小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

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第三話『転生者の少女』



空に白い騎士の姿は無く、今は怪我人の治療や被害の撤去にてんやわんやになっている。
被害者の中で、特に重症だった幻夜と夢乃は病院に運び込まれている。
刹那が連れていた少女も、同じ病院のベッドに寝かされていた。

「……私を……殺して……」

「嫌だ」

少女は目を覚ますと同時にそう言った。
刹那は一緒にいたようで、即答で拒否した。

「君も僕と同じ転生者みたいだから、せめてどんな風に転生させられたのかは教えて欲しいな。 それと、どうして死にたいのか教えてくれないか?」

「それは……」

少女は口ごもる。

「あ、僕は闇影刹那。 君と同じ転生者で、神に間違えて殺されたからこの世界に転生したんだ。 ちなみに、いろいろと能力を貰っているよ」

刹那は自己紹介をする。

「君の名前は?」

そして、刹那は少女に問う。

「……私は、輝夜 琉歌(カグヤ ルカ)。 神様が、私を哀れんで転生させてくれたの……」

「よろしく。 で、君はどうして死にたいのかな? 僕の納得できる理由なら、僕が殺してあげるよ」

刹那は、少女―――琉歌にそう言う。

「………………」

「だんまりは止めてくれないかな? それじゃあどうすることも出来ない。 輝夜さんを殺すことも、助けることも、何も出来ない」

刹那は琉歌の素性を知ろうと話しかける。
琉歌は、殺してくれるかもしれないという可能性に揺れ、ポツリポツリと語りだした。

「……私が死んだ原因は、学校でのイジメと、親からの虐待……それから逃げるために、自殺したの……」

「っ」

「……そんな私に、神様は新しい命をくれた。 怪我をしてもすぐに治るように『全て遠き理想郷(アヴァロン)』をくれて、もしもの危険から身を守れるようにってセイバーの宝具を全部と、闇に絶望した私を変えれるようにって『光を操る能力』をくれたの……」

「………………」

刹那は琉歌の話を黙って聞く。

「……そんな私には、もう一つお願いがあったの……。 それは、幸せに暮らしたいっていう、私がずっと望んできたこと……」

「……それなのに両親が死んでしまったから殺せ、ってことかな?」

刹那は、琉歌の近くに人の死体があるのを見たためそう推測して、琉歌に言う。

「そう……」

刹那の問いに肯定する琉歌。

「断る」

だが、刹那は断言した。

「どうして!? 私に優しくしてくれた両親は私を守って死んだのよ!? 幸せに暮らしたいって夢も叶わなかったのよ!? 結局私は幸せにだなんて暮らせないの! 生きれないの! だから私を殺してよ! もう生きるのが辛いのよ!!」

涙を流しながら叫ぶ琉歌。

「……僕は輝夜さんみたいな生活を過ごしてきたわけじゃない。 だけど、この世界の両親は、君に生きてもらいたいから、君を守ったんじゃないか?」

「それは……」

刹那の言葉に、琉歌は口ごもる。
親に突き飛ばされたがために、あの程度のダメージで済んだのだ。
まあ、その傷は即座に『全て遠き理想郷(アヴァロン)』によって治癒されたのだが。

「それに、神様は君にそこまでの力を授けた。 少しでも闇から引き上げようと、光を浴びせようと『光を操る能力』を渡したんじゃないのかい? それとも、今までの人生はまやかしだったのかな?」

「それは……違う……」

絞り出すように声を出す琉歌。

「そうでしょ。 神様がくれた今までの人生はまやかしじゃないし、たとえ、直撃しても生き残ったとしても、君の両親が繋げてくれた命だ。 もしも君が一人で生きるというのなら、僕が支える。 たとえ全てが君を不幸にしても、僕もそれを背負う。 たとえどんなことがあっても、僕だけは君の味方でいる。 たとえ君が僕を嫌おうとも、それでも君の味方でいる。 だから、神様や両親に助けてもらったその命、こんなところで終わらせては駄目だ」

刹那は琉歌の目を見て説得する。
人生に絶望したまま、死んでほしくないと、そう思ったから、説得をする。

「僕と一緒に生きよう。 君のことは僕の両親にちゃんと説明する。 もし受け入れなければ、二人で生きよう。 君の全てを、僕も一緒に背負わせてくれないかな?」

まるで告白のような言葉をまっすぐ見つめて力強く発言する刹那に、琉歌は顔を赤くした。
転生する前も転生してからも、そんな言葉を言われたことが無いからだ。

「……本当に……私と不幸になってくれるの……? 絶対離れないでくれる……?」

不安そうに、今にも泣き出しそうに、弱弱しく尋ねた。

「うん、絶対離れない。 僕は君を守ると決めたんだ。 僕はもう、君を見捨てることなんて出来ない。 だから一緒に来い。 輝夜琉歌」

刹那は、琉歌にその手を差し伸べた。
琉歌は、その手を恐る恐るといった感じで掴む。
刹那は、差し伸べた手を掴まれた事に満足げに微笑んだ。

「これからよろしく、琉歌」

「よ、よろしく、せ、刹那……」

顔を赤くしながら俯いて返事をする琉歌。

「僕の両親が目を覚ましたら、説明しに行こう。 僕の両親は一生残る怪我をしちゃったけど、生きてはいるからね。 でもまあ、まだ眠っているけどね」

刹那はなんとも無いように言う。

「……刹那は、辛くないの……?」

琉歌は、刹那に尋ねた。
琉歌は、両親が死んだ悲しみを知っているからこそ、刹那にそう言えたのだろう。

「……辛いさ。 辛くないわけが無い。 僕の目の前で、助けれるだけの力を持っていたのに、助けられなかったんだから……。 あのミサイルを無力化する力を持っていたのに、嫌な警告がガンガンと鳴り響いていたのに、間に合わなかったんだ……。 辛くないわけが無い……」

ぎっと、拳を握る刹那。
力の入れすぎで爪が皮膚に刺さり、その拳からは血が流れている。

「だけど、うじうじしたって過去は変わらない。 今あるのは、ミサイルの被害と、どこかの誰かが『IS』という兵器の有用性だ。 これからはISに順応するように世界が変わるはずだ。 だから、僕はいつまでもうじうじなんてしていられない。
僕の勘が正しければ、これは『IS』を広めるために、意図的に行われた事件だ。 被害なんてまったく考えないで行われたものだ。 世界も、それをわかったうえで、強大な力を持つ『IS』を手に入れようと、躍起になるはずだ。 そのために、琉歌の両親の死は隠蔽されるだろう。 最悪、死傷者ゼロだと、そう事実を捏造するかもしれない。 僕はそうなろうと別に構わない。
ただ、僕の両親に一生の怪我を刻み込み、琉歌の両親を殺した事件を起こしたの張本人に、その罪を背負わせる。 それが、今の僕の目的だよ」

そう己の目的を言う刹那に、その瞳に憎しみを宿した刹那に、琉歌は抱き寄せた。
突然のことに驚く刹那を尻目に、琉歌は告げる。

「……罪を背負わせるのはいいけど、私を残して死んだりしたら、絶対赦さないんだから……」

「……わかってるよ」

刹那の瞳には、もう憎しみの色は宿っていなかった。
憎しみよりも、琉歌に与えられる温かさが心地良かったからだ。

「……そろそろ行こうか。 僕の両親が、目覚めた気がする」

刹那は、得たばかりの『直感A+』に従うように、琉歌を連れて、幻夜と夢乃の眠る病室へと、歩みだした。




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