小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

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第十八話『刹那VSセシリア』



「やっぱり一夏が勝ったわね」

「一夏が負けるわけが無い。 今の一夏なら、あの程度の敵なら五人は同時にやれる」

「でしょうね。 所詮代表候補生。 一夏にとっては敵ではないわ」

刹那たちは、一夏たちの試合を見て、当然だと言い放つが、他の者たちは違った。

(し、信じられません……ISにほとんど乗ったことの無い闇影君が、ああも圧倒的に代表候補生であるオルコットさんを倒すなんて……)

(馬鹿な……あの動き、国家代表にも匹敵―――いや、超えている! いくら闇影自身が強いとしても、初心者があそこまでの動きを見せるなど、ありえん!)

(あ、あれが一夏だというのか!? 圧倒的ではないか!)

一夏の動きは、教師からしてみれば異常であった。
とても初心者の動きではない。
まあ、一夏たちからしてみれば、IS以上の物を扱えるのだから、当然であるのだが。

「お帰り、一夏」

「ああ、ただいま」

一夏が戻ってくると、声をかける刹那。

「で、どうだった?」

「弱いし油断しすぎ。 もう少し動いてくれると思ったんだけど、所詮今時の女だな。 過度な期待をした俺が馬鹿だった。 あんな奴が、強い訳無いのに」

「そうかい」

刹那は苦笑をしながら返事をする。
今の一夏たちからしてみれば、冷や汗しか出ないものだが。

「あんなに弱いとなると、どんな風に遊んであげようかな……」

肩を震わせる刹那に、この場が凍りついた。
すでに、僅かだが殺気が漏れ出しているからだ。

「刹那、落ち着いて」

「殺しちゃ駄目よ。 前みたいに、殺しかけないでよね」

以前、琉歌たちをナンパしようとした男がいたのだが、その男は、下心丸出しで、二人を汚らわしい目付きで舐め回すように見ていたため、そして、その手で無理矢理触れようとしたため、刹那がブチ切れたのだ。
あの時は、琉歌と夜空が何とか落ち着かせたので、その男は死なずに済んだのだが、今でもその男は病院で精神治療を受けている(既に四年は経っている)。
肉体的にも、精神的にも、刹那は痛めつけたのだった。
あの時の二の舞にしないように、刹那の手を汚さないように、琉歌たちは刹那を落ち着かせている。

「わかっているよ。 でも、ただでは済まさないよ。 あの糞餓鬼は、琉歌と夜空を侮辱したんだ。 本来なら、死にも等しい苦しみを与えるところを止めてあげるだけ、感謝してほしいものだよ」

刹那のその言葉に、

(ああ……やっぱり、刹那兄にトラウマを埋め込まれるな……)

一夏は最大級の哀れみを、セシリアに向け、

(刹那が暴走しないように、気をつけなきゃ……)

琉歌は刹那が試合中に暴走しないか気が気ではなく、

(もしもの時は、私たちで止めないと……)

夜空は暴走した時の対処について考えていた。

(闇影君のお兄さん……なんて恐ろしいことを考えているんですかぁ!?)

そして、真耶は刹那の言葉に震え、

(あの男……間違いなく、闇影以上だ。 あの時の殺気……徒者ではない……)

織斑千冬は刹那の実力を見極め、

(あの男が、一夏を変えてしまった元凶……完全な素人が、代表候補生に勝てるはずが無い……)

箒は、誤った考えをしていた。
一夏も素人であるのに代表候補生を圧倒し、刹那が『無毀なる湖光(アロンダイト)』を抜き放った時のことを忘れていた。




 ☆




そして、ついに試合の時間になった。

「さて、行くとしよう」

刹那は、悠然とアリーナに向けて歩き出す。

「「「刹那(兄)」」」

琉歌、夜空、一夏が刹那に声をかける。

「やりすぎないでね」

「やりすぎたら怒るからね」

「殺すなよ」

とても試合前にかける言葉ではなかった。

「わかってるよ」

刹那はその言葉に苦笑すると、返事をした。

(これでいいかな)

刹那は頭でイメージし、ポケットから取り出した黒いリングが光を放つ。
直後、刹那には漆黒の装甲が覆われていた。
その姿は、まるで騎士であった。
これは、『カオス・クリスタル』が創った機体で、『シャドウパラディン』シリーズの一つ、その名も『ブラスター・ダーク』。
自身が雀ヶ森レンに似ているため、創ったシリーズである。
そして、他のシリーズと比べると、性能は少々低い。
まあ、それでもISとは桁違いの性能を誇るのだが。

「来たね」

「………………」

そして、セシリアがやってきた。
時間ちょうどであった。

「さあ、始めよう」

「え、ええ」

刹那は笑っている。
普通に笑っていた。
それがセシリアの恐怖心をさらに増させた。

『それでは、試合開始!』

織斑千冬の掛け声で試合が始まった。

「さあ、絶望を味わいな」

直後、刹那が消えた。

「なっ!? どこに!?」

ズドォンッ!

「くっ……!」

セシリアは背後からの衝撃で、アリーナの地面に叩き付けられていた。
刹那は、ISのハイパーセンサーでさえも捉えられないほどの速度で移動し、セシリアの背後から剣を振り下ろしたのだ。

「立ちなよ。 まだ始まったばかりだよ」

本来ならば、あの一撃で終わっていた。
いくらIS用にスペックを落としていたとしても、刹那ならばあの一撃で終わっていた。
だが、終わらないのは、刹那が手加減をし、遊んでいるからに他ならない。
刹那は地上に降り立ち、セシリアが動くのを待つ。

「何かするのなら、それがもたらす結果を背負わなければならない。 それがたとえ、どんな行為であっても、それがもたらす結果から、逃げてはならない」

刹那は蔑んだ瞳でセシリアを射抜きながら、言葉を放つ。

「侮辱するのなら、した対象の怒りから逃げてはいけない。 全てに原因があるように、全てに結果がある。 結果を受け入れる覚悟が無いのなら、侮辱なんてするな。 結果から逃げる奴に、何かをする資格は無い」

刹那は、この蹂躪がもたらす結果から逃げない。
それが、学園中から蔑まれることとなろうとも、全てを受け入れる。
だから、問答無用で剣を振り下ろせる。

「弱い。 弱すぎるね。 その程度で選ばれた人間? 笑わせるな。 貴様程度、一夏の足下にも及ばない」

セシリアの放つレーザーは、すべて討ち払われていた。
避けるではなく、討ち払う。
セシリアのプライドは、既に粉々に打ち砕かれていた。
それでも撃ち続けるのは、何かしなければ殺られるという、強迫観念に突き動かされているのだ。

「……もう厭きた。 終わらせようか」

空を飛ぶセシリアに、再び反応されない速度で急接近し、地上に叩き落した。
そして、そのまま剣を天に掲げた。

「これで終わりにしてあげるよ」

赤黒い波動が剣から放たれる。
その波動は、剣を中心に渦巻き、暴風が吹き荒れる。

「ダークサイドブレード」

刹那は剣を振り下ろした。
赤黒い波動がセシリアへと襲い掛かる。

「きゃあああああああああああっ!!!」

赤黒い波動に飲み込まれ、セシリアの機体のシールドエネルギーは尽きた。
セシリアを中心にクレーターが出来上がり、セシリアの機体はボロボロになり、そしてセシリアは気絶していた。
あれでも、あれだけの被害を被ったのにもかかわらず、威力を抑えていたのだ。
刹那は、セシリアを抱えるとピットに向かって飛んだ。

「「お疲れ様、刹那」」

「見てるこっちが同情したくなったぞ、やっぱり」

刹那がピットに戻り、琉歌と夜空、一夏がそう言った。
まあ、刹那がしたことは途轍もない恐怖を相手に刻み込んだであろう。

「これに懲りたなら、それでいい」

「いや、普通懲りるだろ。 あんだけやられたんだから。 ってか、早くそいつ降ろしてあげろよ。 どうせしばらくは目覚めないんだろうしな」

「そうだね。 この子は任せたよ。 手加減はしたけど、ISはダメージレベルがCを越えている。 後の処理は任せたから」

刹那は気絶するセシリアを床に寝かすと、機体を解除する。

「さて、琉歌、夜空、一夏、帰るよ」

「わかったわ」

「そうね。 ここにはもう用はないしね」

「だな。 もうやることも無いし、ここにいるだけ無駄だな」

刹那たちはそう言うと、その場にいた他の誰かに声をかけることなくピットを出て行こうとした。

「待て!」

だが、それを止めたのは織斑千冬であった。

「……何かな?」

不機嫌そうに答える刹那。

「お前が使っていた機体は何だ! どこで手に入れた?!」

当然と言えば当然の疑問であった。
刹那が持つのはISもどきだ。
だが、ISを越える兵器だが。
その正体を知らないとはいえ、ISを持っていることを疑問に思うのは自然なことであった。

「君に教える義理は無い。 僕は君が嫌いなんだ。 それと、君の親友である篠ノ之束もね」

「刹那兄に喧嘩売らない方がいいぞ。 特に、アンタともなれば、刹那兄は本気で殺しちまうだろうからな」

「っ!」

一夏の口から放たれた『殺す』と言う単語に、織斑千冬は一瞬怯んだ。
先ほどの光景を見ていた以上、流石のブリュンヒルデも怯むのだ。
いや、怯まない方がおかしい。

「後、教えてあげるけど、刹那は全然本気を出していないわ。 そうね、あれで一割にも満たないかしら」

「「「っ!?」」」

これを聞いた三人は驚いた。
これが驚かないはずが無い。
なぜならば、あそこまで圧倒的な力を見せたのにも関わらず、あれが一割にも満たないのだ。
あまりの非常識ぶりに、驚くしかない。

「刹那が本気を出していれば、ここら辺一帯は消し飛んでいたでしょうね」

「だろうね。 まあ、するつもりはないけどね」

刹那の本気は、『カオス・クリスタル』そのものを使った時だ。
あまりに負担をかけるが故に、創った機体で代用しているが、『カオス・クリスタル』の力は世界をも破壊する力を持っている。

「そんなことはどうでもいいから、早く戻るよ。 父さんたちが待ってる」

刹那は三人を促し、帰ろうとする。

「ま、待て! まだ聞いていないぞ!」

だが、再び邪魔をする織斑千冬。
刹那はイラついていた。

「何様のつもりだい? たかがブリュンヒルデ、たかが一教師でしかない貴様が、僕を詮索する権利は無い。 これは、世界の決定だ。 あと、僕たちのことを探ろうとした奴は、殺されたって文句は言えない。 僕がそう言う風にしたんだからね」

刹那が決めつけた条件に、『刹那たちの詮索は禁止にし、これを破った者は殺されても仕方が無い』という驚愕すべき内容を認めさせたのだ。
しかも日本だけでなく、世界にだ。
ただ、一夏の専用機『白式』の情報は提示すると言うことにはしてある。
まあ、それの決定権は全て刹那にあるので、白式のデータの提示も刹那次第と言う事だ。

「まあ、死にたいのなら好きにしなよ。 僕たちはそれで罰せられることは無いんだからね」

それに、世界に襲われようが、刹那の前には誰も敵わない。
だからこういう風に言えるのだ。
まあ、これは自分たちの詮索を止めさせるだけの口実であって、本当にする気は無い。

「……無駄な時間を過ごしたね。 行くよ」

「ええ」

「そうね」

「だな」

刹那たちは、不穏な空気を残したまま、立ち去った。



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