第三十三話『騒動』
「一夏、今日も特訓するよね?」
「ああ、当然だ。 刹那兄がいなくても、やれることはあるからな」
一夏とシャルロットは二人で並んで歩いていた。
「ま、とりあえず第三アリーナ行こうぜ。 今日使えるのはそこだからな」
一夏たちがアリーナに向かっていると、次第に慌しくなっていることに気づいた。
「……アリーナで何か起こっているのか?」
「じゃあ観客席の方で見てく?」
普通にピットに入るよりも早く様子が見れるため、一夏はうなずいた。
「誰かが模擬戦をしているみたいだね。 でもそれにしては様子が―――」
ドゴォンッ!
「「!?」」
突然の爆音。
そしてそこにいたのは
「鈴! セシリア!」
よく見ると、鈴とセシリアのISはかなりのダメージを受けていた。
それに対して、ラウラのISは軽症だった。
「嘘、だろ……? あの鈴が、こうも一方的にやられるなんて……」
一夏は信じられなかった。
刹那の特訓を短いながらも受け、確かに強くなっている鈴が、セシリアと共にラウラにボロボロにやられているのだ。
鈴の実力を知っているからこそ、その光景が信じられなかった。
(何で鈴があそこまでダメージを負っている? 鈴なら多分あいつと互角にやれるはず……なのにどうして……)
その原因がセシリアと考えたが、それだけではないと推測した。
だが、一人増えたくらいでここまで酷いありさまにはならないと、一夏は考えた。
一夏が別の推測を考えていると、
「ああああっ!」
ラウラが鈴たちをワイヤーブレードで拘束し、一方的な暴虐が始まった。
シールドエネルギーが減り、機体維持警告域を超え、操縦者生命危険域へと到達する。
これ以上ダメージが増加しISが強制解除されることがあれば、そのときは生命に関わる。
しかしラウラは攻撃の手を止めなかった。
淡々と鈴とセシリアをボコボコにしていただけであった。
普段と変わらない無表情が確かな愉悦に口元を歪めたのを見た瞬間、一夏が切れた。
「………………」
白式を展開、同時に≪雪片参型≫を展開、瞬間的な零落白夜でアリーナのバリアーを切り裂いた。
その行動は、一夏がランスロットを使わないだけ、理性が残っていたことを表していた。
一夏は雪片を二刀に分け、瞬時加速でラウラに急加速する。
「その手を離しやがれ!」
「ふん……感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな」
「……馬鹿が」
一夏はバリアーを切り裂いた時点で、ある程度冷静に思考するだけの落ち着きを取り戻していた。
故に―――
「何だと!?」
―――細かい微調整をした、連続の瞬時加速をするための計算を行うことが出来た。
一夏は攻める算段を瞬時に考え、計算を行って、高速の変則的な軌道をした動きで翻弄し、左の短刀を零落白夜を発動させながら先に投げ、さらに瞬時加速で右の長刀を振り下ろした。
「くっ!」
ラウラは後方に下がりながら二人を縛っていたワイヤーブレードを一夏へと向け、零落白夜の一撃を避けようと躍起になる。
一夏はその間に、シャルロットにプライベート・チャンネルで指示を出す。
『シャルロット! 二人を!』
『任せて!』
シャルロットは拘束から逃れた二人を安全圏まで一気に離脱した。
これで、足枷の無くなった一夏は、心置きなく殺れる。
一夏は地面に突き刺さっていた短刀を抜き取り、ラウラと相対する。
だが、一夏は相手が強いことに楽しみを感じていたが、もう冷めていた。
二人を助けた一夏には、もうラウラと戦う理由が無い。
力だけしか持たないラウラとは、中身の無い奴と戦っても、つまらないのだ。
二人の意趣返しとして戦うこともできるが、それをやるのは当人であるため、一夏はラウラと戦うことに冷めていた。
(どうすっかなぁ……)
ラウラと戦うことにもう厭きてしまった一夏は、これからどうするものかと、ラウラを適当にあしらいながら考えていた。
『一夏、織斑千冬が近づいている。 あと少しでそこに着くよ』
そこに、刹那から連絡が来た。
偶々画面を見ていた幻夜が、刹那に伝えたのだ。
そこから、一夏に連絡が来たのだ。
『了解』
先生である織斑千冬が来れば、一夏が戦う必要は無くなるだろう。
故に、一夏はそのまま適当にあしらう。
「そこまでだ!」
そして、織斑千冬がやってきた。
ラウラは、自らが溺愛する織斑千冬が来たことで、その動きを止めた。
「模擬戦をやるのは構わん。 ―――が、アリーナのバリアーまで破壊する事態になられては教師として黙認しかねる。 この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」
「教官がそう仰るのなら」
ラウラは素直に頷き、ISを解除した。
「闇影、デュノア、お前たちもそれでいいな?」
「了解」
「僕も構いません」
実際、一夏はどうでもいいのだが、ここで断れば面倒なことになるのは目に見えていたので、肯定していた。
それを聞くと、織斑千冬はアリーナにいる者全員に向けて言った。
「では、学年別トーナメントまで私闘を一切を禁止する。 解散!」
パンッ!と織斑千冬が強く手を叩いた。