小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

第三十四話『騒動後』



場所は保健室。
第三アリーナの一件からすでに一時間が経っていた。

「なあ鈴。 どうしてお前があそこまでやられていたんだ? お前ならあいつとも互角にやれると思っていたんだが……」

「そ、それは……」

一夏の問いに、鈴は口ごもった。

「ちょ、挑発に乗っちゃってね……。 怒りと慣れないコンビだった所為ね……」

「なるほど、そういうことか。 だが、あそこまでボロボロにやられるくらいにまともな思考が出来てないほどに怒るなんて、あいつに何て言われたんだ?」

「……アンタのことよ」

「は? 俺?」

意外な答えに、素っ頓狂な声を出した一夏。

「あいつ、アンタのことを何も知らないくせに馬鹿にするから、つい……」

「鈴……」

一夏は鈴が自分を馬鹿にするラウラに対して怒ってくれたことに、正直嬉しかったのだが、同時にイラついた。
自分のことを言われたせいで鈴が怪我をしたことに。
そして、鈴とセシリアをここまでボコボコにしたラウラに。

「ただいまー……ってあれ? どうかしたの?」

シャルロットが飲み物を買って戻ってきたのだが、シーンとしていて、重い空気の室内を見て、何かあったのか訊ねた。

「鈴を怒らせた原因を聞いていたんだ」

「ふーん、そっか。 とりあえず、はい、ウーロン茶と紅茶」

「ありがと」

「ありがとうございます」

二人は渡された飲み物をゆっくり飲み始めた。

「先生も落ち着いたら帰ってもいいって言ってるし、しばらく休んだら―――」

ドドドドドドドッ……!

「なんだ? 何の音だ?」

地鳴りに聞こえるそれは、廊下から響いていた。
しかも、どんどん近づいている。
すると、ドカーン! と、保健室のドアが吹き飛んだ。

(ドアってリアルに飛ぶんだ。 刹那兄たち以外でもありえるんだな。 初めて知った)

一夏はその光景を、のんきに感心しながら眺めていた。

「闇影君!」

「デュノア君!」

雪崩れ込んできたのは大量の女子。
女子たちは一夏とシャルロットを取り囲むと、一斉に手を伸ばす。
これは一種のホラーだと思う。
その証明に、普通でないことに慣れている一夏ですら、若干引いていた。

「な、何なんだ?」

「ど、どうしたの、みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」

「「「「これ!」」」」

未だに状況が飲み込めない二人に、女子たちが出してきたのは学内の緊急告知文が書かれた申込書であった。

「な、なになに……?」

「『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、二人一組での参加を必須とする。 なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。 締め切りは』―――」

「ああ、そこまででいいから! とにかくっ!」

「私と組もう、闇影君!」

「私と組んで、デュノア君!」

男子と組もうとした女子たちは先手必勝とばかりに来たのだが、一夏は刹那の言葉が思い出されていた。
『シャルロットの正体をばらすな』という言葉を守るには、シャルロットを女子と組ませるわけにはいかない。

「悪いな。 俺はシャルルと組むから他を当たってくれ」

一夏の言葉に一気に沈黙した。
というより、たとえシャルロットがいないとしても、鈴が怪我をして出れない以上、一夏はもう出場する気は失せていた。
一夏は、心から信頼する相手としか、ペアを組む気は無いのだ。

「まあ、そういうことなら……」

「他の女子と組まれるよりかはいいし……」

「男同士って絵になるし……ごほんごほん」

最後のは危険だ。
非常に危険な思考回路をしている。
一夏は、その女子とは出来るだけ交流を持たないようにしようと、心に決めた。

「あ、あの、一夏―――」

「一夏っ!」

「一夏さんっ!」

一夏に声を掛けようとしたシャルロットを上回る勢いで一夏に話しかけた鈴とセシリア。

「あたしと組みなさいよ! 幼馴染でしょうが!」

「いえ、クラスメイトとしてここはわたくしと!」

飛び出してきたが、この二人は怪我人である。
無駄に元気だが、怪我人である。

「ダメですよ」

突然声を掛けてきたのは真耶であった。
普段の頼りない真耶からは想像できない様な立ち姿であった。

「お二人のISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。 当分は修理に専念しないと、後々重大な欠陥を生じさせますよ。 ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可できません」

「うっ、ぐっ……! わ、わかりました……」

「不本意ですが……非常に、非常にっ! 不本意ですが! トーナメント参加は辞退します……」

二人は渋々だが、あっさりと引き下がった。
ISは経験を蓄積し、独自進化する。
それには当然損傷時の稼動経験も含まれるため、ダメージの大きな時の稼動は、後々悪影響を及ぼすことがあるのだ。
だから二人は辞退するしかないのだ。

「手酷くやられたみたいだね、鈴」

「刹那さん……」

そこにやってきたのは刹那であった。

「この様子じゃあ、まだまだ鍛え方が甘かったみたいだね。 治ってからは、もう少しスパルタで行くけど、構わないよね?」

「はい。 もう、あんな無様に負けたくありませんので、こちらからお願いします」

鈴は、ラウラに負けたことを、数で勝っていたのに無様に負けたことを悔いていた。
だから、今以上に強くなることを望むのだった。

(いい目だね。 これなら、もう少し厳しくしても耐えれるかな)

刹那は、鈴の目を見てそう判断した。

「僕はもう戻るよ。 ああ、シャルル。 ちょっと話があるから、いつでもいいから僕の部屋に来てくれ」

「あ、はい。 わかりました」

刹那はそう言うと、保健室を後にするのだった。



-36-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える