第二十八話『昼食』
「すみません、お待たせしました」
「来たね。 待っていたよ」
刹那たちが屋上で座って待っていると、走ってきたのか、若干息の上がったシャルルがやってきた。
「さて、揃ったところで食べようか」
「そうね。 自己紹介なら、食べながらでも出来るしね」
そう言って、琉歌は重箱を取り出して広げる。
夜空は夜空で、お茶を取り出してコップに注いでいる。
「さてと、準備も出来たし、食べましょう」
「そうだね」
そう言うと、刹那たちは手を合わせる。
「「「いただきます」」」
「い、いただきます」
それが刹那たちのルールだ。
食事をする時は、食べる前と食べ終わった後に、ちゃんと挨拶をするのだ。
シャルルは、刹那たちがやっているのを見よう見まねでやっていた。
そのことに、刹那たちはシャルルの適応力に感心していた。
「さて、改めて自己紹介でもしようか。 僕は闇影刹那。 一夏の兄だよ。 弟共々、よろしく」
「じゃあ私も。 私は闇影琉歌。 刹那の妻よ。 よろしくね」
「私は闇影夜空。 刹那の愛人、といったところかしら? まあ、どうでもいいわね。 よろしく」
「愛人……」と、一瞬だけ表情を暗くするシャルルに気づいていた。
その変化には、一夏も気づいていたのだが、掘り下げるべきではないと判断して、口を出さなかった。
そもそも、愛人が普通にいること事態おかしいので、気にしないことにしたのだ。
「じゃあ、俺も改めて自己紹介するな。 闇影一夏だ。 将来の夢は刹那兄を超えることだ。 仲良くしようぜ」
刹那たちが自己紹介をすると、シャルルも琉歌と夜空もいることもあり、自己紹介をする。
「う、うん。 琉歌さんと夜空さんは初めましてですね。 僕はシャルル・デュノアです。 えっと、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。 自己紹介も済んだところで食べよう」
「そうね。 デュノアさん、遠慮せず食べていいからね」
「どれくらい食べるかはわからないから、ちょっと多めに作ったから。 好きなだけ食べてね」
「あ、はい。 いただきます」
シャルルは促されるがままに、箸を手に取り料理を食べる。
だが、シャルルは箸が上手く使えないようで、料理がつかめずにいた。
「あ、気づかなくてごめんなさい」
「箸、まだ上手く使えないのね。 はい、フォーク。 これなら大丈夫よね」
「あ、すみません。 ありがとうございます」
夜空にフォークを渡され、それを使って料理を口に含む。
「っ、おいしいです!」
シャルルは料理を口に含むと、驚いてそう口にした。
「そう? 口にあってよかったわ」
「どんどん食べてね」
「はい!」
余程気に入ったのか、シャルルは箸を進めていく。
刹那たちも料理を食べ始めた。
その日の昼食は、賑やかに進んだのだった。
☆
「ねえ、刹那」
「シャルル・デュノアって、男じゃないわよね?」
夜、戦艦で琉歌と夜空が刹那に問いかけていた。
「ああ、そうだよ。 シャルル・デュノアは間違いなく女だよ」
直接見たわけではない。
だが、刹那の観察眼は、男との違いを完璧に見抜いていた。
世の中にはニューハーフと言う種別があるが、彼女は違うと、直感的に感じていた。
「でも、どうして黙っているの? 間違いなく、一夏の白式目当てよ?」
「彼女から悪意が感じられない。 多分、望んでやっているわけじゃないんだろう。 大方、デュノア社社長の命令だろうね。 まあ、何で拒否しなかったのかはわからないけどね」
「調べてみる?」
夜空は、刹那に聞いてみた。
「そうだね。 一夏が彼女と昔の自分が似ているって言っていたし、彼女には何かあるんだろう」
「じゃあ、私の方で調べてみるわ」
「お願いするよ」
夜空は、『カオス・クリスタル』とリンクしているので、『カオス・クリスタル』の機能を使える。
だから、『カオス・クリスタル』を利用して、クラッキングなどなど、いろいろやれるのだ。
だから、夜空は世界の機密を知ることが出来るのだ。
「刹那。 シャルル・デュノアをどうするつもりなの?」
琉歌は、一夏を、学園を騙しているシャルル・デュノアをどうするかを聞いた。
「彼女次第だね。 彼女が一夏や僕たちに強引に仕掛けてきたら、容赦はしないね。 ただ、彼女が何かに脅されていた場合は、話は聞くかな。 まあ、しばらくは様子見だね」
「そう。 刹那がそう判断したのなら、私たちはそれに従うわ」
「とりあえず、一夏にはこのことはまだ話さない方がいいかな。 まだ行動するには情報が少なすぎるからね」
「わかったわ」
そう決定した刹那に従う琉歌。
ちなみに、闇影家の大抵の意向は刹那が決めている。
既に闇影家の頂点であった。
まあ、両親である幻夜と夢乃には滅茶苦茶甘く、そして過保護で、勝てないが。
「刹那。 ちょっと来てくれるか?」
「父さん? わかった、今行くよ」
刹那は幻夜に呼ばれたので、そちらへと向かった。
刹那の優先順位は、幻夜と夢乃が最高位で、その次に琉歌と夜空、そして一夏の順だ。
まあ、状況によっては変動するのだが。
「で、どうしたの?」
「これを見てくれ」
呼ばれた刹那が見るように言われたのは、滞空回線の画面だった。
「これは……ああ、またこの娘か」
その画面には、アリーナの整備室が映っていた。
そして、そこにいるのは水色の髪をした、眼鏡をかけている少女だった。
「この娘、またこんな時間までやっているの」
「しかも、今日はほとんど休んでいない」
「また無理をしているのか……」
なぜ幻夜たちが、この少女を気にかけているのかと言うと、それは、この少女の専用機が、一夏の所為で未完成のままだからだ。
彼女の名前は『更識簪』と言い、その専用機の名前は『打鉄弐式』。
そして、開発元は『倉持技研』。
一夏の白式と同じ場所なのだ。
一夏の白式の開発を優先させたがために、彼女の打鉄弐式の開発が中断され、未完成のまま彼女に譲渡されたのだ。
そして、彼女は自身の姉へのコンプレックスもあり、一人で完成させようと、毎日整備室に入り浸っているのだ。
で、一、二週間に一度は、大分無理をしている。
そういうこともあり、刹那たちは彼女のことを気にかけているのだ。
「刹那、どうにかならないか?」
「この娘のこと、よく見てるけど、このままじゃあいつか本当に身体が壊れるわ。 どうにかならない?」
「どうにか、ねぇ……」
(今はデュノアの方に気を回したいんだけど、この娘の方も考えないといけないかな……)
刹那が手を下せば、すぐに解決するだろう。
だが、この少女の場合は少々厄介なのだ。
彼女は、対暗部用暗部『更識家』の次女だ。
姉は十七代目当主で、そしてこの学園の生徒会長、しかもロシア国家代表だ。
別に黙らせることは簡単だが、人のコンプレックスはどうにもならない。
完成させるだけならすぐにでも出来るが、コンプレックスの解消をするには、相応の行動をしなければならない。
故に、シャルル・デュノアに集中したい今は出来ないのだ。
「悪いけど、今は無理かな。 今は別件に集中したいから」
「今日来た子のことか?」
滞空回線を自由に見れる幻夜は、シャルル・デュノアが来ていたことを知っていた。
それと、琉歌と夜空が弁当を作っていたのも、知れた原因の一つであった。
「うん。 その子が抱えている問題は、もしかしたら一夏の害になるかもしれないし、一夏自身気にかけている子だから。 こっちの方は、この子が僕たちに接触してこない限りは、悪いけど後回しにするよ」
「そうか。 とりあえず、解決してくれるのならそれでいい」
「刹那にも刹那の事情があるものね。 ごめんなさいね、無理言っちゃって」
「母さんが謝ることないよ。 僕も、出来るだけ早く解決できるようにするから」
幻夜と夢乃の頼みであるから、更識簪の方について、考え出した刹那であった。