6
クレイはすぐには、エルンスト・オレンジを殺したのが自分ではないと言い張るサミュエルの言葉を信じようとはしなかった。
「今更隠すなよ。水臭いぞ」
両手を開いて抗議する。「死体遺棄に協力したんだぜ。なあ、今となっちゃあ俺だって、れっきとした共犯者なんだから」
とはいえ、最終的にはクレイもサミュエルの主張を受け入れざるを得なかった。
白いベッドルームで、寝台に並んで腰を下ろした二人は、本来ならもっとロマンチックに語り合うべき自分達の?今後?について相談した。
「で?」
この日何十回目かのため息をつきながらサミュエル。「これからどうしよう?」
「どうしようって言われても、なあ・・・…」
クレイは仰け反って天井を仰いだ。「埋めちまったからなあ……」
どんな時でも人生に必要なのは希望と適度のジョーク、というのがクレイの父、ジェイムズ・バントリーの口癖だったのでクレイは微笑んでサミュエルを振り返った。
「まさか、また掘り起こして居間に戻そう、なんて言い出すなよ?」
「それだ!」
サミュエルはパッとベッドから飛び降りた。
クレイが親切にも運んでくれたバッグを引っ掻き回してネイビーブルーのTシャツを取り出す。それを頭から被りながら、
「なあ?埋めた場所は何処さ?」
クレイの指摘した?一番ひとけのない?夜明け前の海辺に二人は立っている。
そこは波打ち際からはかなり奥まった崖の斜面。重なり合った岩の間に大小の割れ目があって、その内の最も大きい割れ目──別の言い方をすれば小さな洞窟──こそクレイがエルンストの為に選んだ場所だった。 場所の選択自体はけっして 悪くない、とサミュエルは感動すら覚えながら思ったものだ。昨日の午後、初めてここを教えてもらった時には。
「完璧だな!」
実際サミュエルは口に出して叫んだ。だって、わざわざこんな所を覗きに来る物好きな人間なんていないだろうから。これに対して、クレイは苦笑して首を振った。
「子供達を除いては、な」
こういう場所は子供たちの領域だ。かく言う自分自身──
「あのな、元々ここは、俺の秘密の遊び場だったんだよ」
それを告白した時のクレイの横顔の何とステキだったことか。鼓動が聞こえるくらい近くに立っていたサミュエルには、濡れた水着のままこの秘密の洞窟を出たり入ったりしている金髪の小さい男の子の姿が見えるような気がした。
その瞬間、サミュエル・ケリーは殆んど安らかと言っていい気分に陥ってしまった。海辺で拾った宝物達……すべすべした小石やガラスの欠片、萎びたヒトデに貝殻、古い王冠等々と一緒に、同じ場所に埋めてもらった従兄弟を思って。
だが今、 日の出前の漆黒の世界にあって安らぎは消し飛んでいた。
「静かにしろ、スパーキィ!」
鼻から口元へかけてきっちりと覆ったバンダナ越しにクレイは珍しくきつい調子で愛犬を叱った。
「今度吠えたらお仕置きだぞ!」
(スパーキィが吠え続けるのも無理はない。)
すっかりしょげ返って、自分の膝の後へ逃げ込んだ犬を見てサミュエルは内心同情した。
今まさに、二人はエルンスト・オレンジを掘り起こしたところなのだ。
掘り返したエルンストを見て、サミュエル自身も鳴きたい気分だった。