小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

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第四十話『黒い雨の暴走』



「ああああああっ!!!!」

「っ!?」

突然、ラウラが絶叫を上げ、同時にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放たれ、接近して切り込んでいた一夏を吹き飛ばした。

「くっ! 一体何だ!?」

「うそっ!?」

一夏もシャルロットも、目の前の光景に目を疑った。
なぜなら、ラウラの纏っていたシュヴァルツェア・レーゲンが変形していたからだ。
いや、変形などという生易しいものではなく、ぐにゃぐにゃに溶け、ラウラの体を侵食し、そして全身を呑み込んでいった。

「おいおい、マジかよ……」

一夏は、ほぼ無意識のうちにそう呟いていた。
おそらく、この場にいる者、これを見ている者すべてが同じことを思っただろう。
ISは原則として、変形をしない。
ISが形状を変えるのは『初期操縦者適応(スタートアップ・フィッティング)』と『形態移行(フォーム・シフト)』の二つのみ。
パッケージ装備によって、多少の変化はあるが、基礎の形状が変化することはありえないのだ。
刹那やシャルロットの機体は例外中の例外、そもそもISではないのだから問題ない。
変形が終わって立っていたのは、黒い全身装甲(フルスキン)のISに似た『何か』だった。
そして、その黒い人型が持っていた武器は、一夏の≪雪片参型≫に酷似していた。

「≪雪片≫……!」

それが意味すること―――それは、相手が織斑千冬であるということだ。

(……おそらくこれは、VTシステム……まさかこんなところで出てくるとは……)

一夏は、刹那たちから教えられていたことを思い出していた。
―――VTシステム。
正式名称は<ヴァルキリー・トレース・システム(Valkyrie Trace System)>。
過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、操縦者のことを蔑ろにし、操縦者を破壊するため、IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている。
そんなものが、今目の前で発動している。
しかも、そのトレースの対象は間違いなく、織斑千冬だ。

(俺が負けるとは思わない……が、操縦者を蔑ろにするシステムだ。 予想外の、滅茶苦茶な動きをする可能性があるな……)

たとえば、骨の稼動区域を無視した、人間では出来ないような動きを無理矢理させる、とか。

『一夏……』

『俺が殺る。 大丈夫だ、シャルロット。 俺の強さは知ってるだろ?』

『……わかったよ。 でも、無理はしないでね』

『ああ!』

一夏は、≪雪片参型≫を二つに分裂させ、二刀流となる。

(動かない……? いくらでも隙があったのに……)

ふと、一夏は疑問に思った。
攻撃をして来ようものなら、いくらでも出来たはずなのに、奴は一切動かなかった。
まるで、相手が来るのを待っているかのように。

(カウンター狙いか? ……まあいい。 俺はいつも通り、目の前の敵を排除するだけだ)

一夏は軽く両手の剣を振るい、その後に構えた。

「「「………………」」」

沈黙がアリーナを支配した。
誰かが悲鳴を上げてもおかしくはなく、教師による介入があってもおかしくない。
それなのに、アリーナは静寂に包まれていた。

シャキィンッ……!

その沈黙を、静寂を打ち破ったのは一夏であった。
一夏は両手の剣を擦り合わせると、一気に前方へと加速する。

ドンッ!!

爆発音と同時に、急激に加速する一夏。
錯乱など一切ない、愚直な突進。
だが、その速度は途轍もないものだった。
あの準備中に、一夏はスラスターに残りのエネルギーの半分を溜めていたのだ。
それが、瞬時加速で一気に開放され、あの爆発音が鳴ったのだ。

「―――!」

黒い人影は、一夏の超加速に反応しきれていなかった。
だが、流石は織斑千冬のトレースというべきか。
迎撃ではなく、カウンターで一夏を仕留めることにしたらしく、即座に構えを取っていた。

「ふっ」

それを見て、一夏は小さく笑った。

(意思のないカウンターが、俺に届くと思うなよ!)

「遅いんだよぉおおお!」

一夏の叫びとともに、二振りの剣が瞬いた。

ギンッ!
ザンッ!

二つの音が、ほぼ同時に鳴り響いた。
左の短刀がトレースされた雪片を弾き飛ばし、弾き飛ばすとほぼ同時に、がら空きになった胴体に、右の長刀が斜めに切り裂いたのだ。
一夏は二振りの雪片を振り払い、一振りの大太刀に戻す。
それとほぼ同時に、切り裂かれたISから、ラウラが倒れるように出てきた。
一夏は雪片を収納すると、ラウラを抱きとめた。
その間のほんの一瞬、ラウラが気を失う直前、一夏とラウラの眼帯が外れた金色の目が合った。
その目は、とても弱っていた。
捨てられた子犬のような、どうしたらいいかわからない、寂しい、助けてほしい、そんなことが見える瞳だった。
一夏はその目を見て、ほんの一瞬だけ驚き、そして苦笑した。

「……まあ、相手くらいならしてやるよ」

一夏はラウラを抱きかかえ、そう呟いた。
それが、当人に聞こえたかどうかは定かではない。


Side〜ラウラ〜

強さとは何なのか。
その答えは無数にあるのだろう。
けれど、その答えのひとつに、強烈に出会ってしまった。

『強さというのは、心の在処。 己の拠り所。 自分がどうありたいか、どうなりたいか、それを持って何をしたいか。 そんなことだと、俺は思っている』

……そう、なのか?

『さあな。 これは俺の解釈だ。 別の人の強さが、これと同じとは限らない。 強さの意味とは、人それぞれが持つ可能性だ。 その意味によっては、人は善にも悪にも染まる。 ただ、自分がどうありたいか、どうなりたいかわからない奴は弱い。 そう断言できる』

……なぜそう言える?

『何かを目指す道がないってことは、先に進めないと同義だ。 ずっと同じ場所で足踏みをしていて、強くなれるはずがない。 お前は、向かう先を、そこに向かう意味を知ることだ』

……向かう意味……。

『目標・目的・理想、なんでもいい。 己が強くなる意味を持つんだ』

―――ならば、お前は……?
お前はなぜ強くあろうとする?
どうしてそんなにも強い?

『強い、か……。 俺は確かに強いが、同時に弱い。 それだけは言える』

断言だった。
あれほどの力を持っていならが、己が弱いという。
それがわからない。

『俺はただひたすらに、一生懸命に己を磨いてきた。 自分を守れるくらいには、強くなったと自信を持っている。 だが、俺は弱い。 俺はあの人に、俺の恩人に、何も返せていない』

恩、人……?

『あの人は俺を助けてくれた。 何も残ってない俺を救ってくれた。 力を望んだ俺に協力してくれた。 それは、今もなお続いている。 俺は何一つ、あの人に恩返しが出来ていない。 あの人が俺の目標だが、俺は全然届いていない。 俺は、あの人の影すら踏めていない。 俺は、力でも、人間としても、あの人に一度たりとも勝ったことはない。 あの人を超えたいと思うが、今の俺では届かない。 だから、せめてあの人に心配をかけないくらいには強くなりたい。 だから俺は、ひたすらに自分を鍛えるんだ』

勝てないわけだ。
私がこの男に勝てるわけがなかった。
ただあの人のようになりたいと思っていただけで、自分を知らず、自分を持っていない私が、あれほどの意思を、願いを持つこの男に勝てるわけがない。

『お前も見つけれるさ。 なんたって、俺が見つけれたんだからな。 だからまあ、暇なときくらいは、相手をしてやるよ』

私は、この男に、闇影一夏に痺れた。
この人なら、この人を見ていれば、自分を見つけれる気がする。
この人を目標にすれば、私は私になれる気がする。
そう、思った。


Side〜ラウラ〜out



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