第五十一話『シャルロットの水着選び』
「ちゃんと更生するんだぞ」
「はい! もう二度と、男性を見下すことはしません!」
闇から解放され、外界へと出た女性は、拉致される以前とは打って変わり、清清しい表情で刹那たちに頭を下げていた。
何があったのかというと、延々と現代の風潮の歪みを耳元で呟かれ続け、強制的に歪みを矯正させられたのだ。
解放された今では、刹那たちをまるで教祖のように崇めるほどである。
刹那たちがやったことは、一種の洗脳である。
まあ、世のためになるので罪悪感はほんの僅かしか湧いていないが。
もっとも、その罪悪感も、少しすれば消え去るのだが。
「ふぅ……」
『己が栄光のためでなく』を解き、普段の姿へと戻る。
「お疲れ様、刹那」
「これで、また一人、まともな一般人が増えたよ」
「そうね。 もう、あの人は別人よね。 刹那って、洗脳まで出来たのね。 でも、あまり驚きはしないわ」
すでに刹那に染まっている琉歌と夜空は、もう刹那がどんな常識はずれなことをしても驚かなくなっている。
慣れというのは、恐ろしいものである。
「さ、これで矯正も終わったし、遊びに行こうか」
「そうね」
「また何かあれば、またやればいいだけだしね」
刹那たちは、何事もなかったかのように、雑踏へと消えていった。
☆
「これなんかいいんじゃないか?」
「一夏! まじめに選んでよ!」
一夏とシャルロットは仲睦まじく、シャルロットの水着を選んでいた。
だけど、シャルロットは顔を赤くして、一夏に抗議の声を上げていた。
なぜなら、時々一夏は際ど過ぎる水着を候補に上げるからだ。
シャルロットはそれを着た自分を想像してしまい、顔を赤くして一夏に押し返すのだ。
「至ってまじめだぞ。 まあ、周りが女しかいない状況だから、渡すんだけど」
一夏が際どい水着を渡すのは、着てくれたら嬉しいな〜的な考えで、周りが女子しかいないとわかっているから渡しているのだ。
後、想像して赤面するシャルロットが見たいからというのもあった。
もし公共の場で着るようなことがあれば、一夏は修羅と化すだろう。
「私はこんなの着ないからね! 持ってくるならもっと普通なのを持ってきてよ!」
「わかったわかった。 次からはもっと普通なの持ってくるよ」
赤面するシャルロットに満足したので、まじめに普通なものを選び出す一夏。
さっきまでは、まじめにシャルロットが赤面するものを選んでいたのだ。
まあ、さっきまでのまじめなおふざけの際に、三つほど良さそうな物を見つけていたので、大して迷わずにそれを渡す。
「これなら大丈夫かな。 うん、ちょっと待ってて。 着替えてくるから」
「おう、わかった」
シャルロットは、一夏に渡された三つの水着を持って、更衣室へと入っていく。
一夏は、女性水着売り場に男一人なので、居づらいと思いつつも、大して気にせずに待っていた。
しばらくすると、シャルロットが水着を着て、更衣室のドアを開けた。
「どうかな?」
「うん、やっぱり可愛い。 似合ってるよ」
最初にシャルロットが着たのは、セパレートとワンピースの中間のような水着で、上下に別れているそれを背中でクロスして繋げた構造の水着だ。
色は鮮やかなイエローで、シャルロットとマッチしている。
要は、原作の水着だ。
「じゃあ、次の着るね」
再び更衣室のドアを閉め、着替えてカーテンを開ける。
シャルロットが着ていたのは、薄いピンク色のビキニだった。
腰は紐で縛り、上は首裏で縛り、胸の谷間にはリングのあるデザインだった。
「こ、これ、ちょっと恥ずかしいかな」
リングの部分が気になるようで、その辺りに手を当てていた。
「大丈夫、似合ってるって」
「と、とりあえず、次の着るね」
逃げるようにドアを閉めるシャルロット。
先ほどよりも時間が掛かってドアが開くと、薄い水色の水着を着たシャルロットがいた。
それもビキニで、下はフリルスカートで、上はフリルがあしらわれ、胸の谷間はリボンのようになっているデザインだ。
「どうかな?」
「うん、似合ってる。 可愛いよ。 やっぱりシャルロットは何でも可愛いな」
しみじみと頷きながら、シャルロットを褒める一夏。
惚れ込んでいる一夏からしてみれば、結局シャルロットなら何でも可愛いのだ。
「一夏はどれが一番良かった?」
「どれもよかった。 それぞれシャルロットの可愛さを引き立てるから、どれも捨て難い」
「どれにするの? 私は黄色の奴が良かったんだけど……」
それを聞いた一夏が、思いついたように言った。
「よし、じゃあこうしよう。 三つとも全部買おう」
「え? 全部? 流石に三つもいらないかなぁ、なんて思うんだけど……」
「気にするな。 俺が買うから」
何も問題ないと言わんばかりに言う一夏。
「使わないかもしれないのに、三つも買うのは……」
「使わないなら使わないで構わない。 金なら刹那兄のおかげで滅茶苦茶あるんだ。 はっきり言ってあまり使わないから、こんなときにしか使えないんだ。 多少無駄になっても気にしない」
ちなみに一夏の通帳には、普通に一億入っている。
刹那の『黄金律A』は、尋常じゃないほどにお金を呼び寄せ、一億くらい一夏に上げてもまったく痛手にならないのだ。
そのおかげで、一夏は滅茶苦茶お金があり、大して使うこともなかったので、滅茶苦茶貯まっている。
水着の一つや二つ、三つや四つ買ったところで、まったく気にならないのだ。
というより、それだけお金がある所為で、一夏の金銭感覚は狂っているのだ。
「それに、たとえプールとかに行かなくても、たまにでいいからシャルロットがその水着を着ている姿を見れればいいから」
「一夏、それが本音だよね……」
実際、一夏はお金が使いたいというのもあるが、それ以上にシャルロットの水着姿がいつでも見たいというのが本音だ。
「シャルロットの可愛い水着姿、いつでも見たいな。 俺が買うから、三つとも買おうぜ」
「わかったよ……じゃあ、お言葉に甘えて、買ってもらうね」
シャルロットはそんな一夏に呆れながらも、了承した。
何だかんだで、シャルロットもおかしくなってきているのだ。
「じゃあ、すぐ着替えるから待ってて」
「おう」
シャルロットはドアを閉めて、私服へと着替える。
一夏がシャルロットを待っていると、そこへ身に覚えのある気配が二つ、近づいてきた。
「あ、闇影君。 こんにちわ。 奇遇ですね」
「闇影。 貴様がなぜここにいる?」
その気配とは、真耶と織斑千冬だった。
「こんにちわ、先生。 俺がここにいる理由? んなもん、水着売り場にいるんだから、水着買いに来たに決まってるじゃないですか」
一夏は織斑千冬を見たことにより、若干眉根を寄せたが、別に気にしないことにした。
「それはわかる。 が、なぜ女性売り場にいるんだと聞いているんだ」
「そりゃあ、女性物が欲しいからですよ」
「や、闇影君!? まさかそんな趣味が!?」
真耶は、一夏の言葉に思いっきり勘違いをしていた。
「んなわけないでしょう!? 彼女と一緒に買いに来ただけですって!」
一夏はあまりにもずれた真耶の発言に、度肝を抜かれた。
「よ、よかったです……か、彼女?」
一夏の言葉を理解した真耶は、彼女という単語に引っかかった。
「お待たせ、一夏……って、山田先生に織斑先生!?」
そこに、一夏の彼女であるシャルロットが出てきた。
シャルロットは、真耶と織斑千冬がいるとは思わず、驚いていた。
「ふ、フレミーさん!?」
「何だ、やっぱり闇影の彼女はお前だったのか、フレミー」
どうやら、織斑千冬は気づいていたようだった。
「え、ええ、そうですけど……」
混乱してるのか、普通に答えるシャルロット。
「まあ、気をつけろよ。 闇影に彼女がいるとなると、学園は騒がしくなるだろうからな。 ではな、闇影、フレミー。 仲良くしろよ」
そういうと、立ち去っていく織斑千冬。
まるで、一夏から逃げるかのようだった。
「え、えと、じゃあ、また学園で会いましょう! 織斑先生! 待ってくださいよ〜!」
真耶は、それを追いかけるように去っていった。
「……さて、会計を済ませようぜ」
「う、うん、そうだね」
真耶たちが去った後、一夏たちは、シャルロットの三つの水着を購入して、デートを続けたのだった。