第四十三話『返事』
Side〜一夏〜
人生初めての異性からの告白に、俺の思考は完全に停止していた。
こんなこと、初めてだ。
告白されることも、ここまで思考が正常に働かないことも。
「………………」
なぜ俺はここまで動揺している?
女子と二人っきりで、しかも混浴しているということが原因なのか?
女子に裸で抱きつかれているということが原因なのか?
それとも、告白してくる相手が―――シャルロットだからなのか?
「……返事はすぐじゃなくていいよ。 いきなりこんなこと言われても、返事のしようがないと思うしね」
シャルロットはそういうが、本心では今すぐにでも聞きたいはずだ。
知りたいはずだ。
俺がどんな返事をするのかを。
好きな人に告白して、返事が保留のままで過ごすなんて、俺にはできない。
俺なら、気になって気になって仕方がない。
返事が遅くなれば遅くなるほど、俺はマイナスな方向へと考えてしまうだろう。
ならば、返事は早くしなければならない。
「……シャルロット。 少しだけ待っていてくれ。 この場で、必ず答えを出すから」
「っ! ……うん、わかったよ」
俺の言葉に、シャルロットは一瞬驚いたような表情をして、そして安心したような表情になった。
「今は落ち着いて考えたいから、少し離れてくれないか?」
「っ!! あ、そそ、そうだよねっ! 落ち着かないよねっ!」
俺がさらにそう言うと、シャルロットは慌てて離れてくれた。
シャルロットの方は見ていないが、きっと真っ赤になっているだろう。
「じゃ、じゃあ僕は、その間に体と髪洗ってるね!」
シャルロットはそう言うと、水音を立てながら湯船から上がった。
「こ、こっち覗いちゃダメだよ?」
「そんな余裕はないさ……」
今はとてもじゃないが、そんな余力はない。
答えを出さなければならないから、今そんなことをしている暇はない。
まあ、それがなくても覗く気はないけどな。
「そ、そんなに真剣に考えてくれるんだ……」
シャルロットが何か言ったように聞こえたが、水音と、思考に集中しすぎたせいでわからなかった。
「ふぅ……」
シャルロットが離れ、思考にも大分余裕ができたので、ようやく一息つけた。
風呂なのに、何か疲れたな……だが、嫌じゃない。
(誰かの好意を、こんなに嬉しく思ったことってあったっけ?)
俺は、過去を振り返る。
まだ俺が仮面をかぶり、自分を偽っていた頃。
刹那兄に助けられ、新しい家族ができた頃。
そして、自由になって、過ごしてきて。
刹那兄たちが俺を家族として受け入れてくれたときとは違った嬉しさが、俺の感情を染めていた。
(……シャルロットのこと、どう思ってんだろう?)
過去を振り返った後、俺は今、もっとも考えなければならないことを、考え出した。
シャルロットと出会ってからのことを、シャルロットとしてきたことを、思い出す。
そして、ふと気づいた。
(……あれ? どうして俺は、ずっとシャルロットといたんだ?)
俺は、シャルロットが編入して以来、何かしらの用がないときはほとんど、シャルロットと共に行動をしていることに気づいた。
それは、シャルロットが男だと、シャルルだと思っていた頃ではない。
女だとわかった以降も、それは変わっていなかった。
ずっと一緒にいたのは、ただシャルロットの正体をばらさないためだったのか?
本当にそうだったのか?
シャルロットなら、日常生活程度でばれるとは思えなかったし、俺もそう思ってた。
なら、ずっと一緒にいる必要はなかったはずだ。
なのに、俺はずっと一緒にいた。
(無意識のうちに……惹かれていた……?)
だけど、そう考えるなら、俺の無意識の行動にも、辻褄が合う。
好きな人とは、可能な限り一緒にいたいと思うのは、何も不思議じゃないだろう。
(俺も、シャルロットが好き……?)
そう思ったら、シャルロットを抱き寄せたことを、シャルロットの笑顔を思い出して、顔が赤くなったのを感じた。
そして、さっきまでの状況を思い出して、再びパニクった。
(す、すす好きな人に裸で抱きつかれた!?)
やばい。
何か、いろいろとやばい。
主に、俺の感情が。
普段なら抑えれるはずの感情が、一切合切抑えれない。
(落ち着け……落ち着くんだ俺ぇ……!)
俺は、深い深呼吸を何度もする。
「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……すぅ……」
ちゃぷ……。
「ごふっ! げほっげほっ!」
「い、一夏ぁ!? だ、大丈夫!?」
い、いかん……。
シャルロットが戻ってきただけなのに、自分の呼吸にむせるとは……。
……こ、これは、相当重症だな……。
「だ、大丈夫だ……むせただけだ……」
「そ、そう……? それならいいけど……」
「す、すまん」
やばい、なんか意識するのも気恥ずかしいぞ……。
ちゃぷ……。
どうやら、シャルロットは少し離れたところに浸かったようだ。
それはそれで助かるんだが、ちょっとがっかりな気も……、……俺、メンドクサイ奴だな。
「「………………」」
な、何か気まずい……。
これは、早く言わないとだめだよな……。
シャルロットも、俺の邪魔をしないようにって、黙ってるんだと思うし……。
……よしっ!
「あ、あのな、シャルロット」
「な、何かな?!」
話しかけただけで、驚いたような反応をするシャルロット。
まあ、告白が実るか実らないかの分かれ目だからな、そうなるか。
「さっきの返事なんだけど……」
「う、うん……」
俺にとっても、シャルロットにとっても、とても重要なことだから、シャルロットは俺の言葉を待ってくれた。
「俺も、シャルロットのことが好きだ」
「っ! ほ、ほんと、なの……?」
「ああ。 こんな状況で、嘘は言わない。 俺は、シャルロット・デュノアという女性が好きだ。 どこが、って聞かれたら、はっきりはわからない。 でも、これだけは確かだ。 俺は、お前に惹かれたってことだけは、間違いじゃない」
俺がシャルロットのどこを好きになったのかは、明確にはわかっていない。
でも、俺はシャルロットに惹かれて、好きになったのは間違いない。
将来的に、結婚したいと思えるほどに、俺はシャルロットが好きだ
だから、俺はシャルロットの告白を受け入れる。
そして、シャルロットが俺を愛してくれるのなら、俺はそれ以上の気持ちを返す。
「シャルロット・デュノアさん。 俺と、結婚を前提に、付き合ってくれませんか?」
「っ!?」
やべっ!
つい気持ちが先行しすぎて言わんでいいことまで言っちまった!
シャルロットも驚いてるじゃねえか!
結婚って、早すぎだろぉ!?
俺ってほんと馬鹿ぁ!!
「……はい。 こんな私でいいのなら、ぜひ」
「へ?」
つい、素っ頓狂な声を出してしまった。
まさか、あの告白でOKしてもらえるとは……。
「え、えーっと……じゃあ、これからよろしく、シャルロット」
「こ、こちらこそ、よろしくね、一夏」
晴れて恋人同士になったわけだが、この状況どうしよう?
流石に、いつまでもこの空間にいると、俺の理性がぶっ飛びそうだ……。
「と、とりあえず、先上がらせてもらうな」
「う、うん。 僕……じゃなくて、私はもう少し入ってるね」
どうやら、本格的に口調を戻そうとしているみたいだ。
シャルロットなりの考えなんだろうな。
だがまあ、今は風呂を上がることを優先しよう。
Side〜一夏〜out