眩しいライトの中でクレイとサミュエルはひたすら次の指示を待った。手だってどうすりゃいいんだ?大抵の場合、すぐに『頭の上で組め!』と命じられるはずだが。サミュエルはクレイの肘の辺りにしがみついている両手を引っ込めるべきか、クレイはクレイでサミュエルの肩に廻した腕についてこのままでいいのかどうか思案に暮れた。だが、下手に動いて撃ち殺されるのだけは二人とも絶対にごめんだった。
「……驚いたわね!」
たっぷりと間隔を置いてから、発せられた声は指示というより独白に近かった。
「あの猟奇犯がこんなに若かったなんて!おまけにカップルだとは……!」
光源に向かって、クレイとサミュエルは同時に叫んだ。
「俺達は違う!」
「ふざけないで!この状況で誰が信じると思うの?」
更に声は続く。
「現に私、一部始終見せてもらったんだから。夜明け前にあんた達が二人してスコップ担いでやって来て、犠牲者を掘り起こしてるところ」
ここでいったん言葉を切った。
「もっと言えばね、埋めてるところも……!」
サミュエルはクレイを睨んだ。クレイは喘いで天を仰ぐ。
「そもそも昨日埋めてるところに出くわして──その際、後を付けたんだけど暗くて見失っちゃったのよ。で、ここをずっと張っていたわけ。ほら、よく言うでしょ?『犯人は必ず現場に戻る』……!」
声の主は勝ち誇って締め括った。
「長丁場を覚悟したけど、早かったのね?昨日の今日ですもの!」
堪りかねて、半歩体を前へ出すとクレイは弁明した。
「俺達は犯人なんかじゃない!とにかく、話を聞いてくれ!」
「動かないで!」
ここでクレイの腕をつかんでいたサミュエルの手に微かな力が籠る。ハッとしてクレイはサミュエルを見た。 少年は声を低めて、
「クレイ、あいつどうも……警官じゃないぜ」
「どうしてそう思う?」
「さっきからずっと声が同じだ。でも、警官はけっして一人では行動しない。だとすると……銃を持ってるってのも嘘かも」
「だが、他の警官は周りを固めているのかも」
「それなら、とっくに取り押さえられていていいころだぜ、俺達」
時間がかかり過ぎだと少年は言うのだ。本来なら今頃、自分達はエルンストの横の砂の上に捻じ伏せられて〈ミランダ準則)を読み聞かせられていてしかるべきだと。
「なるほど」
クレイは横っ飛びに飛んで──フォールを逃れる要領で、だ──死人に預けっぱなしだったランタンを引っ掴んだ。
突然のこの行動にフラッシュライトはついて来れなかった。飛び去ったクレイを捜して洞窟中に光の輪が交錯する。その間に、腹這いになりながらクレイ・バントリーは、ライトを掲げて洞窟の入口に立つ声の主の正体をハッキリと見た。
ジィーンズにTシャツ姿、中肉中背の若い女。サミュエルの予測したとおり銃器の類は一切携帯していない。代わりに──
女は胸にカメラを下げていた。