小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

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第三十八話『試合開始』



一夏とシャルロットがアリーナに出ると、観客たちがざわめきだす。
その原因は、十中八九シャルロットの纏う機体だ。
なんせ、皆が知っているシャルロットの機体は、オレンジカラーの『ラファール・リヴァイヴ・カスタム?』だ。
だが、今のシャルロットが纏うのは、赤みの濃いオレンジの機体だ。
この姿の時の名は『シリウス』。
ちなみに、『シリウス』とは地球上から見える最も明るい恒星だ。
ギリシャ語で『焼き焦がすもの』、『光り輝くもの』という意味を持つ『セイリオス(Seirios)』が由来する星の名を持つこの機体は、まるでその意味を再現するように、もはや巨大な火薬庫となっている。

『シャルロット、大丈夫か?』

『うん、大丈夫だよ。 かげろうの皆も、燃え滾っているみたい』

『そ、それは大丈夫なのか……?』

『大丈夫だよ。 この姿だと、力がほとんど封じられるみたいだから』

『それはよかった……』

一夏が不安がったのは、かげろうが一際好戦的で、血の気の多い連中の集団だからだ。
奴らが思いっきり暴れたら、この辺りが大変なことになる。
阿鼻叫喚の地獄絵図と化すだろう。

「機体が変わろうと、私のやることは変わらん」

「奇遇だな。 俺もシャルルの機体がどうであれ、やることは変わらねえよ。 お前を潰す」

「ふん。 前回は油断したが、今度はそうはいかん。 貴様を徹底的に潰す」

喧嘩腰な二人を余所目に、シャルロットは落ち着いていた。
ラウラのパートナーとなった箒は、シャルロットの機体が変わっていることに驚き、一夏を見返してやろうと心を震わせていた。

「悪いけど、一夏の邪魔はさせないよ。 それに、この子の初舞台なんだ。 遠慮なくいかせてもらうよ」

「機体が変わっていることは驚いたが、負けるわけにはいかんのだ!」

箒がやる気に満ち溢れているのは、今流れている噂の出所が箒であり、一夏と付き合いたいがために、優勝するつもりなのだ。
まあ、一夏とシャルロットが組んだ時点で、優勝者は必然的にこの二人しかありえないのだが。
そして、試合開始の時間になる。
五、四、三、二、一―――開始。

「叩きのめす」

「軽く潰してやるよ」

一夏とラウラは、開始早々からぶつかり合った。
一夏が開始早々に飛び出したからだ。
まだ大太刀のままの≪雪片参型≫を振るう。
ラウラに当たる寸前に、≪零落白夜≫を使うので、掠る事すら赦されない。
そして、一夏の剣の太刀筋が鋭く、速いがために、ラウラはAICで一夏を止めることができないでいた。
この時点で、一夏は勝利を確信している。
単純な一刀くらいを止めれないようなら、自分を倒すことなど不可能だと知っているからだ。
太刀を振るう一夏に対し、ラウラはレール砲やワイヤーブレードを駆使して避ける。
避けなければやられるのは、もう知っているのだ。
二人が戦っていると、少し離れたところで爆音が鳴り響いた。
シャルロットが、早々に終わらせたのだ。




 ☆




「悪いけど、この子の的になってもらうよ」

「撃たせる前に倒すまでだ!」

「遅いよ。 もう終わりだよ」

シャルロットが両手に持つのは、二丁の銃だ。
右手に持つのは毎秒100発の弾丸を放つマシンガン≪アルタイル≫。
左手に持つのは毎秒50発の爆破(バースト)弾を放つガトリングガン≪ベガ≫。
その威力は、従来の兵器とは比べ物にならないほどに高い。
そして、そんな二丁銃を一斉に撃ち放てば、どうなるかは目に見えている。
高性能の機体ゆえに、反動がほとんど無く、ぶれも少ない。
そして、シャルロット自身の銃を扱う腕は、まだ未熟とはいえ相当な物だ。
まあ、結果から言えば、剣道が強いくらいの箒が、勝てる訳がないと言うわけだ。

「じゃあね。 せめて、三秒は持ってよね」

「なっ!?」

直後、≪アルタイル≫と≪ベガ≫が同時に火を噴いた。
≪アルタイル≫は途轍もない連射速度で次々にダメージを重ね、≪ベガ≫の爆破弾の嵐が、箒を容赦なく蹂躪する。
箒の纏う打鉄のシールドエネルギーが尽きたのは、弾丸が放たれ始めてから一秒ちょっとだった。
このとんでもない武装の前に、所詮ただの生徒が対処できるわけが無いのだ。

(ちょっと……やりすぎちゃったかな……?)

ちょっとどころではなく、普通にやりすぎなシャルロットであった。




 ☆




(流石は刹那兄の創った『シリウス』だな。 もう終わらしている。 かげろうが宿ってることもあってか、銃弾の精密さも半端ないな。 っと、俺もいつまでも遊んでいるわけには行かないな)

一夏は、即行で終わらせたシャルロットに感心しつつ、ラウラを遊んでいた。

「弱いな」

「何っ!?」

一夏の一言に、ラウラは酷く反応した。

「弱い、弱すぎる。 心身ともに弱すぎる。 こんなんで、よく俺を倒そうと思ったな。 思い上がるなよ、小娘」

一夏は、抑え込んでいた殺気を解放した。
一夏はある程度殺気の方向を決めれるため、ラウラのほうにしか殺気を飛ばしていない。
故に、一夏の殺気に当てられて気絶する生徒は少ない。

(何なんだこの殺気は!? あの男もだ、なぜこうも強い!?)

ラウラも感じていた。
自分では、一夏には勝てないと。
だから渇望する。
比類なき強さを。
中身が無いが故に、力のあり方を知らないが故に、ラウラは禁忌に手を伸ばす。




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