サミュエルはソファの、自分の隣りに腰を下ろしたクレイを見た。父のジィーンズにオックスフォードシャツを着た麗しの恋人。クソッ、ペールブルーが何てよく似合うんだ?
「どうせなら、何故、車ごと始末してくれなかったんだよ?こんな近くにあいつだけ埋めるなんてどうかしてる!」
「そんな言い方あるか?」
自身もビールを1缶手に取って、プッシュトップを押しながらクレイ、
「俺だって死体の扱いなんて初めてだったんだ。それに考えても見ろ。奴の車は派手過ぎる。あんなんで走り回ったら全島民の目を釘付けにすること間違い無しだ。『はい、何時何分に目撃しました』『コッドフィッシュパークをアクセル全開でブッ飛ばして絶壁から落っこちました』『運転していたのはブロンドのバカ、荷物は死体でした』ってか?……で、担いで行くにも重過ぎたんだ。野郎、あそこが限界だよ!」
リビングの窓越しにクレイは洞窟の方向を指差した。「おまえの従兄弟って割りには、あいつ重量級だったぜ?」
ビールを一口飲んだ後でクレイはニヤリとして付け足した。
「おまえだったら軽ーくあの千倍は担いで行けたのにな!誓ってもいい。おまえならもっと遠く、砂丘を越えてお望みの場所に埋めてやれたさ。何処がいい?チルドレンズ・ビーチか?」
「ご親切にどうも。どうせ俺は痩せっぽちだよ。悪かったな?何だよ、?クローン?が好みか?ならハナからそう言え。俺に声なんか掛けるな!」
パシャ……!
独特の硬質の音。クレイとサミュエルは同時に振り返った。
二人が座るソファと向かい合わせの、白いロイドチェアに腰掛けていた葵里子の両手にはいつの間にかカメラが挟まれていて──
葵里子は言い争っている二人を撮ったのだ。
「はい、もう一枚!」
立て続けのシャッター音。パシャ、パシャ……
クレイとサミュエルはいきりたって立ち上がった。
「何だよ!」
「勝手に写真なんか撮るなっ!」
「だって、面白いんだもん、あんた達。いい構図だわ。〈仲間割れする連続殺人容疑者カップル〉!……はい、もう一枚!」
パシャ……
冴えたシャッター音は水の流れる音に似ている。それから、雨の音にも。クレイとサミュエルの怒りは急速に冷却した。
二人は決まり悪げに相次いでソファに腰を沈めた。
それを見届けてから、改めて葵里子は口を開いた。
「ねえ?実の処、あんた達を真犯人じゃないと私が直感した理由は、こうしてファインダー越しに見たあんた達の姿と、それからもう一つ──死体を?埋めた?ことなのよ」
「?」