小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

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第二十二話『クラス対抗戦』



少し時が進んで五月に入り、今日はクラス対抗戦当日。
一回戦は一組対二組。
つまり、一夏対鈴である。

「一夏、何か嫌な予感がする。 気をつけておいて」

「了解」

刹那の忠告を聞いた一夏は、アリーナへと飛ぶ。
そして一夏と鈴はアリーナ上空で向かい合う。
鈴のISは『甲龍(シェンロン)』。
漢字は違うが、読みは某龍の球の龍の名を連想させるが、『甲龍』である。

「ようやくこの時が来たな」

「ええ。 待ちに待ってたわよ。 やっとアンタに私の力を見せ付けれる」

空中で向かい合いながら、一夏と鈴は言葉を交し合う。

「俺を楽しませてくれよ。 お前がそんじょそこらの代表候補生とは違うと言うところを俺に見せてくれ」

「お望み通り、中国代表候補生の力、見せてあげるわ!」

二人の雰囲気が変わった。
一夏は、獣のように荒々しく、鋭いが、静かな闘志を滾らせる。
鈴は気配がより鋭くなり、さながら熟練の格闘家を彷彿とさせる。

『それでは両者、試合を開始してください』

鳴り響くブザーと同時に、二人は動いた。
一夏は試合開始と同時に白式唯一の武器≪雪片参型≫を展開し、鈴の異形の青龍刀≪双天牙月≫を弾く。

「やるわね! 流石はあんな大口を叩いただけはあるわ! でも、まだまだこれからよ! この程度で勝った気にならないでよね!」

「当然!」

鈴は≪双天牙月≫をバトンを扱うかのように回す。
両端に刃のついた―――というより刃に持ち手がついた―――それは、縦横斜めと鈴の手により自在に角度を変えて切り込んでくる。
高速回転しているため、刀一本で捌くのは少々面倒である。
だが、一夏はその常人離れした技と力でそれを軽やかに捌ききる。

(オルコットよりも強いな、鈴。 だが、この程度では俺を倒すことは到底出来ない!)

(私もそれなりに強いって自負してるけど、何で刀一本で私の乱舞に完璧に対応できんのよ! どんだけ強くなってんのよ、こいつは!)

二人とも、各々考えていたが、二人の表情はとても楽しそうであった。

「やっぱお前は最高だ、鈴! まさかここまでやるとはな!」

「アンタも言うだけのことはあるじゃない! まさかこの私がここまで簡単にあしらわれるなんてね!」

「お前は強いよ! だが、俺はそのさらに上にいるだけだ!」

「だったら、私はアンタを越えるわ!」

「やって見ろ!」

二人は再び衝突した。
鈴の≪双天牙月≫がバトンのように回され、一夏は一振りのままの≪雪片参型≫で捌ききる。
さっきまでと同じような展開だが、互いに攻撃の鋭さが増していた。
まるで、二人の気持ちが高ぶっていくのに呼応するかのように。

「いいぜ、鈴」

「何がよ」

二人は互いの得物を何度も衝突させながら、静かに語る。

「こっからが本番だ。 ここからは、俺も本気で潰しに掛からせて貰うぜ!」

「上等! やれるものならやってみなさい!」

一夏は僅かにエネルギーを放出し、それを取り込んで加速する。
ほんの僅かな瞬時加速(イグニッション・ブースト)だった。
突然の速度の上昇に、鈴は反応しきれず、一夏に懐に入られる。
一夏は雪片を振りぬこうとしたが、鈴の肩アーマーがスライドして開き、中心の球体が光った。

「っ!」

一夏はそれに反応して、再び僅かな瞬時加速で軌道を変える。
本来の瞬時加速ならば、負荷が掛かりすぎて軌道の変更は出来ないが、僅かな加速でなら、軌道を変えることが出来ないことは無いのだ。
鈴はその隙に後退したが、一夏の雪片は直撃はしなかったものの、掠りはした。
だが、一夏の攻撃は、掠るだけでも致命傷である。

「流石ね。 あれ初見で避けるなんて」

「いい判断だ。 あの時その衝撃砲を使っていなければ、お前はやられていただろう」

「……厄介ね。 掠っただけなのにかなり持っていかれたわ」

さっき一夏の攻撃には、『白式』の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)・≪零落白夜(れいらくびゃくや)≫が使われていた。
≪零落白夜≫は、自らのシールドエネルギーを媒介に、『シールド無効化攻撃』ができるようになるのだ。
これは諸刃の剣でもあるが、当たればそれだけで致命的なダメージとなる。
一撃必殺の威力を秘めた攻撃なのだ。
その威力は、掠る事すら赦されない。

「終わらせるのは惜しいが、そろそろ終わらせてもらうぜ」

「いいわ! 私の持てる全てでアンタを倒す!」

一夏は≪雪片参型≫を長刀と短刀の二本に分裂させ、一夏の本気である二刀流となる。

「行くぜ、鈴。 これで最後だ」

「二刀流……それがアンタの本気ね。 いいわ、受けて立つわ!」

「白式、目標を斬り刻む!」

二人は同時に動き出した。
一夏は瞬時加速も使って、鈴へと飛ぶ。
そして、二人の刃がぶつかる瞬間、

ズドオオオオンッ!!!

「「っ!?」」

正体不明の衝撃が、アリーナを襲った。
それは、鈴の衝撃砲≪龍砲≫ではない。
範囲も威力も桁違いだからだ。

「……刹那兄の予感的中っと」

そして、アリーナ中央からもくもくと煙が上がる。
『それ』は、アリーナの遮断シールドを貫通してきたのだ。
一夏は煙を注視する。

『一夏、試合は中止よ! すぐにピットに戻って!』

鈴がプライベート・チャンネルで一夏に通信を飛ばしてきた。

『いや、こいつはここで潰す。 それに、逃げるわけにも行かなくなったんでな』

そう、一夏は『それ』にロックされたのだ。

『一夏!』

『お前が逃げろ。 エネルギーもそこまで多くないだろう』

『だからってアンタを置いて逃げるなんて―――』

『弱い奴が出しゃばってんじゃねえよ』

『っ!』

一夏は冷たく言い放った。

『確かにお前は強い。 だがな、鈴じゃあ俺には敵わない』

そこに、遮断シールドを破ったと思しき熱線が発射された。

「ちっ!」

一夏は舌打ちをすると、鈴を抱えて避ける。

『鈴、はっきり言わせてもらうと、お前がいると邪魔なんだよ』

『っ……わかったわよ……』

鈴は一夏の言葉に怒りを覚えるが、鈴も少なからず感じていた。
『一夏には勝てない』と。
『この場では邪魔でしかない』と。
だから素直に引いたのだった。

そして、同時に熱線が乱射された。
それにより煙が晴れ、その姿があらわになった。

「何なんだ、こいつは……」

深い灰色―――黒とも形容できるボディに、手が異常なほどに長い。
全身にスラスターがあり、剥き出しのセンサーレンズは不規則に並んでいた。
そして、『全身装甲(フル・スキン)』であった。
全身装甲の機体は存在するが、それは刹那の創る機体のみであり、普通ISは全身に装甲なんていらない。
なぜなら、防御は基本シールドエネルギーで行われるからだ。

「お前、何者だ?」

一夏はオープン・チャンネルでその襲撃者に話しかける。

「………………」

「だんまり、か。 まあ、当然だな」

『ハロ。 奴の解析、出来るか?』

『マカセロ! マカセロ!』

一夏はハロに襲撃者の解析を任せると、一夏も襲撃者を観察する。

『闇影君! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生たちがISで制圧に行きます!』

そこに、真耶が慌てながら割り込んできた。

「いいや、俺がここで潰す。 別に殺っちまってもいいよな、刹那兄?」

一夏は、自身の義兄へと確認を取る。
一夏にとって、刹那の判断・指示・命令は絶対なのだ。

『当然。 あまり被害を出さないようにね』

一夏は、刹那のその判断に口角を上げた。

「んじゃま、いっちょ殺るか!」

一夏は二振りの≪雪片参型≫を握りなおし、襲撃者へと飛び掛った。



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