次に続くあまりに長い時間、全てがそのままだったので、自分はとっくに殺されて、もうこの世には存在していないのだとサミュエルは錯覚しかけたほどだった。
クレイの右手はサミュエルの項に置かれたままで、微かに傾けた頭の天辺から前髪が金の漣のようにサミュエルの額に零れ落ちる。それがちょっとくすぐったく、物凄く心地よかった。
永遠の半歩手前で少年は堪えきれずに溜息を洩らした。
「あ・・・…」
同時にクレイも声をあげた。
「ちょっと待て!」
本来ならそれはこっち、殺される側の台詞だと思ってサミュエルは我に返った。
目を開けると、クレイの引き攣った顔。
「おい、今、何と言った?俺が何だって?おまえが何だって?」
「だから、俺はおまえの?6番目の犠牲者?なんだなって。おまえは全米を震撼させている狂気の連続殺人鬼〈右足収集家〉……エルンストは5番目の犠牲者だった……」
「俺が?殺したって?あのクソガキを?」
サミュエルの首から腕を外すとクレイは叫んだ。
「そりゃ、殺っちまいたい奴だったことは認める。だけど、俺はそんなことしていない!」
「だって、さっき言ったじゃないか。エルンストを埋めたって」
「ああ、埋めたさ。埋めたとも!」
クレイは拳を白い壁に叩きつけた。
「おまえの力になりたかったんだ。こうも言ったろ?おまえの為なら何だってやる、いや、やっちまったって……」
棒立ちになったまま、暫くクレイは荒い息を吐いていた。
再び口を開いた時、クレイの声は幾分落ち着きを取り戻していた。
「俺はおまえを責めるつもりはない。おまえがあいつを殺したって、おまえにはそれをする理由があった。だって、野郎はおまえに酷いことをしたんだから」
エルンスト・オレンジは自らの借金のかたに従兄弟をレイプさせるような男だった。
「おい、待てよ、クレイ?」
「昨日、俺がスパーキィに揺り起こされて目を醒ますとおまえの姿はなかった。俺は心配になってすぐ家を飛び出したさ。他に心当たりもなかったんでプレローズ屋敷へ直行した。ちょうど邸の前の道に差し掛かった所で、おまえが玄関から一目散に浜へ駆け去るのが見えた。その様子が尋常じゃなかったんで、何があったのかと邸の中へ入って──そして、アレを見つけたんだ」
人騒がせなエルンスト・オレンジの死体。
隣りに落ちているサミュエルのスポーツバッグ。
「俺はすぐ合点が行った。おまえが殺しちまったって……」
その瞬間の状況は手に撮るようにリアルに描写できる、とクレイは胸を張った。荷物を取りに戻った少年と出くわす悪辣な従兄弟、少年の胸に甦る凌辱への怒り……
「だから、俺は思った」
そういった後、クレイは黙り込んでしまった。
本人が意識しているかどうか定かではないが。両手で髪を掻きあげるのは困った時に見せる彼の癖の一つだ。サミュエルはそれをするクレイを見るのが大好きだった。今回も充分にそれをやってから、クレイは腕を組んで壁に凭れかかった。
「俺は思った。死体をなんとかすべきだと。勿論、バッグも」