第三十六話『一夏に報告』
「お帰り、シャルロット。 刹那兄、何だって?」
「っ!」
シャルロットは、一夏を見るとカァ……と、顔を赤くした。
刹那たちに言われた言葉による動揺が、未だに抜け切れておらず、一夏を見て、反応を示したのだった。
「ど、どうしたんだ?」
「な、何でもないよっ!」
「そうか……?」
慌てて否定するシャルロットに、一夏は訝しむが、深くは聞かない一夏。
聞きたいという欲求があるが、同時に言わないのなら聞かない方がいいという理性もあり、理性で抑えていた。
「……で、刹那兄は何だって?」
「う、うん。 僕はもう自由だって」
「そうか! よかった……」
一夏は、シャルロットの言葉を聞くと、安堵した。
このことは、刹那から聞いていないので、今初めて聞いたのだ。
「で、でも、刹那さんが直接行動したことがまずかったみたいで、僕は狙われるかもしれないって」
「……だろうな。 刹那兄の持つ技術(本当は技術じゃないけど……)は、世界中の汚い奴らが喉から手が出るほどに欲しい物だしな。 刹那兄たちは、俺でも手が出ないほどに強いし、自分で言うのも何だけど、俺はそれなりに強いからな。 シャルロットは代表候補生程度の力しか持たないから、狙われるのは必然だな」
「刹那さんもそう言っていたよ……。 僕が弱いから、刹那さんたちに迷惑を……」
自分の所為で、大切な誰かが傷つくのを見たくない。
そんなシャルロットの性格は、優しすぎるが故に、刹那たちの前では隠していた本心を、ついこぼしてしまう。
俯いたまま、手を思いっきり握り締める。
「シャルロット。 自分を責めるな。 悪いのは、お前を道具のようにしか扱わなかった糞野郎と、こんな歪みまくった世界の所為だ。 シャルロットの所為なんかじゃない」
「で、でも……」
「俺はお前を放って置けない。 だから守るんだ。 俺は、好きでお前を守るだけだ。 だから、シャルロットが気にする必要は無いんだ」
「一夏……」
シャルロットが顔を上げると、その瞳に涙を溜めていた。
不謹慎ながらも、そんなシャルロットにドキッとしつつも、一夏はシャルロットを抱き寄せた。
「え……? いいいい一夏ぁ!?」
シャルロットは突然のことに、好意を寄せている人に抱き寄せられると言う事実に、シャルロットの思考は完全に停止した。
「そんなに悩まなくていいんだよ。 俺が助けたいと思ったのは、刹那兄たちがシャルロットを助けてくれたのは、シャルロットに笑っていてほしいからだ。 ISに縛られ、自由に生きれない。 そんなことから解き放たれ、自由の喜びを知ってほしいから、綺麗な笑顔を見たいからだ。 だからさ、そんな顔をしないでほしいんだ」
「一夏……」
凍り付いていた思考が回復したシャルロットは、一夏の言葉を受け止めていた。
「そんな風に思うのはわかるよ。 でも、思い詰めすぎないでくれ。 俺たちは、シャルロットを助けた延長線上に、守るって事象があるだけなんだよ。 それに、刹那兄は、こうなることを最初から見越して、行動を起こしていただろうしな」
刹那が未だに機体を創っていなかったのは、ただ忘れていたわけでも、忙しかったからではない。
確かに、いろいろやっていたが、機体を創るだけの時間はあった。
だが、それなのに創らなかったのは、刹那のお節介の所為だ。
一夏に惚れているシャルロットを、一夏とくっつけやすく―――可能ならばくっつけるためだ。
シャルロットの護衛と言う名目で、一夏とより一緒にいる口実を作るためだったりする。
ちなみに、一夏と付き合う可能性のある人の中で、二人の最有力候補の一角であるシャルロットだからこそ、こうしたのだ。
ちなみにちなみに、最有力候補のもう一角は鈴である。
「そう、だね……うん、そうするよ。 せっかく自由にしてくれたのに、笑わずに自分を責め続けるのは、よくないよね。 ありがとう、一夏。 気が楽になったよ」
「そうか。 それならよかった。 少なくとも俺は、笑っているシャルロットの方が好きだからな」
「す、好き!? え、えっと、そのっ」
笑いながらそう言った一夏に、顔を真っ赤にして慌てるシャルロット。
「お、おい、どうしたんだ?」
シャルロットの慌てように、一夏は戸惑った。
(な、何か悪いこと言ったっけ……?)
相も変わらず鈍感な一夏であった。
「な、なんでもないよっ!」
(い、一夏って、無自覚だから、性質悪いよ……)
否定したシャルロットは、一夏の発言の無自覚ぶりに、内面落ち込んでいた。
「にしてもさ、俺たちだけの時くらいは、口調戻さないのか?」
「う、うん。 僕―――私もそう思うんだけど、ここに来る前に『正体がバレないように』って、徹底的に男子の仕草や言葉遣いを覚えさせられたから、すぐには直らないかもしれない」
覚えさせられた、の部分に、一夏は苛立ちを覚えたが、刹那が何かしただろうと思っているので、抑えていた。
「で、でも、その……やっぱり女の子っぽくない、かな?」
シャルロットは、落ち着かなさ気に視線を彷徨わせ、遠慮がちにそう言った。
「自分のことを『僕』って言うことか?」
「そ、そう。 女の子っぽくないんだったら、一夏や刹那さんたちだけのときくらいは普通に話せるように頑張るけど……」
「いや、別に無理しなくてもいいぜ。 俺はそんな風に思わないから安心しろよ。 俺は、一人称が『僕』でも『私』でも、シャルロットは十分可愛いって思っているからな」
「か、可愛い? 僕が? 本当にっ? ウソついてない?!」
段々声量が大きくなっていくシャルロットに、一夏は苦笑しながら言った。
「ついてないって。 シャルロットは可愛いよ」
「そ、そっか。 それなら、別にいいかな、うん」
シャルロットは、内心心臓バクバクになりつつも、それを表に出さないように納得していた。
「んじゃま、シャルロット解放を祝して、二人だけで、小さく祝おうぜ」
「うん、そうだね」
その後、一夏とシャルロットは、二人だけで乾杯をしていた。