第四話『伝えられる真実』
「父さん、母さん。 入っていいかな?」
「ああ、刹那か。 いいぞ、入ってくれ」
刹那は琉歌を連れて、一緒に幻夜と夢乃のいる病室へと入る。
そこには、左腕を失った幻夜と、下半身が動かなくなった夢乃の姿があった。
あの時に曲がった腕の処置が遅かった所為で、その腕は切断を余儀無くされたため、幻夜はその腕を切断した。
夢乃は爆風に吹き飛ばされた際に、頭部を強打し、脊髄に損傷が出てしまった。
幸い、言語障害などは起こらなかったものの、脊髄のダメージもあり、下半身が動かなくなった。
夢乃のそれは、今の医療技術では治せないとのことで、一生車椅子生活をすることを余儀なくされた。
「ところで刹那、その娘は?」
「この娘は輝夜琉歌。 ミサイルで両親を亡くしたんだ」
「あの、初めまして。 輝夜琉歌です。 刹那に助けてもらいました」
琉歌は二人に挨拶をする。
「父さんも気になってると思って来たんだ。 僕がしたことについてさ」
「……ああ、あれか。 途中で気を失ったから、あまり覚えていないが、あれは事実なんだな?」
「ええ」
「貴方? 刹那? 一体何の話をしているの?」
夢乃は最初から気を失っていたため、何のことか一切わからないでいた。
琉歌は刹那の能力について聞いているため、話はわかっている。
「今まで黙っていたけど、僕は普通の人間じゃない」
「え? それってどういう……!?」
夢乃の言葉が止まったのは、夢乃が話している最中に刹那が自分の手に闇を発生させて、それを鎌に変形させたからだ。
そして、刹那は自分の姿を幻夜に成り代わる。
「これは僕の力の一端です。 目で見えないような力もあるんですよ」
「刹那、何を……止めなさい!」
刹那は姿を戻し、近くにあったナイフで自分の体を刺した。
だが、そのナイフが刺さることは無かった。
黒く変色した服によって、その刃が弾かれ、刃が砕け散ったからだ。
「『騎士は徒手にて死せず』。 触れたものを宝具という人外の兵器に変える能力。 今のはこの服を宝具化させて、ナイフの強度・殺傷能力を上回る防御力を持つ服にしただけ」
服が元に戻り、宝具化が解除される。
「これでわかったでしょう。 僕がただの人間じゃないことを」
刹那は刃の折れたナイフを置き、椅子に腰掛ける。
琉歌も同様に、椅子に座った。
「さて、僕の能力の存在がわかったところで、話しましょうか。 僕が何者なのか」
そして刹那は、二人に自分が転生者であることを話し始めた。
☆
「これが、僕が隠して、黙ってきた全てです」
「「「………………」」」
刹那が話し終え、病室内は沈黙が支配した。
「それを聞いて、二人に話があるんだ」
刹那は、そんな中で言葉を紡いだ。
「……それは、何だ?」
「僕は彼女と、輝夜琉歌と一緒に生きる」
「……それはどうして?」
「琉歌も、僕と同じ転生者だ。 だけど、僕と違うのは、前世の琉歌の生活環境。 琉歌は学校でのイジメや。親からの虐待と、最悪な人生を歩んできたんだ。 そんな琉歌に神は哀れみ、この世界に二度目の生を与えた。 幸せに暮らしていた琉歌たちでしたけど、あの事件で親が死んだ。 死んでしまった。 だから、僕は琉歌を守るって決めたんだ。 琉歌の幸せも不幸も、一緒に背負うって、琉歌の味方でいるって決めたんだ。 だから、僕は琉歌と生きる」
「琉歌ちゃん、君はそれでいいのか?」
幻夜は、琉歌に尋ねた。
「いいんです。 私は刹那に助けられて、説得されました。 刹那は私と一緒に不幸になってくれるって言ってくれました。 一生私の味方でいてくれると言ってくれました。 だから私は、彼と一緒に生きることを望むんです。 それに……」
「それに?」
一旦区切った琉歌に、夢乃は尋ねた。
「私、刹那に惚れちゃいましたし」
「あらあら」
夢乃は、琉歌の発言に微笑ましげに刹那を見た。
「私は、今までそんなこと言われたことがありませんでした。 あんな顔であんな言葉を言われたら、初対面でも惚れました。 私は、刹那が好きです」
「……僕は口説くために言ったわけじゃないんだけどな……」
「そうでしょうね。 でも、私は貴方に惚れたの。 私、貴方を一生離さないから」
まるで肉食獣な笑みを浮かべる琉歌。
「これはべったりと惚れられたな、刹那。 琉歌ちゃん、いい娘そうじゃないか」
「いやまあ、それは嬉しいんだけどさ、本当に僕でいいのかい? 僕なんか気にせず、他の男を探してももいいんだよ?」
気持ちは嬉しいが、素直に受け取れない刹那。
刹那は前世、もてなかったため(実際は刹那が気づいていなかっただけで好意を持っていた人はいた。 まあ、鈍感だったと言うことだ)、自分に自信が持てないのだ。
「もう、自分で言うのもなんだけど、女の子にあれだけ言わせておいて、嫌とは言わせないわよ?」
「……わかったよ。 僕が一生、君の側で琉歌を守るよ」
決意の籠もった瞳でそう宣言する刹那。
「おやおや、お暑いねぇ」
「刹那にも春が来たわねぇ」
幻夜と夢乃は、息子に春が来たことに微笑みながら、二人を見ていた。
「で、二人はどうするんだい? 僕なら一人でも琉歌を養っていけるよ?」
『黄金律A』があるため、お金には困っていない。
現に、刹那が買った(買ってもらった)宝くじが、見事一等を中てたこともある。
「どうもこうも、刹那が俺たちの息子だということに変わりは無い」
「確かに力のことは驚いたけど、そのおかげで私たちは今を生きていれるの」
「俺たちがお前を捨てることは無い。 親を亡くした琉歌ちゃんが刹那と生きるのなら、家に来るといい」
「逆に私たちが刹那に迷惑をかけるかもしれないけど、私たちは歓迎するわ」
刹那はその言葉に、安堵したのを感じた。
「僕みたいな化物を怖がらないだなんて、本当に変わってる」
「それなら私も化物よ。 私も刹那には劣るけど、能力を貰ってるし」
「そうだとしても、二人が俺たちにそれを悪い意味では使わないだろう?」
「私たちは二人を信頼しているのよ」
「本当に、変わっている」
刹那は皮肉気に言った。
「えっと、これからよろしくお願いします」
琉歌は、頭を下げるのだった。