第四十六話『変化した一夏の朝の日常』
一夏は、日課の筋トレを終えると、シャワーを浴びて制服へと着替えていた。
部屋には一夏だけで、シャルロットはいない。
シャルロットは、性別を公にすると、部屋を変えられたのだ。
ちなみに、シャルロットのルームメイトは何の因果かラウラであった。
コンコン。
「一夏、いる?」
すると、シャルロットが一夏の部屋を訪ねてきた。
シャルロットはというと、部屋が変更されて以来、時々一夏の部屋にやってくるようになっていた。
「いるぞ。 鍵は開いているから、入ってくれ」
普段は鍵を閉めているが、日課終わりは鍵を開けているのは、これが理由である。
「おはよう、一夏」
「ああ、おはよう、シャルロット」
部屋に入ってきたシャルロットは、すでに身支度が整えられ、一夏の眼では可愛さが増して見えていた。
女子の制服姿のシャルロットを見るたびに、頬をほころばせる一夏は、相当惚れ込んでいることがわかる。
「今日はラウラは一緒じゃないんだな」
「うん。 ラウラなら、そろそろ起きるんじゃないかな」
「そうか」
稀に、シャルロットと一緒にラウラも来ることがある。
今日は、まだ寝ているようだ。
「今日も日課?」
「ああ。 一日でも休めば、取り戻すのに三日掛かるし、そもそも一日でも休んでしまえば、刹那兄の背中を追うことすら許されない」
「ふふっ、そうだね。 でも、刹那さんと一夏は、元が違いすぎるんだから、そんなに躍起にならないでね」
シャルロットは、一夏と付き合い始めて、刹那が、琉歌が、夜空がどんな存在なのかを聞いた。
驚きはしたが、同時に納得もしたこと以上に、そんな重大なことを教えてくれたということに、教えれてもいいと思えるほどに信頼してくれていることに、シャルロットはとても嬉しく思っていた。
「わかってるさ。 俺だって、刹那兄がどういう存在なのか、ちゃんと理解しているし、絶対に同等の存在になれないことだってわかってる。 俺はただ、刹那兄みたいに、大切なものを守れるくらいに強くなりたいだけだ」
「私も、出来る限りのことはするから、無理だけはしないでね」
「ああ。 もう、俺には何があっても守りたいお前がいるんだ。 無理して、シャルロットを悲しませることだけはしたくない。 大丈夫だよ」
昔の一夏は、ただ自分の身は自分で守れるだけの強さを得ようとしていただけだが、今の一夏はシャルロットという大切な人を守るために、自分だけでなく、シャルロットも守れるようにと、強くなろうとしている。
そして、シャルロットを悲しませないように、より自分の身を案じるようになった。
これは、刹那たちにとっても望んでいたことでもあった。
だから、刹那たちは一夏の恋人というポジションを取る人物を探していたし、後押しもしていたのだ。
「さて、準備も出来たし、そろそろ行くか」
「そうだね。 ラウラがちゃんと起きているかも確認しないといけないしね」
シャルロットはラウラのことを気に掛けており、まるで妹を案ずる姉、娘を案じる母親のようである。
前に一夏が、そんなシャルロットに『何か、お母さんみたいだな』と言って、『お、お母さんって……私まだ、娘がいるような年齢じゃないし、一夏以外との子供を作るつもりはないよ』と、互いに反応に困らせるということがあった。
それ以来、一夏はシャルロットとラウラを姉妹のように見ている。
「行くか」
「うん」
二人は、仲良く部屋を出た。
☆
時は少し飛んで朝のSHR。
普段は真耶が立っている筈の教壇に、織斑千冬が立っていた。
「今日は通常授業の日だったな。 IS学園生とはいえお前たちも扱いは高校生だ。 赤点など取ってくれるなよ」
IS学園は一応高等学校という扱いだ。
故に、当然一般教科も履修する。
もっとも、ISが中心のため、授業数は少ないが。
ここでは中間テストはないが、期末テストはある。
もしそこで赤点を取ってしまえば、夏休みは連日補修になるというルールがある。
「それと、来週からはじまる校外特別実習期間だが、全員忘れ物などするなよ。 3日間だが学園を離れることになる。 自由時間では羽目を外しすぎないように」
七月頭にある臨海学校は、初日は丸々自由時間で、臨海学校というので当然海があり、先週ほどから女子のテンションは高い。
(そうだ、シャルロットと買い物に行こう)
(一夏を誘って、水着買いに行こうかな)
そこで、生徒唯一(?)のカップルである、一夏とシャルロットは、同じことを考えていた。
「ではSHRを終わる。 各人、今日もしっかり勉学に励めよ」
「あの、織斑先生。 今日は山田先生はお休みですか?」
クラスのしっかり者こと鷹月静寐がそう言った。
確かに、いるはずの真耶がいない。
「山田先生は校外実習の現地視察に行っているので今日は不在だ。 なので山田先生の仕事は私が今日一日代わりに担当する」
「ええっ、山ちゃん一足先に海に行ってるんですか!? いいな〜!」
「ずるい! 私にも一声かけてくれればいいのに!」
「あー、泳いでるのかなー。 泳いでるんだろうなー」
一気に騒ぎ出す女子一同。
織斑千冬はそれを鬱陶しそうに言葉を続けた。
「あー、いちいち騒ぐな。 鬱陶しい。 山田先生は仕事で行っているんだ。 遊びではない」
それに、『はーい』と揃って声を上げる女子一同。
無駄にチームワークのあるクラスであった。