小説『IS インフィニット・ストラトス 〜闇“とか”を操りし者〜』
作者:黒翼()

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第五話『刹那たちの日常と異変』



あのミサイル事件、通称『白騎士事件』から四年。
ミサイルの被害は復興され、白騎士事件の傷跡は無くなったとされている。

世界は、あの事件での死者はゼロと公表したが、少なくとも琉歌の両親が死んでいる。
国が、世界が権力で揉み消したのだ。
ISの有用性を示すために、死者はゼロということにしておきたいのだ。
国は、死者を知る者の口封じのために、反発した人々に、金と脅しで黙らせたのだ。
もしもばらせば、『世界中で暮らせなくなるぞ』と、そう脅したのだ。

そして、そのISは驚異的な速さで普及していき、すでにIS世界大会モンド・グロッソが開催された。
優勝者は織斑千冬。
専用機『暮桜』とともに、圧倒的な強さで勝ち上がり優勝した。
それも当然。
他の参加者とは、明らかに操縦技術が違ったのだ。

白騎士事件後、異常な速さで普及したISは、すぐに世界各国で研究が始められ、今は第一世代型ISが普及しているが、それは最近のことだ。
織斑千冬は異常な操縦技術で、明らかに次元が違う操縦技術を魅せた。
それも当然だ。
なぜなら、ISの生みの親である篠ノ之束の親友であり、あの『白騎士』の操縦者だとほぼ断定されているのだ。
白騎士ならば、他の人間よりも圧倒的に操縦時間が違うので、あの操縦技術の差も肯ける。
それに、刹那は確信していた。
織斑千冬が『白騎士』であることを。
刹那は、あの時―――『白騎士事件』の『白騎士』の動きを、鮮明に覚えている。
そして、モンド・グロッソの織斑千冬の戦闘を全てを見て、確信した。
織斑千冬の動きは、四年前の白騎士の動きと差異こそあるものの、同じだということに気づいたからだ。

「おはよう、刹那」

「おはよう、琉歌」

そしてその刹那と琉歌は、同じ部屋で寝ている。
幻夜と夢乃が、同じ部屋にさせたのだ。
刹那は初めは拒否していたのだが、琉歌が乗り気だったため、刹那が先に折れたのだ。
今や刹那もそれに慣れてしまい、まるで夫婦のようである。

「父さん、母さん、おはよう。 相変わらず早いね」

「おはようございます」

リビングにいたのは、左腕に義手を付けた幻夜と、車椅子に乗った夢乃の姿だった。
幻夜のしている義手は、見た目はまるで本物の腕で、重さも普通の腕と同じだが、義手である。
実際は不恰好で、この義手には刹那が少し手を加えて『己が栄光のためでなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』の能力が限定的に発動させれるようにしたのだ。
これがこの能力の靄が掛かっていた部分であった。
『能力を付与し、限定的に発動させる』ことが出来るのだ。
だが、付与できるのは機械だけであり、擬態させる程度しか力しか発動できない。

「ああ、おはよう」

「朝から熱々ね♪」

「二人には言われたくないな」

幻夜と夢乃は、事件以降も未だにラブラブで、イチャイチャしている。

「さて、今から朝食作るから少し待っててくれ」

「急いで作りますから、待っててくださいね」

以前までは夢乃が作っていたのだが、夢乃が立てなくなり、料理がし辛くなったため、刹那と琉歌が作るようになったのだ。

「本当にありがとね」

「本来なら俺がする立場なのだが、この腕ではし辛いし、生憎、俺は料理が出来んからな……」

「ずっと言ってるけど、気にする必要は無いよ。 僕が間に合わなかったのがいけなかったんだから」

「料理を覚えるにはちょうどいいですし、気にしないでください」

最初は夢乃ほど美味くなかった二人の料理だが、今ではかなりのレベルに達している。
例えるのなら、店を出しても通用する程度である。
十四歳でそこまでの腕を持つのは、転生者故か、はたまた二人の才能か。
どちらにせよ、末恐ろしいものである。

「お待たせ」

「お待たせしました」

朝食は和・洋どちらでもいい家なので、本日はトーストにベーコンエッグ、サラダである。
ジャムやマーガリンなども充実している。

「お、今日はパンか」

「あまり待たせるのはどうかと思ったからな。 どうせならもう少し遅く起きてもいいんだぞ?」

「どうも目覚めてしまうの。 体に染み付いたリズムが変わらないのよ」

「俺は夢乃の補助をするようになって、同じように起きるようになってしまった。 まあ、早起きして悪いことは無いし、これはこれでいいんだ」

夢乃は未だに下半身が動かないので、幻夜が補助をしている。
初めは琉歌が夢乃の補助をしていたのだが、幻夜に義手が付いて、義手に慣れた頃から変わるようになったのだ。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさん」

「お粗末さまでした」

「片付けるかな」

これが、今の闇影家の日常だった。

「じゃあ、僕は出かけてくるから。 何かあったら連絡して」

「ああ」

「あ、待って刹那。 私も行くわ」

「じゃあ待ってるから準備してきて」

「うん」

これも日常である。
初めは琉歌も家に置いて一人で行っていたのだが、二年前くらいから時々一緒に来るようになったのだ。
やることは、自身のトレーニングである。

「お待たせ」

「じゃあ、行ってきます」

「行ってきまーす」

「ああ、行ってらっしゃい」

「気をつけるのよー」

二人は仲良く出かけるのだった。




 ☆




「さて、今日は琉歌もいることだし、模擬戦闘でもするか」

「そうね。 じゃあ私はいつも通りで行くわ」

二人がいるのは、家から然程離れていない廃ビルである。
その地下で、二人は刹那の力で闇の幕で辺りを覆い、誰にも邪魔されない状況で特訓をしていた。
いくら強力な能力やスキルを持っていても、持ち主が扱いきれなければ、動けなければ宝の持ち腐れでしかない。
今では、刹那も琉歌も相当なレベルにまで達している強さである。
琉歌は同じ、または似た武道の師範代レベルなら、勝てずともいい勝負が出来るくらいである。
刹那に到っては大抵の師範代に勝てるレベルである。
二人は、いつもこの場所で、己の能力、そして、自身の技術を高めているのだ。

「うん、やっぱりこれが一番しっくり来るな。 ここなら誰にも見られないから、思いっきり使える」

琉歌が光から取り出したのは似たような二振りの剣。
その名は『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』と『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』。
失われし宝剣と、神造の聖剣という、神秘の二刀流である。

「なら、僕もこれだ」

刹那が闇から取り出したのは『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』と対を成す元聖剣の魔剣。
『Fate/Zero』のバーサーカーの正体『サー・ランスロット』の真の宝具こそ、この魔剣の正体。
その名は『無毀なる湖光(アロンダイト)』。

「刹那って、本当にバーサーカーよね」

「まあね。 後は『狂化』と『精霊の加護』に『対魔力』があれば完璧だね」

今の刹那には、新たなスキル『無窮の武練A+』が増えている。
このスキルは、いかなる状況下においても体得した武練は劣化しなくなるというものだ。
これにより、バーサーカーは狂化して理性を失っていてもなお、アーチャーの『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を完封してみせたのだ。
故に、いくら怒り狂おうと、その武練を劣化させること無く、常に最高の武練を行使することができるのだ。

「さて、やろうか」

「手加減してよ? 私じゃあ刹那には勝てないんだから」

「本気出したら、琉歌の綺麗な肌に傷つけることになるからやらないよ」

「もう、ちゃんとやってよ?」

「わかってるって」

ちなみに、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』も『勝利すべき黄金の剣(カリバーン)』も『無毀なる湖光(アロンダイト)』も闇で刃を覆い、模造刀のようにしてある。
そうでなければ、使ったりしない。

「いつも通り、石が落ちたら開始だよ」

「うん」

「じゃあ、行くよ」

刹那は手ごろな石を拾って投げる。
その石が落ちた瞬間、異変は起こった。

「「っ!?」」

突然、黒い結晶が膨大な風を発生しながら出現したのだ。
そして、その黒い結晶からは異様で異常で、それでいて冷たくも暖かい、気配と威圧感があった。

「何、これ……」

呆然と琉歌がつぶやく中、刹那はそれが何なのか何となく理解していた。

「……これが何かはわからない。 ただ、これは僕の物だというのはわかる」

「え? それって……」

「これは、神様がくれた、僕の能力の一つだ」

刹那は、己の直感に従って、その黒い結晶に触れた。
その瞬間、刹那の意識が切り替わった。



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