第十六話『刹那たちの部屋』
「さてと、とりあえず刹那兄を待つか」
刹那がいろいろとやっていたみたいだが、一夏の部屋は未だ知らされておらず、そのため迂闊に動けないでいた。
「ちょっといいか?」
「んあ?」
そんな一夏に声をかけたのは黒髪にポニーテールの女子だった。
「……ああ、篠ノ之箒か」
一瞬誰だかわからなかったが、何とか思い出した。
刹那たちの標的である篠ノ之束の妹である、篠ノ之箒である。
「何の用だ?」
実に六年ぶりの再会となるが、一夏は素っ気無く返した。
実際、違和感を感じていた二人以外、どうでもいいのだ。
「……久しぶりだな、一夏」
「まあそうだな。 で、用件は何だ? 今は無駄な時間を過ごすつもりは無いんだが」
「っ! お前、六年ぶりに再会する幼馴染に対してその反応は何だ! それに千冬さんにもだ! 何故お前が闇影などという姓を名乗っている!」
怒鳴る彼女に対し、一夏は自然体のままであった。
「別にお前に話すようなことじゃねえよ。 別に俺はお前に対して何の思い入れも無いし、あいつには失望していただけだ。 後、何も知らないくせに好き勝手なこと言ってんじゃねえよ。 俺を理解できなかった奴が知った風な口を利くな」
「何だと!? 私がお前をわかっていなかったとでも言うのか!」
「そう言ってるんだけど? ずっと自分を偽ってきたのを誰も気づかれなかったのに、それを初めて気づいたのが刹那兄だったんだぜ。 しかも初対面であったにも関わらずだ。 それなのにお前は幼馴染でありながら気がつかなかったよな。 まあ、織斑千冬もそうだったんだけどな。 あの二人とは大違いだ……。 まあ、今となってはどうでもいいことだけど」
「一夏、行くわよ」
そこに来たのは夜空であった。
会話をしていたのを割り込んで一夏を呼ぶ。
「あ、夜空姉。 刹那兄は?」
一夏も箒との会話がなかったかのように、夜空と会話をしだした。
「刹那なら琉歌と一緒にいるわ。 まったく、あの娘があんなことを言わなければこんなことにはならなかったのに……明日は、私も琉歌も、立てなくなるかもね……」
夜空は最後に、ぼそりとつぶやいた。
刹那はあの状態で戦艦に戻り、琉歌と夜空が必死になだめていた。
少しでも緩和させないと、一週間後の戦闘は本当に大変なことになるからだ。
流血沙汰になるのは、明白であった。
「琉歌姉や夜空姉が言ったのに、あいつはそれ無視して言ったんだ。 結局自業自得だろ。 他人を簡単に貶すような奴が、代表候補生にいること事態間違っているんだ。 その国の恥だろ」
「そう言わないの。 たとえ事実でもね。 さ、行くわよ。 一夏の部屋に案内するわ」
「ああ、わかった」
「ちょっと待て!」
夜空と一夏は教室を出て行こうとしたが、それを箒が止めた。
「何かしら? 私たちは用があるんだから、邪魔しないでくれる? 碌な用も無いのに私たちの時間を無駄にさせないで」
「貴様らは一体一夏に何をした!? 昔の一夏はそんな奴ではなかった!」
「だから言っただろ。 昔の俺は自分を偽っていたって。 これが素の俺だ。 といっても、この三年で変わったけどな。 人は一ヶ月もあれば変わるもんだ」
「私たちは何もして無いわ。 ただ、一夏に居場所を与えただけ。 後は一夏の意志で変わったものよ。 それと、いい加減にしなさい。 貴女の幻想を一夏に押し付けないで。 ここにいる一夏が本物よ。 現実を見なさい」
箒の問いは冷たく、素っ気無く返された。
「行くわよ一夏」
「ああ」
夜空と一夏は周りの反応なんかお構い無しに教室を出て行った。
そして一夏の部屋となっている部屋に到着した。
「ここが一夏の部屋よ。 私たちの部屋でもあるんだけど、刹那がそうさせたの。 調整が付くまではこの部屋になるわ」
「女子と相部屋にならないだけマシだよ、夜空姉」
そして部屋に入る一夏と夜空。
「あれ? 刹那兄と琉歌姉は?」
「ここにはいないわ。 ここから行けるわ」
夜空は戦艦へと続くワープゲートを発言させる。
「また『カオス・クリスタル』か。 何でもありだな。 流石神様だな」
一夏は何でもありな『カオス・クリスタル』の性能に改めて感心していた。
「さあ行くわよ。 一夏には内緒で創っていたんだから」
「何のためのサプライズだよ。 まあ、面白そうだしいっか」
一夏と夜空はゲートをくぐり、戦艦へと移動する。
「あ、一夏君、夜空ちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、お義母さん」
「母さん! ってことは、父さんもいるのか?」
「呼んだかい、一夏」
夢乃と幻夜が出迎えたことに驚く一夏。
だが、納得もした。
二人をどうしたのかという理由を。
「刹那兄は?」
「大分落ち着いているね。 まあ、本人を見たら変わると思うけどね」
「そっか。 それならいいや」
セシリアはどうなってもいいと思っている一夏であった。
「一夏、来たんだ」
「刹那兄。 夜空姉が連れてきてくれた」
「ありがとう夜空。 本来なら僕が行くべきだったんだけどね」
「あんな状態で行かせれないわよ」
「で、刹那兄。 これは何なんだ?」
疑問だったことを聞く一夏。
「これは空中戦艦だと思ってくれればいい。 ステルスもつけてあるからばれる心配も無い」
「まあそうだよな。 刹那兄がばれるようなことをするわけ無いし」
「で、あの部屋は正真正銘俺たちの部屋だ。 まあ、これがあるから別になくてもいいんだけど、それだと面倒だからね、ああしたんだ。 まあ、あっちでも寝るつもりだよ」
「俺はどっちで寝ればいいんだ?」
「どっちでもいいよ。 IS学園内のことならここで見れるから」
刹那はモニターの一つを出して一夏に見せる。
「うわ、流石だな」
「滞空回線って言うんだ。 これがあるから部屋の外の様子とか丸わかりだよ」
「凄いな、相変わらず」
「部屋に盗聴器とかは何一つ無いから、たとえあっても自動破壊されるから問題ないよ」
「うん、安心だな」
もうこんな感じの異常には慣れている一夏は反応も普通であった。
ちなみに、その日の夜、刹那の部屋には、二つの嬌声が響いていたとさ。
翌日、琉歌と夜空は立つことができなかったとさ。