小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

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第二十五話『二人の転校生』



「ハヅキ社製のがいいかなぁ」

「え? そう? ハヅキのってデザインだけって感じしない?」

「そのデザインがいいの!」

「私は性能的に見てミューレイのがいいかなぁ。 特にスムーズモデル」

「あー、あれねー。 モノはいいけど、高いじゃん」

六月の頭の月曜日。
一夏は教室にて、女子の談笑を聞き流しながら、白式のコンソールを開いていた。
何度も調整して、少しでもまともな機体にしようと試行錯誤しているのだ。
まあ、暇つぶしの一環でもあるのだが。

「ねー闇影君。 闇影君のISスーツってどこの奴なの? 見たこと無い型だけど」

「んぁ? ああ、俺のは刹那兄の特注だよ。 刹那兄は基本なんでも出来るからな」

ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位に伝達する。
刹那たちの機体には、そんなものがあっても無くても関係ないが、ISには必要になってくるので創ったのだ。
それと、他人に作らせると、ISスーツに超小型の発信機や盗聴器を付けさせないためでもある。
ちなみに、ISスーツは耐久性にも優れており、小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めれる。
もちろん、衝撃は消せないが。
ちなみにちなみに、刹那たちのスーツは衝撃も完全に消せる。
流石のハイクオリティである。

「へぇ、そうなんだ」

「あっ、じゃあやっぱりあの機体も闇影君のお兄さんが創ったやつなの?」

一夏の真の愛用機『ランスロット・パラディン』は学園中に知れ渡っている。
謎の機体、ということで有名なのだ。
同時に、刹那がやってのけた一方的な蹂躪の時に使っていた機体についても、学園で知らぬ者はいないほどに有名である。
まあ、誰も詳しく聞こうとは思わなかったのだが。
(あんなとんでもない光景を見て、自分もああなるかもしれないのに聞く馬鹿はいない)

「それは言う必要は無いな。 というより聞くな。 刹那兄がどうするかわかんねぇからな」

その一言で、誰も追及することは無くなった。
誰もセシリアの二の舞になりたくないのだ。
いくら刹那が優しいと知っても、怒った時の刹那を見てしまったがために、追及はしないのだ。

「そんなに知りたいのかい?」

そんな時、現れたのは話題の当人である刹那であった。
ちなみに、今は琉歌と夜空は連れていなかった。

「刹那兄!? 突然現れるのは止めてくれって! マジで心臓に悪いから!」

一夏は驚いて抗議の声を上げ、女子たちも無言の肯定をしていた。
教室にいた誰もが、刹那がいたことに気づいていなかったのだ。
その証拠に、刹那の声がした直後、女子たちは驚いて方をビクッと震わせていた。

「まあ気にするな。 それに、これはお前の修行の一環だぞ、一夏。 お前の気配探知を鋭くさせようとしているんだからな。 日常生活でも、ある程度感じ取れるくらいになっておいた方が、お前のためだ」

「そりゃぁわかるけどさ、それでも心臓に悪いんだよ。 刹那兄の気配遮断って、マジで消えたような錯覚に陥るんだから。 せめてもっと気配出してくれよ。 いくら俺でもないものは感じ取れないぞ」

刹那は修行の果てに、気配を遮断することを自らの手で体得し、その熟練度はアサシンレベルである。
本当にチートスペックの刹那である。

「すまんすまん。 流石にまだ早過ぎたね」

刹那は謝るが、実に軽い謝罪であった。

「で、僕たちの機体についてだっけ。 まあ、僕が手に入れた、とでも言っておこうかな」

刹那が―――というより、刹那の『カオス・クリスタル』が創ったので、強ち間違いではない。

「さて、そろそろ座った方がいいよ。 気配が近づいているからな」

「もう来たのか……」

一夏は若干嫌っぽそうに言った。
実際嫌なのだが。

「そういえば、刹那兄はどうするんだ?」

「まあ、今日は直接見ていくことにするよ。 奴が僕に気づくかも含めてね」

「ふーん。 俺の予想だと気づかないだろうな」

刹那が本気で気配を消せば、気づけるのは琉歌と夜空だけだろう。
なぜなら、この二人は刹那がどこにいるか、直感で大体わかるからだ。
しかも、その的中率は97%以上。
恐るべき愛の力である。

「じゃあ、今日も勉強に励みなよ。 つまらないだろうけどね」

刹那は、そう言うと気配を完全に消した。

『『『っ!?!?』』』

見ていた生徒たちは、いきなり目の前で人が消えた(ように見えた)ことに、驚愕していた。
一夏も一夏で驚いていたが、同時に刹那を尊敬しなおしていた。

(あそこまで完璧に気配を消すだなんて、本当に刹那兄はすげえや。 人の視線がある中で、ああも認識させないだなんて、流石人外の刹那兄だ。 マジでどこにいるかわかんねえ)

一応は人外の域にいる一夏でさえも、刹那がどこにいるかわからない。
音、気配、何もかもがわからないのだ。
刹那はそこにいる。
だが、視ることも、感じ取ることも出来ない。
それが、刹那の気配遮断能力である。

「諸君、おはよう」

そして、織斑千冬、及びに副担任の真耶がやってきたのだった。

「今日からは本格的な実戦訓練を開始する。 訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。 各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。 忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。 それもないものは、まあ下着で構わんだろう」

織斑千冬は連絡事項を伝えたのだが、その内容に一夏と刹那は心で『構えよ』とつっこんだ。

「では山田先生、ホームルームを」

「は、はいっ」

真耶にバトンタッチしたのだが、ちょうど眼鏡を拭いていて、慌ててかけなおしていた。

「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します! しかも2名です!」

「「「ええええええええっ!?」」」

いきなりの転校生紹介に驚く女子たち。
女子たちの情報網で知れなかったので、転校生が来たことに驚いたのだ。
一夏は『何故ばらさない?』と考えていたが、すぐに『どうせ国がそうしたんだろう』と結論付けた。

「失礼します」

「…………」

クラスに入ってきた転校生を見て、ざわめきが止まる。
なぜなら、片方が男子の制服を着ていたのだから。




 ☆




「シャルル・デュノアです。 フランスからきました。 この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

「お、男?」

「はい、こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を―――」

彼は中性的な顔立ちで、髪はブロンド。
印象はまさに『貴公子』であった。

「きゃ……」

「はい?」

「きゃあああああ――――っ!」

「男子! 三人目の男子!」

「しかもうちのクラス!」

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれてよかった〜〜〜!」

無駄に元気な女子である。
その三人の男子の中に刹那が混ざっているのはご愛嬌。
というより、既婚者である刹那を混ぜるべきでは無いし、そもそも刹那は『男子』ではなく『男性』だ。

(……あいつ男じゃない……デュノア……デュノア社か……)

刹那は、並外れた観察眼と直感で、シャルル・デュノアが男でないことを見切っていた。
だが、まだ情報が少ないので行動は起こさないでいた。

「あー、騒ぐな。 静かにしろ」

「み、皆さんお静かに。 まだ自己紹介が終わってませんから〜!」

もう一人は銀髪で左目に眼帯をしており、その赤い瞳の温度がゼロの、印象は『軍人』の小柄の少女であった。

「……挨拶をしろラウラ」

「はい、教官」

「ここではそう呼ぶな。 もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。 私のことは織斑先生と呼べ」

「了解しました」

(思いっきり軍人だな。 しかもドイツの。 こいつもあいつを慕う愚かな奴か……)

一夏は、少女を見てそう思った。
一夏は元・姉である織斑千冬を失望している。
そんな彼女を慕う少女を、冷めた目で見ていた。

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「………………」

クラスは沈黙する。
続く言葉を待っているが、当の本人は口を閉ざしたままである。

「あ、あの以上……ですか?」

「以上だ」

真耶は少女―――ラウラに尋ねるが、無慈悲な即答で返した。
そんなこんなで一夏と目が合うラウラ。

「! 貴様が―――」

ラウラは一夏の席に近づき、右手を振り上げ、その手を振り下ろす。

「っ!」

そしてラウラは驚愕した。
なぜなら、その手は一夏の左手の人差し指で止められたのだから。
しかも、右手は机に肘をつけて頬杖をつきながら、つまらなげにあくびをしながら、それをしてのけた。

「……何のつもりだ? お前は初対面の相手をぶん殴るのか? 俺はお前に殴られるようなことをした覚えは無いんだが?」

一夏は冷めた目でラウラを見つめた。

「私は認めない。 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」

ラウラのその言葉に、一夏は反応した。

「俺だって願い下げだ。 そもそもあんな奴の弟であったことに、慕っていたことに、一番不満を抱いているのはこの俺なんだからな。 というより、俺をあいつの弟なんかにするな。 俺はもうあいつとは関係ない。 俺は“織斑”ではなく“闇影”だ」

一夏のそのセリフに、千冬は表情を暗くし、ラウラはその目をより鋭くして一夏を睨み付ける。

「………………」

そして、一夏を侮蔑すると立ち去り、空いていた席に座る。
険悪なムードの中、織斑千冬が我に返って生徒たちの注目を集める。

「……あ、あー……ゴホンゴホン! ではHRを終わる。 各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。 今日は二組と合同で模擬戦闘を行う。 解散!」

織斑千冬は行動を促した。
一夏は少し苛立ち気になりつつも移動する。
女子が着替えを始めるから、ここに留まるわけにはいかないのだ。

「闇影。 デュノアの面倒を見てやれ。 同じ男子だろう」

織斑千冬の指示に顔をしかめつつも、その指示に従った。
そして、一夏は転校生、シャルル・デュノアを見て、直感的に思ったことを、ラウラとの対話で忘れていたことを思い出した。

(どうしてだろう、あいつは……昔の俺とどこか似ている気がする……)

一夏は、シャルルを見ながらそう思った。



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