小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

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第二十九話『衝突と殺気』



「はあっ!」

「くぅ! これなら!」

一夏とシャルルは模擬戦をしていた。
シャルルが代表候補生で専用機持ちということで、一夏から模擬戦の誘いをしたのだ。
ちなみに、シャルルが転校してきてすでに五日が経っており、今日は土曜日である。

「甘いな、シャルル。 これで、終わりだ!」

一夏は≪雪片参型≫を振り下ろす。
それでシャルルはエネルギー切れを起こし、一夏の勝利となった。
二人は地面に降りると、刹那と鈴がやってきた。

「一夏は問題ないね。 これからも頑張れ」

「おう、当然だ。 そうじゃないと、いつまで経っても刹那兄には追いつけないからな」

一夏はIS学園に入ると、より一層強くなった。
ISをおおっぴらに使えるので、操縦技術が向上しているのだ。

「シャルル、君は流石代表候補生、というところかな。 実力なら並以上。 だけど、所詮その程度。 国家代表レベルには届かない。 君には『高速切替(ラピッド・スイッチ)』という特技がある。 だけど、それを完全に活かしきれていない。 それを完全に活かしきれるようになれば、まだまだ君は強くなれる」

「はい」

シャルルは刹那の批評をしっかりと受け止める。

「まあ、さっきも言った通り、君は並の代表候補生以上の実力を持っているよ。 強くなった鈴と互角くらいの実力がある。 自信を持っていい」

「アンタ強いわね。 刹那さんの特訓のおかげで強くなったと思ったけど、アンタとやるのなら引き分けるかもしれないわね。 まあ、負ける気は無いけど。 にしても、アンタ凄いわ。 アタシなんてそんな高評価もらえなかったんだから」

鈴はシャルルの強さに感心していた。
鈴も代表候補生としての誇りと、自分の実力に自信があるが、シャルルの模擬戦を見て、その実力を即座に認めていた。
ちなみに、鈴が刹那に最初に言われた評価が―――

『まあ、代表候補生としては及第点。 君は感情を顕わにしすぎ。 その所為で本来の実力が100%出し切れていないし、敵に漬け込まれる。 戦場なら、まず真っ先に利用されて、そして真っ先に死ぬね。 それでもって、味方に被害を出すだろう。 それで、味方だった者たちに怨まれるだろう』

―――これだ。
もうそれだけで鈴の心に大きな刺し傷を作っていた。

「確かに、シャルルはもっと『高速切替』を使いこなせれば、相手は戦いづらいからな。 もっと武器にバリエーションがあれば、もっと戦略とかも増えるな。 中々厄介な相手だよ」

一夏もシャルルを認めていた。
『高速切替』の万能性を身を持って体感したからだ。
あらゆる状況に瞬時で対応すると言うことは、あらゆる場面で優位に立てるということだ。
それを完璧に扱いこなせるとなると、その存在は大きな脅威である。

「さて、次は僕との戦闘だ。 制限時間十分間で、僕に一撃でも与えれたらそっちの勝ち。 まあ、一人増えただけで、いつもと同じだよ」

「よしっ! 今日こそ一撃入れてみせる!」

「一夏にデュノア! 早く作戦会議するわよ! 今日こそ刹那さんに勝つんだから!」

「え? ええ?」

シャルルは燃える二人に驚いて呆けていた。

「「早く!」」

「あ、ああ、うん、わかったよ!」

二人に急かされて我に返ったシャルルは、三人で作戦会議を始めた。
コンビネーションは駄目だが、攻撃手段が増えたことで、戦術が増えたのだ。
今まで勝ったことの無い二人からしてみれば、刹那に勝てる可能性が上がったので、燃えるのも当然と言えよう。

そして五分後。

「よしっ、始めようぜ!」

「今日こそ勝って見せるんだから!」

「僕も全力で行かせて貰います!」

打倒刹那に燃える三人。

「やる気は十分見たいだね。 なら、始めようか」

刹那は『シャドウパラディン』を起動させ、装甲を纏う。
ちなみに、纏うのはセシリアにトラウマを刻みつけた時の機体『ブラスター・ダーク』だ。

「どこからでも掛かって来な」

一夏たちが刹那に攻撃を仕掛けようとした直後、

「ねえ、ちょっとアレ……」

「ウソっ、ドイツの第三世代型だ」

「まだ本国でのトライアル段階だって聞いてたけど……」

邪魔が入った。
アリーナ内がざわつき始め、その注目の的は、その存在に気づいていた刹那の視線の先にいた。

「おい」

ISの開放回線(オープン・チャンネル)で声が飛んでくる。
その声の主は、初日に一夏を叩こうとしたラウラ・ボーデヴィッヒであった。

「……何の用だ」

刹那との戦いを邪魔したラウラに、一夏はあからさまに不機嫌になる。

「貴様も専用機持ちだそうだな。 ならば話が早い。 私と戦え」

「嫌だ。 戦うだけ無駄だ。 それに理由も無いし、時間も勿体無い。 さっさと失せろ」

冷めた瞳でラウラを見る一夏。

「貴様っ! ……貴様に理由は無くとも、私にはある」

ラウラはまったく相手にしない一夏に一瞬激昂しかかるが、無理矢理落ち着かせる。
怒りを抑えれるのは、流石は軍人と言ったところである。

「貴様さえいなければ、教官があれほどまでに気を悩ませる必要は無かった。 だから私は貴様を―――貴様の存在を認めない」

一夏は、ラウラの言葉に苛立ちが増していった。

「理由が滅茶苦茶だな。 ああ、ドイツ軍人は初対面の相手をぶん殴ろうとする非常識者だっけか。 なら仕方が無いな。 そんな奴に常識を求めるだけ無駄だから」

一夏はその苛立ちを行動ではなく、言葉で晴らす。
だが、刹那は感じていた。
このままでは、一夏は力尽くで黙らせるだろうと。

「はぁ……」

刹那は溜息をつくと、一夏の頭にチョップを落とす。

「いたっ!」

「……一夏は黙って見ていな。 すぐに黙らせる」

『『『!?』』』

そう言った直後、刹那が『ブラスター・ダーク』を解除し、首についているチョーカーが光り、姿が“消えた”。

「……今すぐ立ち去れ。 そうすれば、見逃してやる」

「っ!? 何を……!?!?」

気づいた時にはラウラの真後ろにいたことに、ラウラ自身も、そして、一夏たちもが驚く。
だが、ラウラだけは驚愕と恐怖を感じていた。

(馬鹿な!? この私が、ハイパーセンサーを使っていたというのに気づけなかっただと!? な、何なんだ!? その機体は!? この殺気は!? こいつ、何者なんだ!?)

刹那が常に抑えている殺気の“一部”を、ラウラ“だけ”にぶつけているのだ。
しかも、刹那は全身装甲の漆黒の機体を纏い、両手にライフルを持ち、腰部からは二門のレールガン、その背後には誘導兵器八基を飛ばしており、しかもその全てが自分を狙っている。
いくら軍人とはいえ、所詮は子供。
刹那の放つ異常なほどに濃く、強大な殺気に、そして十二門の銃口に、機体そのものが放つ威圧感に、気圧されない訳が無い。

「もう一度言うよ。 今すぐ立ち去りな。 そうすれば、見逃してあげるよ」

「くっ!」

刹那の迫力から逃げ出したい気持ちになったラウラに、誰も攻める事は出来ない。
それほどまでに、刹那の殺気は強大なのだ。
ラウラがISを解除して立ち去るのを確認すると同時に、刹那は一夏のすぐ側に戻っていた。
しかもその戻る一瞬の内に、八基の誘導兵器は翼に戻り、伸ばされていたレール砲は折りたたまれていた。
それには、流石の一夏も驚いていた。
刹那はそれを解除すると、一息ついた。

「ふぅ……わざわざクリスタルを使う必要は無かったかな」

『カオス・クリスタル』の機体は、『カオス・クリスタル』によって創られた機体と比べても、桁違いな性能を誇る。
故に、ソニックブームを発生させないほどに速く動くことなど、造作も無いことなのだ。
言うなれば『瞬間移動(テレポート)』。
『カオス・クリスタル』は、移動することすら感じさせない。

(あの程度の使用なら問題ないね。 これなら、まだ数分は普通に使えるかな)

『カオス・クリスタル』は原初神カオスの力が混ざっているが故に、使用者に多大なダメージを与える。
刹那の場合は転生特典の驚異的な肉体に、鍛えられてより強くなった肉体、そして『神々の加護A+』のおかげで、そのダメージを減らせている。
故に、刹那のみが数分の使用が赦されるのだ。

「刹那兄! どうしてクリスタルを……!」

「ああいうのを黙らせるには、圧倒的な恐怖が一番手っ取り早いんだよ。 クリスタルはその存在そのものが威圧感を持つ。 僕の全力の殺気じゃあ大変なことになるから、クリスタルの重圧くらいがちょうどいいんだよ」

殺気にも形がある。
押し潰す様な重圧であったり、斬り刻むかの様な鋭利さであったり、化物の様な荒々しさであったり、その形はそれぞれだ。
刹那の場合は、あらゆる形の殺気を持つ。
故に、刹那の全力の殺気は、たかが高校生が意識を保って入れるほど、正気を保って入れるほど、生易しい物ではないのだ。

「悪いけど、さっきので興が削がれた。 今日はもう終わるよ」

「ああ、わかった」

「え!? ちょ、一夏! いいの!?」

「あ、もう終わりなんですか?」

「いいんだ。 刹那兄がそう言うなら、俺たちは従うだけだ」

一夏は、『カオス・クリスタル』のダメージについて知っているため、少しでも休んでもらうために、素直に従ったのだ。
それに、一夏たちは教えてもらう身だ。
教えてくれる刹那が絶対なのだ。

「悪いね。 僕は戻らせてもらうよ」

「了解」

刹那は、そう言うと一足先に戻るのだった。



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