「どう?これで私がこの島へやって来た理由がわかったでしょ?ズバリ的中よ!次の犠牲者が出るとすればここを置いて他にないと踏んでたんだから……!」
コーヒーテーブルに事件に関する新聞記事の切り抜きと全米地図を挟んだファイルを拡げて葵里子は声を張り上げた。
地図には赤いマーカーで4つ、印と番号と日付が点けてある。
最初のそれは3/24(金)カリフォルニア州LAの男娼、ケニー・ウォール。二つ目は4/15(土)カンザス州カンザス大の大学生、パウル・ドウマス。三つ目が5/8(土)イリノイ州シカゴ市の高校生トニィ・サンチャゴで、4番目は5/15(木)ペンシルバニア州フィラディルフィアの花屋の店員ジョニー・スチィブンス。
クレイとサミュエルの目の前で今しも葵里子は5つ目の印を書き加えた。6/15(木)エルンスト・オレンジの赤丸を。
こうして見ると、宛ら、転々と血の零れた痕のようだった。呪われた悪しき魔物が西から東へとヨロヨロ旅をしている。切り取られた足を引き摺りながら?
たえられなくなってサミュエルは目を逸らせた。
「ハッ!安心したよ!一般人がこれほど熱心なんだ。その筋はもっと完璧にプロハァイリングしてくれてるはず。こりゃ、犯人が捕まるのも時間の問題だ」
「だといいけど」
次に悲劇が起こるとすれば東海岸だと、漠然と推理していたのは事実だ。とはいえ、自分がマサチュウセッツのこの島にいたのは偶然以外の何物でもない。そのことについて敢えて葵里子は言及しなかった。
折角ここまで来たんだから(それもチャチな広告の仕事絡みで)かねがね訪れてみたいと願っていた風光明媚なこっちの島々に足を伸ばしたに過ぎないことは、黙っていても罪にはなるまい。胸の前で指を組んで、タンクトップと揃いの色に塗った爪を見ながら葵里子はそう判断した。信頼関係の構築にはその方がずっといい。現に、ブロンドのクールビュウティーの方は心底感銘を受けた、と言う表情で訊いてきたではないか。
「なあ、これらのデーターから犯行地点意外に何かもっと読み取れることはないのか?例えば、犠牲者の共通点とか?」
葵里子はこれには正直に答えた。首を振って、
「残念ながら、新聞等に書かれている以上のことは私にも皆目見当がつかないわ。あまりにもインパクトが有り過ぎる?右足切り。それから、被害者が全員男性で10代後半から20代始めの若者達ってこと。もう一つ、これは重要よ、遺体に性的虐待の痕跡は一切見受けられない──このくらいね」
「俺の意見を言おうか?」
クレイが冷蔵庫から出して来たアンバーエールに手を伸ばすとサミュエルは言った。
「あんな所にエルンストを永遠に隠しとけるとは思えない。で?あいつが見つかって身元が割れたら警察は一直線に俺の所へやってくるだろうさ。だって、奴は俺を頼ってカリフォルニアから遙々訪ねて来た俺のクソ従兄弟なんだから。現にプレローズ屋敷のガレージには親父のベンツやチェロキーの横にあいつのイカレたローライダーが並んでると来た」