小説『彼女はボクのアイドル(完結)』
作者:masa-KY()

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第7話 〜 限りない愛の決意(3)

 数日後、夢百合香稟と連章琢巳の新たなる報道が巷を賑わした。
 “夢百合香稟 連章琢巳との交際は誤報!”
 “事務所内のいざこざが原因か!?”
 そんな報道が流れたにも関わらず、潤太の気持ちは相変わらずのままであった。
 彼は今、のどかな昼下がりの学校の教室にいた。
 クラス内は、やはりこの一連の報道に、やんややんやの大騒ぎであった。
「よ、相変わらず黄昏てんなぁ。」
 潤太に声を掛けたのは、彼の友人の色沼であった。
「おまえさ。いい加減その暗い雰囲気やめにしないか?見てるとこっちまで気が滅入るよ。」
「放っておいてくれ...。」
「まったく!彼女、めちゃめちゃ怒ってたぞ。ほら、この前の日曜日の。たしかルミちゃんだったかな?」
「あ、そう...。」
 抜け殻のような潤太からは、やる気といったものがまったく感じられない。まるで、無気力を絵に描いたような姿だった。
「そういえば、もう知ってるよな。香稟ちゃんの交際の誤報のこと。」
 もちろん、その辺の情報は、すでに潤太の耳には届いていた。
「ああ、知ってるよ。朝のワイドショーでやってたから...。」
「何でも、同じ事務所にいた九埼まりみが勝手にやったらしいな。オレの見た雑誌によると、九埼ってのはどうも、事務所と確執があったみたいなんだ。まぁ、今回の事件はさ、彼女にとっては、事務所を出ていくいいきっかけだったんじゃないかな?」
「ふ〜ん。難しいんだな、芸能界ってのは...。」
「まぁな。この報道と一緒にさ、九埼まりみの事務所移転報道も一緒にやってたよ。でも香稟ちゃん不幸だよな。九埼の裏切り行為の標的にされちゃったんだから...。」
「......。」
 潤太は、これからどうすればいいのか、その答えは未だに見つかってはいない。
 たとえ、香稟の交際報道が誤報だったとしても、今更彼女にどう接したらいいのかわからず、彼の心情は行き場のないせつなさに満たされていた。

* ◇ *
 その日の夜である。
「さてと...。それじゃあ行ってくるか。」
 潤太は夜にも関わらず、スケッチブックを抱えて静まり返った屋外へと出掛けていった。
 彼は、描きかけの風景画の色づけに手間取っていたため、自分の目で新しい色を見つけようと考えていた。
 夜7時過ぎ、一人の少年が夜の闇へと消えていった。

* ◇ *
『キンコーン...』
 潤太が出掛けて数十分、唐草家に来訪者が現れた。
 居間でくつろいでいた潤太の母親は、予想もしない呼び出し音に戸惑いながら、玄関先の電灯を灯す。
 シルエットに映るその来訪者は、髪の長い体の小さな女の子であった。
 カギを開けて玄関の扉を開けた母親。
「どうも、こんばんは...。」
「あらぁ!あなたは確か、えっと、そうそう、アイドルの!」
「ご無沙汰してます。夢百合香稟です。こんな時間にすみません。」
 母親は、いきなり来訪した香稟に暖かく接していた。
「何言ってるの。そんなこと気にしなくていいわよぉ。」
「あの...。潤太クンは?」
「あの子ね。さっき出掛けちゃったのよぉ。何でも、描きかけの絵の色がどうのこうのって言ってたわね。」
 香稟は残念な思いに肩を落とした。
「...そうですか。この時間ならいると思ったんですけど。」
「ゴメンなさいねぇ。でも、そんな遠くには行ってないはずよ。確かねぇ...。」
 母親は腕組みしながら、潤太の行き先を思い起こそうとした。
 数秒後、その答えは香稟の耳へと伝わった。
「そうそう!駅前のタカラビルの屋上って言ってたわ!」

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