小説『とくべつの夏 〈改稿版〉』
作者:sanpo()

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 「パターンが違うわ。今までは死体は放っておくのが常だもの。見てごらんなさい」
 写真家は自分がスクラップした記事の数々を顎で指し示すと、
 「ほら、まるでディスプレイよろしく死体を何処にでも無造作に放り出している……けっして隠そうとしていない」
 その通りだった。
 最初のケニーから始まって、4人が4人とも右足を膝から下、切り取られた他は、各人それぞれの馴染みの場所で普段通りの姿で発見されている。死体発見現場がイコール犯行現場なのだ。
 「やっぱり警察へ行くよ!」
 決然とした面持ちでサミュエルは立ち上がった。少年は真っ直ぐに青く塗られた玄関ドアへ歩を進めながらクレイに向けて、クレイにだけ話しかけた。
 「聞いたろ?この女が今指摘した点をプロが気づいてないはずはない。ってことは、多少こんがらがらせたとは言え、俺達が真犯人として吊るされる恐れはないんだ。だとすれば──?警察に出頭する?これが1番の解決法さ!」
 クレイもサミュエルを追いかけた。
 「わかった。なら、勿論、俺も一緒に──」
 「やめてっ!」
 ギョッとして二人は立ち止まった。
 一瞬VTRを巻き戻して夜明け前の洞窟にいるような錯覚に陥る。女にいきなりフラッシュライトを浴びせられた昨夜のあの瞬間もやっぱりこんな格好で二人して立ち竦んだものだ。こんな体験をするのは──一日に2回は多過ぎる……!
 葵里子も腰を上げた。
 コーヒーテーブルの上、記事の切り抜きや全米地図の間に静かにカメラを置く。
 「まだわからないの?これは絶好のチャンスなのに?」
 クレイもサミュエルも同時に聞き返した。
 「……何の?」
 「動機が何であれ、あんた達は死体に手を加えてしまった。その事実を知っているのはそれをやったあんた達と、それから……実際に死体を作った犯人だけだってこと」
 二人が何も言わないので葵里子は続けた。
 「犯人は戸惑うに違いないわ。ショックを受けてるはずよ。犯した第5の犯罪がいつまでたっても露見しないばかりか、実は死体も消え失せているんだもの。そしたら・・・…絶対、何らかの反応を示すはず」
 クレイとサミュエルはまだ何も言わない。目を見開いたままお互いを支えあって立っている。
 葵里子は更に具体的に言ってのけた。
 「真犯人は犯行現場に舞い戻ってくるに違いないわ。と言うことは、私達こそ犯人を捕まえるのに1番いい位置にいるってことよ。このチャンスを逃す手はないわ!」

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