「ママの言う通りさ。おまえみたいな手合いは危ないんだ」
クレイが反論しないのでサミュエルは続けた。
「海辺で軽く声掛けて、その日の内にデキちまうなんて、ほんと俺達、最低だよ」
洞窟の中より外はもっと真っ暗だった。遠く風が鳴っているのが聞こえるが潮の流れが変わるにはまだ早いはず。スパーキィは眠ってしまったのか、すっかりなりを潜めていた。
「じゃ、どんな出会い方したかったんだ?どっかの王族の舞踏会なら満足だったのか?会員制のテニスコートとか、プレッピースクールの図書館?大学の友愛会の旗の前?選べよ、言ってみろ!」
クレイは煙草を投げ捨てると岩の台から飛び降りた。
「そこで寝っ転がってりゃいい。そこが何処だろうと俺が行ってスパーキィのリードを外して襲わせるさ。『悪い、俺の犬なんだ』」
「……クレイ」
「顔から火が出るくらい陳腐な手だ。でも、俺はあの時真剣だった。だから何度でも再現してやる。それを?軽く声掛けて?なんてよくも言ってくれるぜ、クソッ……」
サミュエルも煙草を捨てた。
光り輝いている従兄弟の方ではなく濃い闇の方へゆっくりと進んでクレイを捕まえる。背を向けて立っていたその肘の辺りをギュッとつかんで、
「ごめん」
「別に、いいさ」
「俺のママも海辺で引っ掛かったクチなんだ」
クレイは何も言わなかった。
「ママはいつも言ってた。砂浜を突っ切って来たパパはその時、王子様に見えたって。くだらないだろ?〈リトル・マーメイド〉じゃあるまいし、なあ?」
クレイは答えようがなかった。
今やサミュエルは全体重を委ねて寄りかかっている。
「俺、どうしていいかわかんないよ、もう・・・…」
少年の肩に腕を廻してからクレイも白状した。
「実は、俺もさ」
「怖いよ」
サミュエルはブルッと身震いした。
「俺達、ド壺に嵌まっちゃってる。なあ?今現在、こんなとこ誰かに見られでもしたら──それこそ、二人とも確実に犯人扱いだぜ?」
「動くなっ!」
鋭い光が二人を刺し貫いたのは、まさにその瞬間だった。
7
フラッシュライトの光がピタリと二人を照準していた。
けたたましくスパーキィが吠え始める。
クレイとサミュエルはお互いを支え合ったまま凍りついたように突っ立っていた。あんまり驚いたので全神経が麻痺してしまって声を出すことも、まともに考えることすらできなかった。
光源は洞窟の入口付近。その同じ方向から声がした。
「動かないで!動くと撃つわよっ……!」
警告は同じ声で繰り返された。
「動かないで!銃を持っているのよ。見えないの?」
当然のことながら光を浴びせられているクレイとサミュエルには全く視界が利かなかった。
「み、見えないよ」
サミュエルは率直に返した。クレイは目を細めて──この場合正真正銘、眩しかったからだ──訊いた。
「警官か?」
「そうよ。あ、だめ!動かないでと言ってるでしょう?……その犬は大丈夫?その子にも動かないよう言ってちょうだい!動物を撃ちたくないのよ」
クレイは慌てて命令した。
「スパーキィ、伏せ!じっとしてろ!」
「OK]
その後、声はピタリと止んで洞窟内は静まり返った。