第二十話『確定と就任パーティー』
一夏がセシリアと戦い、刹那がその次元の違いを見せつけた翌日のSHR。
「では、一年一組代表は闇影一夏くんに決定です。 あ、一繋がりでいい感じですね!」
生徒たちは盛り上がっているが、一夏は面倒くさげに溜息をついていた。
ちなみに、この場にセシリアはいない。
一夏の宣言通り、ISは大破し、セシリアは未だに目を覚まさない。
たとえ目を覚ましても、しばらくはトラウマで寝込むであろう。
「あのー、先生」
そこで、生徒の一人が真耶に声をかけた。
「さっきからずっと気になっていたんですけど、セシリアはどうしたんですか?」
教室が静まり返った。
盛り上がっていた空気が、一気に冷めた。
「え? ええ? わ、私、言っちゃまずいこと言った?」
その生徒は昨日の見るも無惨な惨劇を見なかった者だ。
見てしまった人からしてみれば、あれは忘れたくても忘れれない光景だ。
あれは、ただの蹂躪だ。
見ていない人にとっては何がなんだかわからない。
「……あいつなら今頃ベッドの上だろう。 刹那兄に禁句を言ったんだ。 むしろあの程度で済んだことの方が幸運だ。 まあ、結局はあいつの自業自得だ」
一夏はその静まり返った空間の中でそう言った。
セシリアはあれで助かっているのだ。
もしも怒らせた直後に戦っていた場合、セシリアは遊ばれること無く、一撃で倒され、コアごと破壊されていてもおかしくないのだ。
そして、一生トラウマから逃れられなくされることもありえたのだ。
だが、刹那は戦いまでの一週間、琉歌と夜空がなだめたおかげでこの程度で済んでいたのだ。
「んんっ! クラス代表は闇影一夏、異存はないな」
織斑千冬が咳払いで注目を集め、確認する。
生徒たちはセシリアのことを引き摺りつつもはーい、と返事をしたのだった。
☆
「ではこれよりISの基本的な飛行実践を実践してもらう。 闇影、オルコット。 試しに飛んでみせろ」
四月も下旬になり、遅咲きの桜の花びらがちょうど全部なくなってきている。
そして、セシリアも授業に戻っている。
ちなみに、セシリアは試合の後一週間は授業に出なかった。
刹那を見なければ通常の動きを出来るくらいまでには回復しているのだが。
ちなみに、刹那を認識している場合は、セシリア自身がトラウマと恐怖に苛まれ、とても行動できる状態ではなくなる。
「よし、飛べ」
ISを展開した一夏とセシリアが空へと急上昇した。
その飛行は流石と言ったところである。
「闇影、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。 目標は地表から十センチだ」
先にセシリアが急降下を行った。
それは流石は代表候補生。
トラウマを刻み込まれつつも、刹那がいなければそこそこ立ち直っているので、ちょうど十センチのところで停止した。
続いて一夏も急降下を行った。
刹那の特訓を受けてきただけはあり、一センチのところで停止して見せた。
「次に闇影、武装を展開しろ」
「はい」
「では始めろ」
一瞬で一夏の右手に≪雪片参型≫が現れる。
展開速度も一級品である。
「ほう、中々の速さだな」
一夏は武装切り替えの高等技術『高速切替』はできないが、展開だけなら速い。
展開するだけなら『高速切替』に匹敵するかもしれない速度である。
「ではオルコット、武装を展開しろ」
セシリアは一秒と経たずに展開、射撃可能まで完了していた。
「さすがだな、代表候補生。 ―――ただし、そのポーズはやめろ。 横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。 正面に展開できるようにしろ」
「で、ですがこれはわたくしのイメージをまとめるために必要な―――」
「直せ。 いいな」
「……はい」
セシリアは織斑千冬の一睨みで黙る。
ちなみに、刹那は琉歌や夜空と一緒に戦艦内でその光景を見ている。
まだ、セシリアの前に姿を出すわけにはいかないのだ。
出したら、上記のように、授業どころではなくなる。
「オルコット、近接用の武装を展開しろ」
「えっ。 あ、はっ、はいっ」
手の中の光はなかなか像を結ばず、空中をさまよっている。
「くっ……」
「まだか?」
「す、すぐです。 ―――ああ、もうっ! ≪インターセプター≫!」
セシリアは武器の名前をヤケクソ気味に叫んで展開する。
この方法は初心者の手段であるため、セシリアにとっては屈辱的なことである。
まあ、そのプライドも一週間前にずたずたにされたのだが。
「……何秒かかっている。 お前は、実践でも相手に待ってもらうのか?」
「じ、実践では近接の間合いに入らせません! ですから、問題ありませんわ!」
「ほう。 闇影との試合では手も足も出ず、簡単に懐を許していたように見えたが?」
「あ、あれは、その……」
それは揺るぎ無い事実なので反論の余地は一切無いセシリアである。
そもそも一夏と戦ったことが間違いなのだ。
粋がって決闘を申し込んだ挙句、一切手も足も出ずにボロボロにされたのだから、反論など出来るわけが無い。
「時間だな。 今日の授業はここまでだ」
一夏は授業が終わると、すたすたと戻っていくのだった。
☆
「というわけでっ! 闇影くんクラス代表決定おめでとう!」
「おめでと〜!」
クラッカーが乱射された。
今は夕食後の自由時間。
一組のメンバーは全員揃っていた。
「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねえ」
「ほんとほんと」
「ラッキーだったよねー。 同じクラスになれて」
「ほんとほんと」
さっきから相槌を打っている女子は二組の女子であった。
そもそも、ここにいるのは一組の人数を超えている。
「はいはーい、新聞部でーす。 話題の新入生、闇影一夏君にインタビューをしに来ました〜!」
盛り上がる女子たち。
「あ、私は二年の黛薫子。 よろしくね。 新聞部副部長やってまーす」
一夏に名刺を渡す薫子。
画数が多い名前である。
「ではまず闇影君! クラス代表になった感想を、どうぞ!」
ボイスレコーダーを一夏に向け、瞳を輝かせている薫子。
「まあ、なってしまった以上は頑張りますよ」
無難な答えをする一夏。
「えー。 もっといいコメントちょうだいよ〜。 俺に障るとヤケドするぜ、とか!」
だが、薫子はそれが気に入らなかったようで、一夏に恥ずかしい台詞を言わせようとする。
「なんでそんな馬鹿みたいな台詞言わないといけないんですか……」
そんな薫子に、一夏は呆れていた。
「つまらないなー。 まあ、適当に捏造しておくからいいや」
「はぁ……」
あまりの非常識な発言に呆れる一夏。
捏造することをこんなに堂々と、しかも本人の目の前で言うべきではない。
「ところで闇影君。 噂のお兄さんとお姉さんってどんな人? 模擬戦で見せたように怖い人? というより、あの機体は一体何なの?」
薫子は刹那たちのことを問いだした。
やはり、あんなことを仕出かした刹那のことが気になるのだろう。
「刹那兄も琉歌姉も夜空姉も優しいぞ。 ただ、家族の害になったりすると容赦はしないけどな。 それと、刹那兄に琉歌姉と夜空姉の侮辱とかは、どんなことがあっても、決して言っちゃ駄目な絶対の禁句だ。 それを言ったら最後。 最低でも病院送りにされる。 現に、オルコットもそうなったしな。 まあ、あれは大分マシな方だったけどな」
「刹那があの程度で済ませた方が私たちにとっては驚きなのよ。 だって、どこも怪我をさせていないんだもの」
「今までのは少なからず骨は一本折れてたしね」
「まあ、琉歌たちがいなかったらそうなっていただろうね」
そこに現れたのはその話題の当人である刹那に琉歌、夜空である。
「刹那兄に琉歌姉に夜空姉? どうしてここに? てっきり来ないものだと思ってたんだけど」
「特に理由は無いな」
一夏の疑問にばっさりと答える刹那。
「とは言っても、実際はインタビューされる一夏が余計なことを言わないかの監視だね。 まあ、一夏なら大丈夫だと思うけど、念のためだよ」
「大丈夫だって。 わざわざ他人に余計なことを言うほど、俺は馬鹿じゃないつもりだぜ」
一夏がさっき言っていたのは一応女子への忠告であるため、刹那は干渉していない。
「あの、闇影君のお兄さんですよね?」
そこに入り込んできたのは薫子であった。
「ああ、そうだよ。 僕が闇影刹那だよ」
「あの機体ってどこで手に入れたんですか?」
その質問をする薫子。
「言う必要は無い。 知ろうとするな。 君らが知っていい内容ではない」
『カオス・クリスタル』は神が創りし究極の兵器。
たかが高校生如きが知っていいことではない。
そもそも、そんな現実味の無いことを言ってもすぐに信じる奴はそうはいない。
「そこをなんとか!」
刹那が拒否をしてもなお食いつく薫子。
新聞部魂に火がついているようだ。
「しつこいよ。 僕は教える気はない。 諦めな」
冷えた目で言う刹那に、薫子の新聞部魂は消えた。
その目で見られただけで、怖気付いたのだ。
「は、はい……すみません……」
「わかってくれればそれでいいんだよ。 ゴメンね、怖かったでしょ?」
薫子が素直に謝ると、刹那はポンッと薫子の頭に手を載せて微笑みかけた。
基本、人に優しいのが刹那である。
ただ、刹那の機嫌を損ねさせた相手には、冷徹に、冷酷に、無情になるのだ。
「じゃあね、一夏。 僕たちはもう行くよ。 あっ、後、他の人たちに迷惑をかけないようにね」
刹那はそう言うと、琉歌と夜空を連れて戻っていった。
三人が去った後に残ったのは、どこか気まずい空気であった。
一組の生徒からしてみれば、恐ろしい存在だとと思ったら、実は優しい刹那に、優しい時とのギャップに、どう思ったらいいのかわからず、薫子は目の前で微笑みかけられ、顔を赤くしていた。
刹那はイケメンなので、優しく微笑みかけられれば、かなりの確立で落ちる。
「……刹那兄は相変わらずだな」
一夏は苦笑しながらそう言うのであった。
ちなみに、このパーティーは十時過ぎまで続いた。