12
真夜中。
ベッドの中でこっそりとサミュエルは自分の足に触ってみた。
途端に、昼間のクレイの言葉が鮮明に甦ってくる。この足は人魚の尾鰭ってわけじゃない……
(その通りだ。フフ、上手いこと言うじゃないか?)
サミュエルは微笑まずにはいられなかった。
隣でクレイも目を醒ました。寝返りを打つと、自分の足を愛おしそうに撫でている少年のその手に手を重ねる。思わず口を突いて出た台詞は、
「で?このハイカラな刺青は……例の深海の魔法使いの婆さんに彫ってもらったのかな?俺の人魚姫?」
昼間は?人魚じゃない?と感動させておいて、すぐこれだ。サミュエルは怪訝そうに眉を寄せてクレイを見た。
「何のことだよ?」
「1度訊いてみたかったんだ。西では流行ってるのか?こういうの……」
「だから、何のことだよ、クレイ?」
「おまえが足の裏にいれてる刺青さ。凄く……セクシーだな?」
次の瞬間、瀟洒なコテージが揺れて物凄い音が響き渡った。
間伐入れず1階の主寝室から葵里子が飛び出して来た。
「何の騒ぎよ?飛行機が墜落したの?それとも地震?でなきゃ、まるでベッドがひっくり返ったような音だったわよ!」
「その通りだ、クソったれ……!」
狭い階段を転がり落ちてきたクレイ。殆んど全裸の状態だった。
「サミーの奴、いきなり俺のベッドをひっくり返しやがった!」
「あら!」
すかさずシャッターを切る葵里子。気づいてクレイは手に引き摺っていたシーツを慌てて肩から羽織った。
そうしながらも訊かずにはいられない。
「あんた、それ、いつも持ち歩いてるのか?」
ターコイズ色のナイトガウンの上からぶら下がっているカメラ。
「……寝てる時も?食べる時も?ひょっとしてトイレも、か?」
「勿論よ」
シャッターを切る手は休めずに葵里子は頷いて、
「メイクラブの時もね。それが写真家魂ってもんだわよ!」
サミュエルも駆け下りて来た。こちらもトランクスだけの魅力的な姿だった。抱えていた枕をくクレイ目掛けて投げつける。
「信じた俺がバカだった!この、クソ金髪!」
「ウアッ?」
枕の次はソファに並んでいたクッションが飛んできた。それも尽きると、ソファの横の床の上、直起きされた花瓶──は重すぎるので、挿してあった百合の束を摑む。
「おまえは、やっぱり最低の浮気者だ!」