言ってしまった。
最大の禁句を言ってしまった。
刹那は『無毀なる湖光(アロンダイト)』を抜き放ち、セシリアに突きつける。
その行動速度は誰にも反応されることなく、織斑千冬や一夏さえも反応できなかったのだ。
琉歌と夜空だけが、その動きをかろうじて捉えていた。

「ひっ!」

「……聞き間違いかな? 今琉歌と夜空を馬鹿にしたね?」

刹那は殺気をセシリアのみにぶつけ、絶対零度の冷たい声でセシリアに語りかける。

「いいよ、そんなに戦いたいのなら戦ってあげるよ。 格の違いを見せてあげる」

刹那はそう言うと『無毀なる湖光(アロンダイト)』を降ろし、教室を出て行った。
静寂が支配する中で、一夏と琉歌、夜空だけが哀れむ視線をセシリアに向けていた。
そして、琉歌と夜空は、これからのことを考えると、溜息が出るのだった。

「だから刹那兄に琉歌姉と夜空姉の侮辱は禁句だって言ったのに。 お前、この世界で最も怒らせてはいけない人の逆鱗に触れたぞ。 死なないにしても、一生のトラウマくらいは覚悟しておいた方がいいぞ。 ああなったら、琉歌姉にも夜空姉にも止めることはできない。 徹底的に潰しに掛かってくるぞ」

実際、過去に言ったものは刹那の手によって病院送りにされている。

「もう、どうして言っちゃうのよ。 言わなければまだ助かったのに……」

「ああなっちゃったら、私たちでもどうすることは出来ないわ。 せめて、少しでも怒りを静めるくらいはできると思うけど、貴女、覚悟しておいた方がいいわよ」

琉歌と夜空は、もう一度溜息をつく。

「一夏、後のことはお願いね。 刹那は、私たちの方で何とかしてみるから」

「ああなった刹那を静めるの、大変なのよね……」

「わかった。 琉歌姉、夜空姉……頑張って」

一夏がそう言うと、琉歌と夜空は教室を出て行った。

「……さて、織斑先生。 刹那兄とやりあう前に、俺とやらせてください。 じゃないと、試合どころじゃないんで。 後、ISの大破と病院送りはほぼ確定しているんで、その辺りのことも気にかけておくことをお勧めします」

一夏はそう忠告し、一夏とセシリア、刹那とセシリアの試合は来週の月曜日に決まった。




-17-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える