少年はため息をついた。
「なあ?やっぱり警察へ行って、有りのまま全てをブチまけた方がいいんじゃないのか?」
片目を瞑って顰めた顔。今朝のサミュエルは一段と子供っぽく見えた。キュート過ぎる。
「確かに、それも一つの手ではあるわね」
タオルで髪を拭きながら、今しも衣通葵里子のご登場だ。亡きこの家の当主ロヴ・プレローズの紫色のバスローブを身に纏って。
(ああ、やめてくれよ。)
俄かにクレイは胸騒ぎがしだした。
「警官どもはあんた達に飛びつくでしょうね。最初の片足のない死体が見つかって以来、4ヶ月。容疑者を捕まえたくてウズウズしてるんだから」
バスローブの紐をきっちりと結び直してから葵里子は微笑んだ。
「そして?マスコミも加わってあんた達のこと丸裸にして、ある事無い事、触れられたくない処、見られたくない部分……全て嗅ぎ出されて凌辱され続けるってわけ」
サミュエルが何か言おうとして口を開きかけたが葵里子が指を一本──シャッターを切る時使う指だ──突きつけたので少年は顔を背けた。
「で、その間に第6、第7の犠牲者が出るって寸法よ。ブラボー!」
葵里子はクレイの横へやって来て手摺りにむこう向きに寄り掛かった。そうして、幾分声を落して話し始めた。
「ケニー・ウォール。さっき私が言った第一犠牲者の男の子なんだけど、彼の取り扱いがまさにそれそれだった……」
クレイが肩越しに尋ねる。
「あんたのモデルだったって言う……?」
「そうよ。彼、男娼だったの」
クレイもサミュエルもちょっと身じろぎした。
「私はその時、LAで若い街娼達、男の子も女の子も、撮ってたんだけど。ケニー、とってもいい子だった。私、彼のこと凄く気に入っていたのよ。何て言えばいいかなぁ?そう、?純粋?でね」
「ケッ、男娼のくせにか?」
少年は犬を柵から引き離すのを諦めて、代わりに自分も両腕を引っ掛けて体ごと凭れかかった。
クレイを間に挟んでサミュエルと葵里子は正反対の風景を見ている。海と空と。
「ファインダーを覗くとね、見えて来るものがあるのよ」
葵里子の声が今まで聞いたことがないくらいたおやかだったのでクレイはハッとして顔を上げた。
「どんなに偉ぶっていても臆病な奴もいる。着飾っていてもカスもいる。写真家になってファンダーを覗けば覗くほどわかるようになった。人間の真髄って、思っている以上に隠し様のない露骨なものよ。特に無機質の機械を通すと逃れる術がない。痛々しくていじらしい……まあ、こんなこと一般の人に言っても無理か」
葵里子は苦笑した。
「とにかく、ケニーは良かったのよ。いつもキラキラしてた。エネルギーに溢れてて、生きてることを心から楽しんでて、とびっきりの写真が撮れたわ」
「それ、ヌードだったのか?」