小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

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第三十五話『刹那の報告』



「し、失礼します」

「来たね。 待っていたよ」

夕食後、シャルロットは刹那に言われた通り、刹那の部屋に来ていた。
ちなみに、一夏は自室で待っている。

「さ、座って」

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

刹那はシャルロットに座るように促し、琉歌がシャルロットにお茶を渡した。
そして、お茶を一口啜ると、話題を振った。

「それで、話っていうのは……?」

「そんなに硬くならなくていいよ。 僕が呼んだのは、悪い報せじゃないんだから」

「っ!」

シャルロットは、わかりやすいほどに反応した。

「そうだよ。 デュノア社長と話をつけた。 君はもう自由だ」

「っ! ほ、本当ですか!?」

「ああ。 ただ、君の専用機『ラファール・リヴァイヴ・カスタム?』はデュノア社に返還。 後、フランス代表候補生からも降ろされることになってしまったことは謝るよ。 ごめんね」

「そ、そんな! 僕は自由になれただけで嬉しいんですから、謝らないでください!」

シャルロットは慌ててそう言った。

「ああでも、金銭関係だったり、住居だったりは、僕たちがフォローするよ。 後、君の新たな専用機も、僕の方で用意するから、安心してくれて構わないよ。 それが、せめてもの罪滅ぼしかな」

「つ、罪滅ぼしだなんて、そんなことしなくていいんですよ! デュノア社から解放されることだけでもいくらお礼してもしきれないんですから、そんなにしてもらっては悪いですよ! 僕にそれほどのことをされては、御礼をしきれません!」

「構わないよ。 ISに人生を狂わされた者としても、家族から碌な目にあっていないということも、僕からしてみれば、とてもじゃないけど見ていられない。 それに、人間というのは欲望の固まりだ。 僕が君のために行動を起こしたとなれば、君は必然的に狙われることになる」

「えっ?」

シャルロットは、意外な言葉に声を上げた。

「僕が正体不明の機体を使うことはすでに知れている。 いくら僕が世界を脅しているとはいえ、その性能や創り方を、奴らは喉から手が出るほどに知りたがっている。 僕たちの両親は、もう安全圏にいるし、琉歌も夜空も一夏も、大抵の人間を寄せ付けないほどに強い。 だけど、君は違う。 君は代表候補生程度の実力しかないし、ISという強大な力も失う。 ならば、君を拉致監禁し、君を交渉の材料にしようとするのは目に見えている」

「で、でも、どうして僕が……」

「僕が君のために行動をした。 その事実があるだけで、十分な理由になるんだよ。 『シャルロット・デュノアは、闇影刹那が直接行動を起こすほどに親密な関係である』。 そう思うだけで、君はもう、国の恰好の餌食なんだよ」

「た、確かに……」

「だから、罪滅ぼしなんだよ。 デュノア社からは自由にはなったけど、ISは君を縛り続ける。 だから、こんなことにしてしまったことの罪滅ぼしさ。 僕は君の身の安全のためにも、最善を尽くさせてもらうよ」

「あ、ありがとうございます!」

シャルロットは、それを聞くと立ち上がり、深々とお辞儀をした。

「顔を上げて。 まだ根本的な解決にはなっていないし、君は自由になりきれていない。 今の世界が続く限り、君は永遠にISから逃げれない。 いや、一度深く関わってしまえば、二度と逃げることは出来ないか」

シャルロットはもう逃げることが出来ないほどに関わってしまった。
『代表候補生』『専用機持ち』
これらは、一度なってしまえば、本人の意思に関わらず、二度と解放されることの無い鎖となる。
いわば呪いだ。
それを断ち切るには、呪いの根源となるものを破壊するか、呪いを遥かに上回る『何か』で上書きすることのみ。
それ以外は、断ち切った気になっただけだ。

「僕が専用機をあげれば、間違いなく君は狙われる。 だけど安心してくれ。 僕が創る機体は、君の安全を確固たるものにするだけのスペックがあるから」

刹那の―――『カオス・クリスタル』の創るISもどきは、人間が永き時を経ても辿り着けない高みにある。
周囲の人間の存在や、自己防衛など、今では模倣することすることすら非常に困難な行動をすることができる。
だからこそ、安心できるのだ。
いくらシャルロットが弱く未熟でも、渡す機体がそれを完全にフォローできるから、刹那は機体を渡すことに躊躇いを持たないのだ。

「とりあえず、機体は長くとも三日待って。 今の機体はすぐに返還することになっているから、しばらくは一夏と出来るだけ離れないように行動してくれるかな? あ、一夏には言っておくから大丈夫だよ」

「わかりました」

「後、正体を明かすのはタッグマッチが終わった後にしてくれるかな。 今正体を明かせば、混乱を招いてタッグマッチどころじゃなくなるからね」

「あ、そうですね。 わかりました」

シャルロットはどうなるかを想像して、納得していた。

「さ、僕からの話は以上だよ。 一夏の元に早く帰りな。 僕たちは応援するよ」

「な、なな何を言ってるんですか! お、応援されるようなことは何もないですよ!」

頬を赤らめながら叫ぶシャルロットに、刹那たちは暖かい視線を向けていた。

「そういうことにしておくよ」

「そうね。 なるようになるしね」

「一夏とはな、何でもないですからね!」

シャルロットは、まるで逃げるように部屋から立ち去った。
部屋を出る前に、もう一度お礼を言ったのは、礼儀正しいシャルロットらしかった。



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