第五十話『邪魔者への制裁』
「さて、これからどうすっかねぇ?」
「とりあえず、その性格を捻じ曲げましょう」
「そのほうが、世のためよね」
「ちょっとあんたたち! こんなことしてどうなるか、わかっているんでしょうね!」
「テメェに発言権はないから、黙ってろ」
刹那たちは、とある女を拉致っていた。
なぜこうなっているかというと、少し時間を遡る。
―――三十分前―――
「何もないといいんだけどね」
「でも、一夏ってこういうときに限って何かに巻き込まれるよね、いつも」
「そうならなければいいんだけど……」
一夏たちと別れ、鈴たちにお願いをした後、刹那たちは久しぶりのデートをしていた。
だが、そのときでも気にしているのは一夏とシャルロットの初デート。
過保護すぎる故に、大切な弟と、その未来の妻の記念すべき初デートが成功できるようにと、気に
なって仕方がないのだ。
「まあ、何かあったら白ハロに連絡するように言ってあるし、とりあえずは僕たちのほうで、このまま楽しもうか」
「そうね」
「……と、言いたいところだけど、無理そうよ?」
刹那がそう言った直後、その白ハロからの連絡が来たのだ。
内容は『カラマレタ。 カラマレタ』。
それを見ると、刹那は即座に『映像を回せ』という指示を出した。
指示を出した一秒後、白ハロがその映像を送ってきた。
白ハロからの最初の連絡から、僅か五秒の早業であった。
「これは……」
「……一夏って、どうしてこうも巻き込まれるの?」
「……もう、呪われてるんじゃない?」
映像を見た刹那たちは、呆れたようにそう言った。
「でもまあ、一夏とシャルロットの初デートを邪魔した挙句、二人の気分を害させたんだ……」
普段よりも若干低い声で呟く刹那。
「それ相応の苦しみを与えなきゃね……」
その口元は吊り上り、楽しそうな表情をしていた。
もっとも、眼は一切笑っていないのだが。
☆
「……男が逆らうなんて、よく生きてこれたものね。 まったく、これだから立場のわかってない男は……」
ぶつぶつ言いながら歩く女。
余程イライラしているのか、周りの異変に気づいていない。
人気が一切ないということに。
そして、背後から忍び寄る影にも気づかない。
「わかってないのはテメェだ、クソアマ」
「!?」
直後、その場からその女が突如として消失した。
そして、そこには誰もいなくなった。
女は、誰からも気づかれることなく、誰にも知られることなく、消失した。
―――そして、冒頭へと始まる。
刹那は、女の前で屈み、口角を上げながら話しかける。
「さぁてと、どうしてほしい? 言ってみろよ」
『己が栄光のためでなく』を使用し、姿を変えている刹那は、それに合った口調で話している。
ちなみにその姿とは、一夏が誘拐された際に助けたときと同じ姿だ。
つまり、かきねのていとくんだ。
「一体、貴方たちは何者なの!? 私に何の用よ?!」
「だから、質問に答えろよ。 テメェはただ、俺たちの質問に答えてりゃあいいんだよ」
「ちなみに、いくら時間が経とうと、いくら叫ぼうとも無駄よ。 ここは絶対に気づかれない」
「貴女はただ、自分の愚かさを呪いなさい」
ここは、刹那の『闇を操る能力』によって、影の中へと引き摺り込んだ世界だ。
これは、外の世界の光を光源とするため、電気もつけない密室空間で引きずり込めば、世界は真っ暗だ。
だが、それは琉歌の『光を操る能力』でカバーされているため、明るい空間となっている。
ちなみに、女はここがどこなのか、どうやって連れてこられたのか、何もわかっていない。
「さぁて、質問はもうどうでもいい。 こっちで勝手にやらせてもらう」
「な、何よ……止めなさいよ……」
すぐさま逃げたいのだが、正体不明の黒い縄に縛られている所為で、動けない。
「何、怖がらなくてもいい。 ちょぉっとその性格を捻じ曲げるだけだから」
笑顔で近づいてくる刹那たちに、異様な威圧感と不気味さを感じ、涙を流しながらどうにかして逃げようとする女。
だが、刹那の闇による拘束は解けない。
「い、いやぁああああああああ!!!」
女は、恐怖のあまり、ついに悲鳴を上げた。