第四十七話『二人の邪魔はさせない』
「よく晴れたな。 初デート日和だ」
「うん、そうだね」
週末の日曜日。
快晴の空の下、一夏とシャルロットは街へと繰り出していた。
その傍には、美男美女(比率は1:2)の夫婦がいた。
まあ、その夫婦というのは、言わずもがな刹那と琉歌、夜空なのだが。
「さて、僕たちは邪魔はしないように別行動を取るけど、何かあったら言ってよ」
「ああ、わかった。 でも、刹那兄たちだってデートだろ。 俺たちだって邪魔したくないから、どうしようもないときだけ、連絡させてもらうよ」
「そうかい? 遠慮しなくてもいいのに」
「私たちはただ、貴方たちの初デートの成功だけを祈ってるの」
「問題は排除したいのよ」
相変わらずの過保護な刹那たちだった。
「大丈夫だって。 邪魔するような奴は、俺がブットバスカラサ」
「それならいいけど」
狂気的な笑みを浮かべる一夏の言葉に、笑みを浮かべる刹那はおかしいと思うのだが、この場にいる女性人は、誰一人としておかしいとは思っていない。
「それじゃあ、僕たちは行くよ」
「ああ」
「行こうか、琉歌、夜空」
「ええ」
「そうね」
刹那は、琉歌と夜空を両隣に引き連れて、去っていった。
「んじゃ、俺たちも行こうか」
「うん」
それを見送ると、一夏たちも歩き出した。
その手は、しっかりと握り合って。
☆
「………………」
「………………」
そんな一夏とシャルロットを、物陰から見つめる人影が二つあった。
一夏たちが人混みに消えると、その二人はその物陰から出てきて、一夏たちが消えた方向を見つめていた。
一人は躍動的なツインテールの少女で、もう一人は優雅なブロンドヘアーの少女。
つまりは、鈴とセシリアであった。
「やっぱり一夏とアイツは……」
「り、鈴さん!?」
一夏たちを見て、落ち込み気味な鈴と、若干病んだ瞳のセシリア。
そんな二人に、近づく影が一つ。
「貴様ら、何をしている?」
「「!?」」
突然背後から声を掛けられ、驚いて振り返る二人。
そこにいたのは、忘れたくても忘れることの出来ない少女だった。
「あ、アンタは!」
「いつの間に!?」
「そう警戒するな。 私はお前たちに危害を加えるつもりなどない」
「し、信じられるものですか! 再戦というのなら、受けて立ちますわよ!?」
先日の一件以来、二人はラウラへの懐疑心を強くしていた。
いくら、ラウラが軟化したとはいえ、それは簡単に消えるものではなかった。
「だから、私は戦う気はないと言っている。 それに、あのことは悪かったと思っている。 すまなかったな」
一夏と戦ったことにより軟化したおかげで、ラウラは謝罪するということを覚えていた。
謝られたことに、二人は一瞬ぽかんと呆けてしまう。
「それで、はい、そうですかで済むわけがないでしょう……!」
「悪いけど、謝られたって、すぐに許せないわよ」
「別に許してもらわなくても構わない。 私はそれだけのことをしたのだからな」
あまりの変わりように、本当にラウラかと疑いたい鈴とセシリアだが、最近のラウラを知ってはいるので、信じるしかない。
「さて、私はそろそろ行かせてもらうぞ。 でないと一夏を見失ってしまう」
そう言って立ち去ろうとするラウラを止める鈴とセシリア。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! アンタ、もしかして一夏を追う気!?」
「追ってどうするつもりですの!?」
「どう、と言われてもな。 私はただ、一夏の傍にいたいだけだ」
あっさりと、堂々と言われ、若干怯んでしまった鈴とセシリア。
「それは止めてもらえるかな?」
「「「!?」」」
突然の声に、驚く三人。
まったく気配もなかったのに、幽霊の如く突如として目の前に現れた刹那たちに、眼を見張った。
「悪いんだけど、二人の邪魔をしないでくれないかな?」
「あなたたち程度の尾行なら、一夏ならすぐ気づいちゃうだろうから、止めてあげて」
「今の二人に変な気を遣わせたくはないの」
三人の申し出に、真っ先に承諾したのは、ラウラだった。
「そうですか……。 残念ですが、お三方がそう仰るのなら、私は構いません」
ラウラは一夏を敬うようになってから、一夏の目標である刹那、そしてその妻である琉歌と夜空も敬うようになっていた。
「……あたしも構いません……けど、あの二人について教えてください」
「鈴さん!?」
鈴の言葉に、答えを聞きたくないのか、信じたくないのか、セシリアが止めるように声を上げた。
「……それは、僕たちが言うべきことなのかな?」
刹那は、鈴の問いに、そう返した。
「…………いえ、やっぱりいいです……」
鈴は、刹那のその返しでわかったのか、答えを言わなくていいと、そう言った。
「で、ラウラと鈴は承諾してくれたけど、君はどうするのかな?」
「出来れば荒事は起こしたくないんだけど……」
「一夏たちのためだから、仕方がないわよね?」
若干というか思いっきり脅し文句を言う琉歌と夜空。
「わ、わかりましたわ……」
流石にそれには逆らえないようで、素直に引き下がったセシリア。
表情が若干青ざめているのは、気のせいではないだろう。
「それならよかった。 今日は、邪魔しないであげてね」
「はい、わかりました」
「わかり、ました……」
「わ、わかっていますわ……」
三人の返事を聞くと、現れたときとは違い、普通に立ち去った。