第四十五話『転校生は転向性で転向姓』
一夏とシャルロットが付き合い始め、刹那たちに報告をした翌日。
一夏とシャルロットは、食堂で朝食を取って、その後にシャルロットは性別転換についての話があるので、一夏は一人で教室に来ていた。
「み、みなさん、おはようございます……」
教室に入ってきた真耶は、ふらふらとしていた。
その原因というのは、当然シャルロットのことである。
「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。 転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと……」
一夏は理由を知っているため動じなかったが、他のクラスメイトたちは、転校生という言葉に反応して、いっせいに騒がしくなる。
「じゃあ、入ってください」
「失礼します」
シャルロットは、女子の制服を着て教室に入ってきた。
「シャルロット・フレミーです。 皆さん、改めてよろしくお願いします」
一夏はシャルロットの制服姿に顔がほころんでおり、クラスメイトたちは、シャルロットが礼をすると、ぽかんとしたまま、礼を下げ返していた。
「ええと、デュノア君はデュノアさん―――じゃなくて、フレミーさんでした。 ということです。 はぁぁ……また寮の部屋割りを組み立てなおす作業が始まります……」
真耶がふらふらしていたのは、この寮の部屋割りの変更についてだった。
シャルロットとラウラが来たことで部屋割りを変えたばかりなのに、また帰ることになったので、精神的にもダメージが大きいのだ。
「え? デュノア君って女……?」
「おかしいと思った! 美少年じゃなくて美少女だったわけね」
「フレミーってどういうこと?」
「って、闇影君、同室だから知らないことは―――」
「ちょっと待って! 昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」
教室内が一気に喧騒に包まれ、それはあっという間に溢れかえる。
一夏は覚悟していたが、想像以上に面倒なことになりそうな気がしてきて―――
「一夏ぁっ!!!」
ばしーんと勢いよく教室のドアが開かれ、二組にいるはずの鈴がやってきた。
「死ねぇ!!!」
鈴はISアーマーを展開すると同時に、両肩の衝撃砲≪龍砲≫が開放された。
一夏はそれを防ぐために白式を展開しようとして、その間に一つの影が割り込んだ。
ズドドドドオンッ!
「あっ……」
怒りのあまり、衝撃砲を放ってしまった鈴は、冷静になって顔を青ざめさせた。
だが、一夏が無事なのを見て、安堵の息をついた。
「………………」
割り込んだ影の正体とは、あのラウラだった。
ラウラはシュヴァルツェア・レーゲンを纏い、一夏には通用しなかったAICで、鈴の衝撃砲を防いだのだ。
「まさか、お前に助けられるとはな。 ……ってか、あれだけ壊れたのに、もう使えるのか」
「……コアはかろうじて無事だったからな。 予備パーツで組み直した」
「なるほどな。 にしても、体は大丈夫なのか? まだ休んでいたほうがいいだろ?」
「そんなことよりも、大事なことがある」
ラウラは、一夏の眼をしっかり見て、そう言った。
「闇影一夏。 お前へのこれまでの非礼、この場で謝罪する」
「っ!」
ラウラが、あのラウラが、一夏に向けて頭を下げた。
一夏は、予想外のことに驚いていた。
「お前と戦って、私は思い知らされた。 私はあの人に憧れていただけで、お前のように前に進もうとはしていなかった。 だから私は、自分を知ろうと思う。 だが、今の私では、自分を知ることも、私を見つけることはできないだろう。 だからだな……」
どこか言い辛そうに口ごもるラウラ。
「私を、お前の傍に置いてくれ。 お前を見ていれば、私は私を見つけれる気がするんだ」
「………………」
一夏は返答に困っていた。
ラウラは織斑千冬を溺愛しているようだが、一夏への偏見はなくなっているから、別に傍に置いておくくらいは構わない。
だが、今の一夏には、シャルロットがいる。
傍に置いておくことが、シャルロットの気分を害するのなら、一夏はそれを拒否しなければならない。
生憎、場所が場所であるため、シャルロットと面と向かって話すわけもいかないし、保留というのも(主に女子たちの視線によって)居心地が悪くなる。
『一夏、私は大丈夫だよ』
シャルロットは、そんな一夏の様子に気づいたのか、シリウスを使って、一夏のランスロットを介して声を掛けてきた。
ちなみにこれは、ISのプライベート・チャンネルと同意のものである。
『いいのか? あいつとは、特殊な相互意識干渉を起こしたんだぞ?』
『一夏がちゃんと私を見てくれるって、たとえあの子が傍にいたとしても、浮気をしないって信じてるから』
『ありがとう、シャルロット。 やっぱり俺は間違ってなかった』
『今更間違いって言われても、許さないからね?』
『当たり前だ。 この想いが変わることはない。 それは断言できるから安心してくれ』
『大丈夫、最初から安心しているから』
一夏はほんの一瞬だけシャルロットに視線を向けると、一瞬だけウインクをした。
シャルロットはそれに気づき、シャルロットもウインクをした。
「……やはり駄目、か……?」
ラウラは、一夏が黙っていることが拒否の意思だと思い、不安げに一夏を見ていた。
「悪い、少し考えていた。 まあ、傍にいるくらいなら構わない。 ただし、俺たちに実害が出るようなら注意もするし、最悪突き放す。 それでもいいなら、好きにしろ」
一夏がそういうと、ラウラはパァっと表情を輝かせた。
「ありがとう、闇影一夏!」
「一夏でいい」
話が纏まったところで一息ついた一夏だったが、とある女子の一言によって、違う意味で一息つくこととなった。
「で、お風呂の件ってどうなったの?」
ラウラの介入によってうやむやになっていたことがぶり返されたのだ。
「っ!」
一夏は咄嗟にしゃがみ、一夏の頭部があった場所に、一筋のレーザーが通過した。
「わたくし、先ほどからずっと、どうしてもお話しなければならないことがありまして。 ええ、突然ですが、急を要することですの。 おほほほほ……」
レーザーを撃ったのは、瞳のハイライトがなくなったセシリアで、
「あたしも説明してほしいかなぁなんて、思うんだけど、話してくれない?」
ISを解除して、先ほどまでの怒りはなくなったものの、ご機嫌斜めな鈴。
(やっぱ面倒なことになりやがった! 誰だ蒸し返させたのは!?)
一夏はこの状況に、苛立ちが募っていた。
鈴なら話しようもあるのだが、あのセシリアは話のしようがない。
そこに、さらに乱入してくる影が一つ。
「……一夏、貴様どういうことか、しっかりと説明してもらおうか」
それは、日本刀を片手に一夏へと斬りかかった箒であった。
(やっぱこいつも来たか!)
一夏は脳を回転させ、どうするかを考える。
そして、一夏が導き出した答えは―――
「とりあえず逃げるぞ、シャルロット!」
「やっぱりそうなると思ってたよ」
―――とりあえずほとぼりが冷めるまで逃げるということだった。
一夏はシャルロットの手を取ると、セシリアと箒の攻撃を避けて、窓から飛び降りた。
ほとぼりが冷めた頃に戻ってきた一夏は、真実を混ぜた嘘をでっち上げて、鈴たちを納得させたということを追記しておく。