第二十三話『裏切りの聖騎士』
「もしもし!? 闇影君聞いてます!? ってかお兄さんも何認めちゃってるんですかー!」
真耶は焦っていた。
焦りのあまり、今や恐怖の対象の刹那にまで叫んでいた。
「あの程度の敵、一夏の敵じゃないよ」
刹那は直感的に、あの襲撃者は一夏よりも弱いと感じていた。
「琉歌、守護領域で観客席を守って」
「わかったわ」
琉歌は、刹那から貰っていたその機体を展開する。
その名も『幻影の蜃気楼』。
コードギアスの『蜃気楼』を元に創られた、最高の防御を持つ機体である。
元は『蜃気楼』で、『飛翔滑走翼』はなく、そこに『ガンダムOO』のGNドライブが搭載されている。
そして、『ガンダムSEED』、『ガンダムSEED DESTNY』の核エンジンも搭載されているので、エネルギー切れはほとんどありえない。
『ハロ、やるわよ』
『オーケー! オーケー!』
『究極守護領域、展開……』
アリーナの遮断シールドが、透明のピンクのプレートに覆われた。
この防御力は、最低出力でも宝具『約束された勝利の剣』の直撃を受けてもびくともしないほど強固である。
「先生! わたくしにISの使用許可を! すぐに出撃できます!」
そこに、セシリアが真耶と織斑千冬に訴えかけた。
「そうしたいところだが、―――これを見ろ」
「遮断シールドがレベル4に設定……? しかも、すべての扉がロックされて―――あのISの仕業ですの!?」
「そのようだ。 これでは避難することも救援に向かうこともできないな」
そう会話しているところに、刹那は呆れながら言った。
「君がいては、一夏の邪魔だ。 一夏のためを思うなら、ここで黙って見ていな。 わかったよね? 篠ノ之箒」
「っ!」
刹那は、背後で出て行こうとする篠ノ之箒に声をかけた。
箒は、気づかれるとは思っておらず、驚いていた。
「言ったばかりだろう。 邪魔をするなって。 君たちは黙ってここで待っていろ」
刹那は僅かに殺気を出しながら告げる。
僅かだが、ただの生徒には重すぎる殺気であった。
弟を危険に曝しかけるであろう箒を止めるために、容赦はしなかった。
「黙って見ていな。 一夏と君たちの差をね」
☆
『ハロ、何かわかったか?』
『ムジンキ、ムジンキ』
ハロは刹那から貰っている機体に組み込まれているので、ISの機能は全て使える。
だから、プライベート・チャンネルで話している。
『無人機? それは確かなのか?』
『マチガイナイ、マチガイナイ。 ウタガウナ、アホー』
『最後に罵倒を入れるな!』
こんな状況下でもハロに遊ばれる一夏。
一夏は、白ハロによく遊ばれていたりしているのだ。
それでもその動きは一切鈍っていない。
「まあ、無人機ってことは、本気で、全力で殺ってもいいんだよな!」
一夏は鈴の実力は物足りなかったが、それでもあの試合を楽しんでいた。
刹那たちとやるときとは違う高揚感のある試合であったのだ。
そんな試合を邪魔されて、一夏は苛立っていた。
だからこそ、一夏は無人機を完全に破壊することにしていた。
(流石ハロ……あれのスペックをこの短時間で探り出すとはな……おかげですぐに殺れる……)
一夏は一度そのスペックデータを一度見たら、そのデータと照らし合わせるために接近・攻撃・回避の工程を何度か繰り返した。
だが、本気で斬りかかったりする事はなく、ただ実際のデータの計測のためのフェイント程度でしかなかった。
(ほとんど誤差は無いな……。 これなら、次で終わらせれるな……)
いくらスペックデータを見たとはいえ、たった数回の照合で相手を見切る一夏の観察眼は、はっきり言って異常である。
流石は刹那たちの弟である。
シャキィン……!
前方に突き出した雪片を擦り合わせて金属音が鳴る。
そこまで大きくないはずの音なのに、なぜかその音は響いた。
同時に、一夏の気配が変わった。
先ほどまでとは比べ物にならないほどに大きく、そして荒々しくなった。
「行くぜ……!」
一夏は一気に加速して襲撃者―――無人機へと飛び掛る。
無人機は両腕から高出力の熱線を連射するが、どれも一夏に掠る事すらしない。
連続の僅かな瞬時加速により、直線だけではない不規則な動きで追い詰める。
この動きは、機体の性能と、瞬時加速に熟達した者が、戦況に応じて即座に対応することが出来て初めて出来る、いわば荒業だ。
連続で行われる瞬時加速の負荷に耐えれる身体と、先ほど出たような技術や才能、そして知識があってようやく実用することの出来る裏技でもある。
「はぁっ!」
無人機の懐に入った一夏が二振りの雪片を振るう。
その、加速したままの状態で。
速度は重さ。
つまり、速ければ速いほど、その一撃の重さも重くなる。
よって、最大の瞬時加速の合わさった本気の一夏の斬撃の破壊力は、無人機を両断することなど苦でも無い。
それがもたらした結果は、無傷の一夏と、綺麗な断面でばらばらにされた無人機の残骸を作りあげた。
一夏は両手の雪片を一度振り払うと、一本に戻した。
(……久しぶりの本気だったが、こいつじゃあ納得できねえな……)
一夏はそう思ったが、とりあえずピットに戻ろうとした。
だが、異変はそれだけではなかった。
ドォォンッ! ドォォンッ! ドドォォォンッ!!
「っ!?」
一夏が頭上を見上げると、三つの機影が遮断シールドの下に展開されている究極守護領域に攻撃を繰り返していた。
「おいおい……まだいるのかよ……」
その攻撃は、守護領域の絶対防御の前に跳ね返されていたが、何度も何度も攻撃を繰り返していた。
『一夏。 そいつらは厄介な敵っぽそうだけど、『ランスロット』を使えば問題なく殺れるはずだよ。 だから、今からそいつらをいれるから、ランスロットで破壊してくれ』
『了解』
守護領域の一部に穴が開き、そこから三機の機体が侵入してきた。
その三機は、先ほどの機体とは違う形をしていて、その三機は同じ形をしていた。
どの機体も、まるで触手のようなコードがわなわなと蠢いていて、実に醜い機体であった。
『ハロ、あの三体の生体反応は?』
『ナシ! ナシ!』
(んじゃま、言われた通りに殺りますか)
一夏は、地上に降りると白式を解除した。
『闇影君!? どうしたんですか!?』
『一夏、アンタ何やってんの!?』
『闇影、貴様! 死ぬ気か!?』
真耶、鈴、織斑千冬たちが慌てて叫んだ。
だが、一夏は落ち着いていた。
いや、内面は物凄く高揚しているが、見ている分では落ち着いていた。
一夏はランスロットの待機状態である、金のUSBのような物を取り出す。
「さて、お前の初披露だ。 行くぜ、ランスロット!」
一夏が一瞬光に包まれると、一夏は全身装甲の機体を纏っていた。
その名は『ランスロット・パラディン』。
裏切りの騎士『サー・ランスロット』と、聖騎士を意味する『パラディン』の、正反対の性質の名前を持つ機体である。
その姿は、コードギアスの『ランスロット・アルビオン』の姿に酷似し、アルビオンではコックピットの出っ張りがある部分にGNドライブがあった。
当然、この機体にも核エンジンが搭載されており、エネルギー切れはほぼありえない。
この機体こそ、一夏の真の剣である。
「この醜い奴らは早く倒した方が、他の人のためだな」
外見が醜い三機は、女子生徒が悲鳴を上げるほどであった。
まあ、触手のように、飛び出ているコードが蠢いていたら、悲鳴も上げたくなる。
「さあ、魅せ付けようぜ。 俺とお前を、闇影一夏と『ランスロット・パラディン』の輝きを!」
直後、一夏が動いた。
脚部のランドスピナーを動かし、大地を滑るように、踊るように高速移動する。
その両手には、『MVS』を持ち、一夏は蹂躪を始めた。
一夏の一振りは無人機の腕を切断し、一夏のブレイズルミナスを纏った足刀は無人機の足をへし折った。
一夏のアクロバットな動きは、見る者を魅せ付けた。
「一気に決める」
一夏は両手のMVSをこすり合わせると、一気に加速した。
満身創痍の無人機に対して、残像が残るほどの速さでMVSを振りぬいた。
高速移動する一夏の前に、三機の無人機は手も足も出なかった。
僅か三分ほどで、無人機三機はばらばらに斬り刻まれたのだった。
「何もかも、雑すぎるんだよ」
見るも無惨な状態で破壊された三機は、遮断シールドを破るほどの脅威を持つ無人機たちは、手も足も出ずにただの鉄屑へと成り果てた。
それを成した一夏は、悠然と、そして堂々とした立ち姿で、その場にその姿を、『裏切りの騎士』の名と『聖騎士』の名の反対の意味を持つ、純白の機体の姿を、人々に刻み込んでいた。