第四十四話『刹那たちへの報告』
「で、どうしたんだい?」
「一夏が私たちに用だなんて、しかもシャルロットちゃんも一緒なんて、珍しい」
「まあ、その様子だと、大方の予想はついちゃうけどね」
風呂上り。
一夏とシャルロットは、刹那、琉歌、夜空の元へとやってきていた。
もちろん、場所は刹那たちの部屋(とされている場所)だ。
刹那たちの前で正座をしている一夏とシャルロット。
そわそわしていた一夏が、口を開いた。
「え、えーっとですね……この度、俺とシャルロットは、付き合うことになりまして」
「そうかい。 それで?」
刹那たちは、大方の予想がついていたので、驚いていなかった。
むしろ、それがどうした、といった感じだ。
「将来は結婚を考えています……」
「ふぅん、そう。 わかったよ」
「わ、わかったって、もっと言うことはないのか?!」
何か言われると思っていた一夏は、思わず声を上げていた。
「言うことって言われてもね、僕たちは一夏が好きになる人に、あまり口を挟む気はないからね」
「一夏は鈍感だけど、人を見る目はあるから、信じているのよ」
「言うことがあるとすれば、遅かったわね、くらいしかないわ」
上から刹那、琉歌、夜空の順に言っていく。
刹那たちは、一夏を束縛する気はない。
だから、一夏が好きになった人ならば、それを応援するし、邪魔はしない。
それがたとえ、対象が篠ノ之束であろうとも。
まあ、篠ノ之束の場合は、怒鳴るくらいはしていただろうが。
「で、シャルロット」
刹那は、シャルロットに言葉を掛けた。
「は、はいっ!」
シャルロットは、緊張で体ががちがちになっていた。
「そんなに緊張しなくていいわ」
琉歌は、苦笑しながらシャルロットにそう言った。
「さっき一夏は将来は結婚を考えているって言ったけど、君は、一夏と結婚することに、異議はあるかい?」
「ありません。 僕―――私は、一夏だからこそ、結婚したいって思えたんです。 だから、異議なんてありません」
シャルロットは、刹那の眼をしっかり見て、そう言い切った。
「そう。 嘘は見られなかったし、二人とも本気なんだね?」
「「はい」」
刹那の問いに、一夏とシャルロットは、アイコンタクトすることなく、同時に言った。
「なら、もう僕たちが言うことはないね」
「そうね。 二人とも、互いに相当惚れ込んでるみたいだし、問題はないんじゃない?」
「私は大丈夫だと思うわ。 だって二人とも、いい眼をしているし」
刹那たちは、それで意見を決定した。
まあ、最初から決まっていたのだが。
「ということだから、もういいよ。 あ、そういえば、明日に正体をばらすのかい?」
「はい、そのつもりです」
元よりそのつもりだったシャルロットは、即答する。
「苗字なんだけど、どうする?」
「どうするって、どういうことですか?」
刹那の問いに、シャルロットに疑問が浮かぶ。
「君はもう、シャルロット・デュノアじゃない。 もう、『デュノア』を名乗る必要はない。 だから、姓をどうするのかなって」
「あ、そうですね……」
刹那の説明で、疑問が晴れたシャルロット。
だが、それはもう決めていた。
「どうせなら、もう『闇影』にしちゃう?」
「いつかは『闇影』になるんだし、それでもいいと思うけど?」
「いえ、『闇影』の姓になるのは、正式に一夏と結婚したときにしたいんです」
シャルロットは、『闇影』を名乗るときは、正式に一夏と結婚するときと決めていたのだ。
だから、今は『闇影』を名乗ることはない。
「じゃあ、どうするの? 『デュノア』の姓を名乗るの?」
「いえ、母の姓である『フレミー』を名乗ろうと思っています」
父親にはいい思い出などないシャルロットだが、母親とは、思い出がたくさんある。
父親の姓である『デュノア』を名乗る必要がないのなら、大恩のある母親の『フレミー』を名乗りたいのだ。
「そう。 家族の繋がりを重んじるのは、いいことだよ」
刹那は、シャルロットの答えに、感心していた。
自由になれた証として、大切な母親の名を名乗るその思いに、感心していた。
「さて、今日はもう、休むといいよ。 明日はきっと、面倒なことになるだろうからね」
「今のうちに休んでおいた方がいいわ。 女子の勢力は、半端じゃないからね」
「それに、部屋も別々にされるだろうし、今のうちに二人っきりの時間を過ごせばいいわ」
正体をばらすことによって起こる出来事というのが、ある程度想像できるからこその忠告でもあった。
「じゃあ、そうさせてもらうよ」
「えっと、じゃあ失礼します」
二人は、仲睦まじく部屋を後にした。
二人が立ち去って数秒後、刹那たちは話し出す。
「あの子なら、私たちの秘密を話しても大丈夫そうね」
「そうね。 あの子なら、信頼できる。 で、どうするの、刹那?」
話していることは、己の力について、この世の理から外れる異常の力。
それを話すかどうか、ということだ。
「シャルロットなら、問題ないかな。 あの二人が別れることはありえないだろうし、彼女も十分信頼できる。 とりあえず、能力については教えておいても問題はないかな。 まあ、まだ夜空とカオスについては黙っておいたほうが無難かな」
「刹那がそう判断するなら、私たちはそれに従うまでよ」
「とりあえず、お義父さんとお義母さんに話しておきましょう」
「そうだね」
三人は、部屋から消えた。