小説『とくべつの夏 〈改稿版〉』
作者:sanpo()

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 真夜中。
 ベッドの中でこっそりとサミュエルは自分の足に触ってみた。
 途端に、昼間のクレイの言葉が鮮明に甦ってくる。この足は人魚の尾鰭ってわけじゃない……
 (その通りだ。フフ、上手いこと言うじゃないか?)
 サミュエルは微笑まずにはいられなかった。
 隣でクレイも目を醒ました。寝返りを打つと、自分の足を愛おしそうに撫でている少年のその手に手を重ねる。思わず口を突いて出た台詞は、
 「で?このハイカラな刺青は……例の深海の魔法使いの婆さんに彫ってもらったのかな?俺の人魚姫?」
 昼間は?人魚じゃない?と感動させておいて、すぐこれだ。サミュエルは怪訝そうに眉を寄せてクレイを見た。
 「何のことだよ?」
 「1度訊いてみたかったんだ。西では流行ってるのか?こういうの……」
 「だから、何のことだよ、クレイ?」
 「おまえが足の裏にいれてる刺青さ。凄く……セクシーだな?」
 次の瞬間、瀟洒なコテージが揺れて物凄い音が響き渡った。

 間伐入れず1階の主寝室から葵里子が飛び出して来た。
 「何の騒ぎよ?飛行機が墜落したの?それとも地震?でなきゃ、まるでベッドがひっくり返ったような音だったわよ!」
 「その通りだ、クソったれ……!」
 狭い階段を転がり落ちてきたクレイ。殆んど全裸の状態だった。
 「サミーの奴、いきなり俺のベッドをひっくり返しやがった!」
 「あら!」
 すかさずシャッターを切る葵里子。気づいてクレイは手に引き摺っていたシーツを慌てて肩から羽織った。
 そうしながらも訊かずにはいられない。
 「あんた、それ、いつも持ち歩いてるのか?」
 ターコイズ色のナイトガウンの上からぶら下がっているカメラ。
 「……寝てる時も?食べる時も?ひょっとしてトイレも、か?」
 「勿論よ」
 シャッターを切る手は休めずに葵里子は頷いて、
 「メイクラブの時もね。それが写真家魂ってもんだわよ!」
 サミュエルも駆け下りて来た。こちらもトランクスだけの魅力的な姿だった。抱えていた枕をくクレイ目掛けて投げつける。
 「信じた俺がバカだった!この、クソ金髪!」
 「ウアッ?」
 枕の次はソファに並んでいたクッションが飛んできた。それも尽きると、ソファの横の床の上、直起きされた花瓶──は重すぎるので、挿してあった百合の束を&#25681;む。
 「おまえは、やっぱり最低の浮気者だ!」

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